東京ラグビー物語~「一生に一度」をみんなで楽しむために

アジア初開催で、ラグビーファンにとって歴史的なイベントとなるラグビーワールドカップ(W杯)日本大会は、2019年9月20日の日本対ロシア戦で開幕する。その舞台となるのが、東京都調布市の東京スタジアムだ。試合が行われる12会場のうち、収容人数(4万9970人)で横浜総合国際競技場(7万2327人、横浜市)やエコパスタジアム(5万889人、静岡県袋井市)にかなわないが、注目の開幕戦の場に選ばれた。ラグビー文化が根付いた東京西部を巡った。(読売新聞 渡辺嘉久)

スクラムで押し合う首都・三多摩両リーグ代表チーム(12月9日、東京都稲城市の稲城中央公園総合グラウンドで)

調布市の隣、東京都稲城市のグラウンドで12月9日、地域のクラブチームで作る首都リーグと三多摩リーグの代表による定期戦が行われた。アマチュアではあるが、ニュージーランド(NZ)大使杯がかかった一戦で、今年ですでに26回目を迎えた。

両リーグ代表は普段、それぞれのチームで敵味方としてプレーしているが、この日はそれを感じさせない緊密な連係で敵陣深くに攻め入る。守る側も必死だ。生身をぶつけ、鈍い音が響く。ただひたすらに勝利を目指し、攻守の連係は研ぎ澄まされていく。「信頼」は、やがて「絆」に深化する。

実行委員長の田村基夫さん(34)は「ラグビーは人と人との距離をぐっと縮めてくれる」と話す。自らプレーし、実感してきたラグビーの魅力だ。グラウンド上のプレーヤーを見れば、それもうなずける。

試合を盛り上げたのは、早大ラグビー部OBの吉谷吾郎さん(31)の実況解説だ。「4年に一度じゃない。一生に一度だ。―ONCE IN A LIFETIME―」という日本大会の公式キャッチコピーを作ったコピーライターでもある。

吉谷さんは、「ラグビーをやっていた人間として、ラグビーの仕事に関わり、W杯のキャッチコピーを書かせてもらえるのは本当に一生に一度と思い、そのまま表現した」と教えてくれた。吉谷さんは田村さんの地元中学校の後輩にあたる。「ラグビー人脈」が地域に巡らされていることの一つの証しだろう。

「セットプレーで肝になれる」~ロック真壁伸弥選手

身長192センチの真壁伸弥選手と(右は筆者)

東京都府中市には、日本ラグビーのトップレベルの2チームが活動拠点を置く。サントリーと東芝だ。市は「ラグビーのまち府中」を掲げ、小学校ではタックルの代わりに相手の腰のひも(タグ)を取り合う「タグラグビー」の普及を図る。W杯では、イングランドとフランスの公認キャンプ地となる。

サントリーの真壁伸弥選手(31)は身長192センチ、体重125キロ。ポジションはフォワードのロック。日本代表キャップ37を持つ。身長170センチ、体重68キロの筆者と並ぶと体格の大きさがわかる。

「何かでかいのがいるぞっていうことで17歳以下の日本代表にも選ばれたんです」

サントリーの公式ホームページには「ラフロイグのような性格」とある。ラフロイグとは、バーなどで「個性的なもの」と注文すると出てくるスコットランド産のくせが強いウイスキーだ。

――プレースタイルは?
「本当にわかりやすい。壁をぶち破るようなフィジカルを前面に出します」

――「ここぞ」という場面では怖いほど厳しい表情になる。
「淡々とした印象が強いサントリーで、サントリーらしくない、勢いをつけるキャラクターで行こうと。作っているので結構しんどいっす」

ロックの背番号は「4」と「5」。スクラムでは最前列のプロップとフッカーの尻を肩で押して力を伝える。ラインアウトではジャンパーとして空中戦の主役となる。

インタビューに答える真壁伸弥選手

――ロックは体格がものを言う?
「小さいなら速さとか、独自のキャラクターで生きればいい。ロックは、スクラム、ラインアウトというセットプレーで肝になれるのが魅力」

理想のロックにニュージーランド代表のブロディー・レタリック選手を挙げる。204センチ、123キロの巨漢だが、「下回り(低い位置)でのボールもしっかりさばいている。あの身長と体重で、あの運動量はもう化け物。ああいうロックがいればチームは本当に助かる」。

現代ラグビーでは機動力も欠かせないというわけだ。

2015年のイングランド大会で日本が南アフリカに勝利した「大金星」の一戦に途中出場した真壁選手に、あえて聞いた。

――レタリック選手のような「化け物」相手に勝ち目はあるか?
「絶対にウィークポイントはある。ラインアウトだったらスピードで勝り、前後に移動するムーブで意表を突く。とにかく勝つことを考えてやる」

「当たって砕けない」が座右の銘という真壁選手らしい一言だった。

開幕戦の舞台・東京スタジアム~五輪ゆかりの地

開幕戦の日本対ロシアをはじめとする8試合が行われる東京スタジアム(東京スタジアム提供)

日本の開幕戦(対ロシア)をはじめ8試合が行われる東京スタジアムは、「味スタ」(味の素スタジアム)の名で親しまれ、サッカー・JリーグのFC東京と東京ヴェルディのホームスタジアムでもある。

2000年10月の完成で、天然芝フィールドの周りには、ふだんは人工芝が覆う400メートルのトラックを備える多目的スタジアムだ。スポーツだけでなく、B’zやももいろクローバーZなどのコンサートも開かれた。

この舞台で、今年11月3日には日本とニュージーランドが対戦した。さかのぼると、ラグビーの代表チーム同士の公式戦(テストマッチ)がここで初めて行われたのは、2016年6月の日本対スコットランドで、翌年6月には日本とアイルランドが戦った。

近くには調布飛行場がある。戦時中は主に陸軍の「帝都防空」の飛行場として使われていた。飛行場と周辺の一帯は戦後、進駐軍に接収され、米軍関係者向けの野菜を作る「世界一の水耕農場」が設けられた。収穫された野菜は朝鮮戦争時には戦地にも送られた。

1964年の東京オリンピック開催にあたり、都心にあった代々木ワシントン・ハイツの米軍宿舎用地に選手村が建設されることになる。東京スタジアム周辺が、その代替地「関東村住宅地区」として整備された。

オリンピックとの関わりはまだある。スタジアム前の国道20号(甲州街道)には「オリンピック東京大会マラソン折返点」の看板が掲げられている。金メダルに輝いたエチオピアの英雄アベベ、銅メダルの円谷幸吉の走りを、多くの人々が沿道で見守った。

ラグビーW杯日本大会を終えた翌2020年、東京では再びオリンピックが開かれる。「スポーツのある日常」がさらに広い地域に、文化として根付くチャンスだ。(つづく)

ラグビーW杯日本大会は2019年9月20日に開幕し、11月2日までに48試合が行われる。その一試合一試合が、見る人にとっても「一生に一度」の特別なものになってほしい。このコラムはラグビーのモットーにも合わせ、「FOR ALL―全ての人のラグビーW杯日本大会のために―」との思いで書き始めた。様々な角度からラグビーの魅力を伝えたい。何より、W杯期間中は「ラグビーのある日常」を楽しんでほしい。

東京スタジアムの試合日程
▽予選プール
9月20日(金)日本 対 ロシア
9月21日(土)フランス 対 アルゼンチン
9月29日(日)オーストラリア 対 ウェールズ
10月5日(土)イングランド 対 アルゼンチン
10月6日(日)ニュージーランド 対 ナミビア
▽決勝トーナメント
10月19日(土)準々決勝
10月20日(日)準々決勝
11月1日(金)3位決定戦

渡辺 嘉久(わたなべ・よしひさ) 読売新聞東京本社編集委員。1964年、東京都生まれ。1987年、読売新聞東京本社入社。青森支局、社会部、政治部、世論調査部などを経て2013年から現職。「若者と政治」をテーマに幅広い分野を取材する。年間企画「平成時代」、夕刊「密着」なども担当。大学時代に同好会でラグビーを始め、入社以来のブランクを経て40歳過ぎで再開。今もプレーを楽しむ。

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