オールブラックスが世界最強の理由~稲沢裕子の読むラグビー&ときどき映画案内 

ラグビーって「ルールがわからない」「なんだか難しそう」と思っている人が多いのでは。そんなラグビーのワールドカップ(W杯)が、2019年9~11月に日本で行われる。世界最高峰の試合を日本にいながらにして生で観戦できるのだ。このチャンスをみすみす逃すのはもったいない。そこで、”にわか”ファンの一人として、ラグビーを気軽に楽しむ本や映画を紹介していきたい。開幕まで1年を切った今、一緒にラグビーの魅力に触れてみませんか。

前回W杯の南ア戦で、南アフリカ人の観客と(右は筆者)

「オールブラックス」はなぜ世界最強軍団か?

真っ黒いジャージから「All Blacks」=オールブラックスという愛称で知られるニュージーランド代表が来日した。あす10月27日、横浜・日産スタジアムで、オーストラリア代表(愛称ワラビーズ)と対戦する。前回W杯(イングランド)決勝戦の顔合わせが、来年のW杯決勝戦が行われる会場で早くも激突する。さらに11月3日には、東京・味の素スタジアムで日本代表が挑む。

前回W杯のパスやチケット

オールブラックスは、ラグビーだけでなく世界最強のスポーツチームといわれる。2009年から世界ランキング1位をキープ、すべての対戦相手に勝ち越し、8割を超す勝率は、スポーツ界全体を見渡しても群を抜く。

ニュージーランドは人口480万で、東京都(約1370万)の半分以下しかない。国際統括組織「ワールドラグビー」によれば2017年の登録選手数は16万人で、日本(11万人)より多いものの、フランスやオーストラリア(27万人)、イングランド(36万人)、南アフリカ(53万人)より少ない。しかも、日本の柔道やアメリカの野球のように、その競技が生まれた地というわけでもない。ラグビーはイングランド発祥のスポーツだからだ。

そんな国の代表チーム、オールブラックスがなぜ強いのか、その謎を解きたくて、「問いかけ続ける-世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範」(ジェイムズ・カー著)を手に取った。

強さの秘訣は”キーウィ改善”

『問いかけ続けるー世界最強のオールブラックスが受け継いできた15の行動規範』ジェイムズ・カー著、 恒川正志訳、東洋館出版社、2017年11月

オールブラックスは、ラグビーW杯が創設された1987年、優勝杯「ウェブ・エリス杯」を最初に手にする。ところがその後、優勝から遠ざかる。2004年にはオーストラリア、南アフリカとの3か国対抗で最下位となり、選手たちは宿泊先で泥酔して対戦相手に介抱された。

この本の筆者は、オールブラックスが起死回生に取り組む2010年にチームに密着取材した。翌11年、自国開催のW杯で悲願の優勝を遂げるのを見届けた後、核となる人々にインタビューを行った。ビジネスコンサルタントとしての知見と重ね合わせ、低迷する組織が最強のチームに生まれ変わる鍵を、ラグビーのポジション数15になぞらえて、15章にまとめたのがこの本だ。

オールブラックスの転機は、2004年の最悪な状況下、コーチ陣とキャプテンたち8人で3日間に渡って行った「最も重要な話し合い」だったという。今年、神戸製鋼コベルコスティーラーズ総監督に就任したウェイン・スミスは、当時オールブラックスのアシスタント・コーチ。この話し合いに加わった一人だ。

チームのあり方を徹底的に見直した結果、「選手を刺激し、一翼を担いたいと思わせる環境の創出」を戦略的な目標に据え、8年後に向けたスローガンが生まれた。「優れた人が優れたオールブラックスとなる」

日本企業の強さの鍵として知られる「KAIZEN」を文化ととらえる筆者が”キーウィ改善”(キーウィはニュージーランド人の愛称)と評する改革がここから始まった。

「決しておごることなく、小さなことを大事にしよう」とロッカールームを掃除する。「パスを回せ。リーダーはリーダーを育てる」と、リーダーシップをコーチ陣から選手たちに移した。「チャンピオンは余分にやる」と、真っ先にジムに来て最後まで残り、トレーニングを1セット追加する。

挙げられたこれら15の行動規範には、スティーブ・ジョブズから本田宗一郎、ニーチェまで、あるいはF1レースからクリケットまで、多彩な人物や歴史、他競技からの学びが織り込まれている。

ラグビーに関する知識を得られると期待すると、あてが外れるかもしれない。でも、ここには、ビジネスや日々の暮らしに通じる貴重な学びが凝縮している。

マオリ文化への敬意

キーウィ改善を象徴する15の行動規範でどん底から復活したオールブラックス。しかし彼らの強みはそれだけではないようだ。

オールブラックスといえば、試合前の「ハカ」が見所ともなっている。「それ何?」という人はこちらの動画(畏敬に満ちたハカに迫る=ニュージーランド政府観光局サイト)で見てほしい。

ハカは、ニュージーランド先住民マオリの伝統の踊りで、「戦士の集団が敵に戦いを挑むときの儀式」のことだ。マオリ族は「”大地を揺るがす低い音”によって祖先が呼び集められ、この場所での戦いに力を貸してくれる」と信じている。ニュージーランドのラグビーチームがハカを使うのは1888年までさかのぼる。その伝統を継いだオールブラックスが試合前に行うハカ「カ・マテ」も、1820年頃に作られたものだ。

2005年には、W杯のプレッシャーで早々に崩れる状況を改善するため、精神科医や空手の黒帯保持者、芸術家などあらゆる分野の専門家のアイデアを吸収し、オールブラックスのために新しいハカ「カパ・オ・パンゴ」が編み出された。伝統のうえにチーム独自のアイデンティティが加わった。

こうしたハカを含むマオリの伝統が、オールブラックスをさらに強くしているようだ。本書では全編を通じ、強く印象に残るマオリの格言が散りばめられている。

「ほかの人から長所をほめられるようにしなさい」

「サツマイモはどれだけ甘いかを自分で言う必要はない」

「問いかけを続けさせなさい。それがその人の能力なのだ」

「一番高い雲を目指せ。たとえそれがつかめなくても、高い山には手が届く」

「リーダーの食料は何か。それは知識である。コミュニケーションである」

「どんな成功も私ひとりで成し遂げられたものではない。それは私たち全員の努力の賜物だ」

ニュージーランドは、先住民マオリと入植した白人とが契約を交わして成立した国家だ。マオリ語と英語が公用語となっており、両言語の歌詞で国歌が書かれている。国としても、マオリの伝統を背負って成り立っているといえる。

15のポジションごとに役割が異なり、一人一人がリーダーとしてプレーすることが求められるのがラグビーだ。そんなラグビーにおけるオールブラックスの強みは、ダイバーシティや多様性を尊重し合うニュージーランドの文化に根差しているのではないか。そんなことを考えさせられた。

27日と11月3日、ハカを見たあなたは何を感じるだろうか。ぜひ現地で耳にとどろくハカと、肉体をぶつけ合う迫力を見てほしい。

【もっと知りたい人に】

マオリの文化を知るなら、映画『クジラの島の少女』(ニキ・カーロ監督、2002年)がお勧めだ。各国の映画祭で受賞し、アカデミー主演女優賞にもノミネートされた作品。ただし、ラグビーは一瞬映るだけ。

オールブラックスについて知りたい人は、今年から神戸製鋼でプレーするダン・カーターの話をまとめた「ダン・カーター自伝――オールブラックス伝説の10番」(東洋館出版社、2016年7月)を。ジャパンラグビートップリーグNTTコミュニケーションズシャイニングアークスのロブ・ペニー・ヘッドコーチ(HC)、パナソニックワイルドナイツのロビー・ディーンズHCらが能力を引き出したことも知ることができる。

【プロフィル】稲沢裕子(いなざわ・ゆうこ)

1982年読売新聞東京本社入社。社会部、生活部、経済部記者、ヨミウリ・オンライン編集担当から女性向けサイト「大手小町」編集長。調査研究本部主任研究員を経て、2018年4月から昭和女子大学特命教授。2013年6月、日本ラグビーフットボール協会の女性初の理事に就任、現在に至る。

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