ラグビー観戦マナーを知りたい人に~稲沢裕子の読むラグビー&ときどき映画案内 

ラグビーの聖地であるイギリスのトゥイッケナムスタジアムで17日(日本時間18日)、日本代表対イングランド代表の試合が行われた。入場者はほぼ満員の8万1000人。日本代表が戦う試合としては史上最多を記録した。そんな歴史的な会場で、ある歌がしばしば流れた。その歌をはじめとする、ラグビーならではの観戦風景、観戦マナーについて紹介しよう。

「80min.」に載った堀江翔太選手(パナソニックワイルドナイツ)の手のひらの実物大写真を自分の手と比べると、大きさを実感できる

「80min.」に載った堀江翔太選手(パナソニックワイルドナイツ)の手のひらの実物大写真を自分の手と比べると、大きさを実感できる

イングランドの「ラグビー賛歌」

両国の対戦はこれまでもあったが、以前はイングランド側が代表と位置づけなかったため、史上初の正式な両国代表戦となったこの試合。イングランドのチャンスやピンチで、誰からともなく、どこからともなく、

♪Swing low, sweet chariot♪

と歌が始まり、瞬く間にスタジアム全体を包む。スタジアム全体が揺れるような、地鳴りのような響きとなる。ピッチに立った日本選手は、「(イギリス人主体の)8万人の観客はやはり一体感があり、応援している感がすごく伝わってきた」(福岡堅樹選手)という。試合で前半は日本がリードして折り返したが、後半にイングランドが巻き返しにかかると、歌声はいっそう大きくなった。

今ではすっかりイングランドのラグビー応援歌として定着したこの歌、「Swing low, sweet chariot」だが、実はイギリスともラグビーとも関係がなく、かつて奴隷制度が残っていた時代からアメリカで歌い継がれる黒人霊歌だ。

「なぜラグビーファンはSwing low, sweet chariotを歌うのか?」という疑問にこたえる記事をイギリスのBBCが公開している。それによると、1988年にトゥイッケナムでアイルランドと対戦した際、観客席にいたイングランドのファンがいくつかの歌を歌ってみたところ、他の歌には全く反応がなかったのに、「Swing low, sweet chariot」を歌ったら突然周囲が歌いだし、スタンド全体に広がったという。それがいつの間にか、イングランド代表の応援ソングとして定着したようだ。

筆者も2015年、前回のラグビーW杯イングランド大会の開幕戦だったイングランド代表対フィジー代表をこのトゥイッケナムで観戦しており、生の「Swing low, sweet chariot」を体感したことがある。それはまさに魂を揺さぶられるような、選手だけでなく観客も鼓舞するような轟音だった。

ラグビーは、投げる、走る、蹴る、タックルで相手を倒す、と何でもありの自由なスポーツだが、ラグビーに関係のない歌が応援歌になるというこんな応援スタイルにも自由な気風が感じられる。

ワールドカップの開催都市にはパブリックビューイングができるファンゾーンが設けられる。イギリス・ブライトンのファンゾーンで日本対南アフリカ戦を待つサポーターたち。周囲でブブゼラを吹く人もいた(2015年9月19日)

ワールドカップの開催都市にはパブリックビューイングができるファンゾーンが設けられる。イギリス・ブライトンのファンゾーンで日本対南アフリカ戦を待つサポーターたち。周囲でブブゼラを吹く人もいた(2015年9月19日)

冬はラグビーの季節

冬の季語でもあるラグビー。国内でもこれから佳境に入る。

11月3日のニュージーランド代表戦。スタンドではそれぞれのチームに声援を送る観客たちが入り交じっていた(東京・味の素スタジアムで)=伊藤紘二撮影

11月3日のニュージーランド代表戦。スタンドではそれぞれのチームに声援を送る観客たちが入り交じっていた(東京・味の素スタジアムで)=伊藤紘二撮影

今シーズンはすでに、18日に関東大学対抗戦で明治大学が帝京大学を破り、高校ラグビーでは大阪府予選で常翔学園が昨年の全国大会優勝チーム東海大大阪仰星高校を破るなど、波乱が起きる熱い幕開けとなった。

24日に大学選手権がミクニワールドスタジアム(北九州)で開幕し、福岡工業大学と初出場の北海道大学が対戦する。来年1月12日の決勝戦で帝京大学が10連覇を実現するかも注目される。12月からはトップリーグの総合順位決定トーナメントが始まり、12月15日に東京・秩父宮ラグビー場で日本選手権決勝戦が行われる。来年1月19日までトップリーグの新たな取り組みであるカップトーナメントが続くうえ、年末年始の風物詩ともなった全国高校ラグビー大会が12月27日~1月7日に大阪・東大阪市花園ラグビー場で行われる。

観客席もノーサイド

こうしたラグビーをこれから観戦してみたいと思っている方に、日本ラグビー応援ムック「80min.(エイティ・ミニッツ)」(小学館)をお勧めしたい。雑誌のように写真や図表を多用してわかりやすく、本のように1冊読み切りで情報が詰まっている。

80min.誌と付録のトップリーグ選手名鑑(右)

中でも、ラグビー一筋のジャーナリスト村上晃一さんが「大切な人との観戦術」と題して、応援に欠かせない、以下のポイントを紹介している。

1.ラグビーの試合中は、鳴り物の応援は禁止。審判の笛の音が聞こえないと選手にとって危険だから

2.選手がペナルティーゴールを狙うときなどは静かにする

3.ラグビーは試合が終わると、観客席もノーサイド(敵味方なし)

こうしたマナーを踏まえてスタジアムに向かえば、ひいきのチームに声援を送る楽しみに加え、観客席の一体感も味わえるだろう。

サッカーや野球になじんでいる人には、もしかしたらラグビーの応援は物足りないかもしれない。ラグビーにはサッカーや野球のようなチーム別の応援席はなく、両チームのファンが入り交じって席につく。

2015年の前回大会で、日本対南アフリカ戦を観戦した筆者は、隣の席の南ア人夫婦に名物のビルトン(干し肉)をごちそうになりながら一緒に熱狂した。今回の日本対イングランド戦後、健闘した日本代表に観客席から「ニッポン」コールが湧いたという。そう、ラグビーは観客席も試合後は敵味方のないノーサイドなのだ。ファンが互いにチームの健闘を称えあって交流するのもラグビーの楽しみの重要な一部だ。

汗臭くないおしゃれなムック

このムックは、ラグビーの試合時間である80分間に懸ける選手について、ラグビーになじみのない女性や子どもにも知ってもらおうと出版された。企画したのは、青山学院で初等部から大学までラグビーをプレーしていた酒井直人氏。現在、男性ファッション誌メンズプレシャス編集長だ。

80min.誌を企画した酒井直人さん

80min.誌を企画した酒井直人さん

「80min.」は、ラグビーらしからぬ洗練されたビジュアルが新鮮だ。ラグビー憲章に謳(うた)われる「品位・情熱・結束・規律・尊重」の基本原則を写真で表現した硬派なコーナーがあるかと思うと、選手たちが自慢したい体のパーツをそのまま写真で示した「原寸大図鑑」もある。須藤元樹選手(サントリーサンゴリアス)の「太もも」はなんと68センチ。標準的な婦人服Mサイズのウエストを上回る太さで、誌面からはみ出している。

また、「ラグビー選手はこんなにスゴイ!」というコーナーでは、キヤノンイーグルスのスタッフを務めた小西ゆみさん(ラグビーワールドカップ2019組織委員会)が、ラグビー選手はシャワーやカフェが好きという意外な素顔を教えてくれている。

このほか「80min.」には、知っておくと便利なルールやポジション紹介、トップリーグ16チームの選手名鑑もついている。

ぜひ、気軽にスタジアムに足を運んで、80分間(高校は60分間)に懸ける選手たちを応援してほしい。

【もっと知りたい人に】

ラグビーに興味を持ったら、1972年創刊と歴史のある月刊「ラグビーマガジン」(ベースボール・マガジン社)を手に取ってみよう。男子代表はもちろんのこと、女子代表、セブンズも含めて選手情報や試合詳報など、1回読むだけでもラグビー通になれる情報量がある。

【プロフィル】稲沢裕子(いなざわ・ゆうこ)

1982年読売新聞東京本社入社。社会部、生活部、経済部記者、ヨミウリ・オンライン編集担当から女性向けサイト「大手小町」編集長。調査研究本部主任研究員を経て、2018年4月から昭和女子大学特命教授。2013年6月、日本ラグビーフットボール協会の女性初の理事に就任、現在に至る。

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