ラグビーには「青春」がよく似合う~稲沢裕子の読むラグビー&ときどき映画案内

12月27日から大阪・花園ラグビー場で第98回全国高校ラグビー大会が開かれる。今年は、前身大会の第1回が行われてからちょうど100年の節目だ。ラグビーは少年たちを主人公とし、多くのドラマを生んできた。この季節、ラグビーをあまり知らないあなたも、きっと応援したくなるドラマに出会えるはずだ。

選手を成長させる「悔しさ」

全国大学選手権準々決勝 早稲田大―慶応大戦 試合終了直前、逆転のトライを決める早大の佐々木(中央)(12月22日、秩父宮ラグビー場で)=松本拓也撮影

試合時間終了を告げるホーンが鳴った時、4点差で負けていた。ラストワンプレーでトライ(5点)を決め劇的な逆転勝利を収めた。

12月22日、全国大学選手権(読売新聞社後援)の準々決勝、早稲田大対慶応大戦で、この逆転トライを決めた早稲田大4年の佐々木尚(しょう)は、この瞬間、5年越しの雪辱を果たした。

神奈川県の桐蔭学園高3年の時、県予選決勝で慶応高に敗れて花園への切符を逃していた。22日の決戦で再びまみえた慶応大には、この時の花園メンバーがそろっていた。早稲田大の相良南海夫(なみお)監督はそれを知っていて、佐々木を先発起用したのだった。期待に応えた佐々木は「特別な気持ちで戦えた」と語った。

高校時代の勝利はもちろん、悔しさだって、選手たちを大きく成長させる糧となる。

漫画で「目指せ花園」

強豪校が集まる神奈川県を舞台に、花園を目指す高校ラグビー部員たちを描く漫画が、「ALL OUT!!」(オールアウト)だ。

スポーツ漫画では、サッカーの「キャプテン翼」や野球の「ドカベン」、バスケットの「SLAM DUNK(スラムダンク)」が多くのファンに支持された。しかし、ラグビー漫画の多くは人気が続かず、連載が短期で打ち切りとなるケースが実に多い。

その中にあって、2013年1月号の「月刊モーニング・ツー」(講談社)で始まった「ALL OUT!!」は、来年1月発売予定の新刊で単行本15巻を数え、異例ともいえる息の長さを見せている。まさに今、作中の高校生たちは花園を目指して県大会で激しい試合を繰り広げている。

ラグビー初心者の作者だからこそ

作者の雨瀬(あませ)シオリさんは、もともとラグビーを全く知らなかった。だから、なのだろう。ラグビーへの素朴な疑問の答えが、絶妙なタイミングで作品に織り込まれている。ちょうど、連載開始の頃にラグビーと出会った筆者にとっては教科書でもある。

「神奈川県立神奈川高校」の新入生、祇園健次は身長159センチ、体重54キロと小柄で、「チビ」とばかにされるのが許せない。入学式当日、学校のグラウンドで生まれて初めて見たラグビーは、「大きい人 小さい人 太ってる人 細い人」「全員がぶつかって」いた。

新入生の祇園健次は高校入学当日、ラグビーの魅力に引き込まれる(第1巻より)(C)雨瀬シオリ/講談社/「ALL OUT!!」

「エースストライカーも4番バッターもいない」「ボールを持ってる奴が主役なんだ」。主人公は、友人が説明する言葉で入部を決める。

最初は、ポジションも分からない。「1~8番がゴツめのフォワードで、9~15番がひょろめのバックスね! さらに細かいのは覚えたい人だけ覚えといて!」(4話)と言われる。「花園ってなんスか?」と主人公が聞けば、「ラグビーの甲子園みたいなモンだよ!」と教えられるから、読者もラグビー知識の基礎を一緒に覚えることができる。

作品を支える作者、編集者、読者のスクラム

「ALL OUT!!」には、実は知恵袋がいる。編集者の竹本佳正さん(コミックDAYSチーム副部長)は島根県の江(ごう)の川高校=現・石見智翠館(いわみちすいかん)高校=で主将として花園ベスト16に進み、早稲田大学では清宮克幸監督の下でフッカーを務めた生粋のラガーだ。

「漫画は作者のもの。ぼくから『ラグビーを描きませんか』と言ったことは一度もありません」と竹本さんは明言する。とはいえ、漫画家の登竜門、第60回ちばてつや賞奨励賞を受賞した雨瀬さんの担当となり、「男同士の熱い話を描きたい」という雨瀬さんに「それとなくラグビーの話をしていた」という。

ある日、雨瀬さんが「描いてみました」と持ってきたのが、冒頭で紹介したセリフのシーン。このとき、「連載になる」と竹本さんは確信した。花園で一緒に大会を観戦し、高校に取材に行き、トップリーグの試合にも足を運んだ。

初めて見たラグビー。雨瀬さんは、タックルの「肉と肉のぶつかる音」、ラインアウトの「視覚的な驚き」、スクラムの「16人分の気合のかけ声」に驚く。単行本4巻の巻末「雨瀬シオリによるラグビーの見所紹介!」には、「ただタックルにきた男を己の体でぶっ飛ばして前へ進む姿は、ごちゃごちゃした話を忘れるくらい純粋にシンプルでかっこいい」というくだりがあり、思わずうなずいてしまう。

「ALL OUT!!」(既刊14巻)

「雨瀬さんは漫画を描くのを楽しんでいる。まだまだ続く可能性は十分」と竹本さん。小学生から70歳代まで幅広い読者に支持され、アニメ化や舞台化も実現している。作者と編集者、そして読者のスクラムで、「ALL OUT!!」が県大会から花園へ、そしてその先へと続くことを期待したい。

テレビドラマ、映画、名曲に

高校ラグビーといえば、テレビドラマでは「スクール☆ウォーズ」、音楽ではユーミンの名曲「ノーサイド」を忘れるわけにいかない。

第60回全国高校ラグビーで初優勝した伏見工フィフティーン。中央が平尾誠二さん、その左は山口良治監督(1981年1月7日、花園ラグビー場で)=報知新聞社提供

「スクール☆ウォーズ」は、京都市立伏見工業高校ラグビー部の山口良治監督と生徒たちを記録したノンフィクション「落ちこぼれ軍団の奇跡」(馬場信浩著、光文社文庫)を基にドラマ化された。1984年からTBS系で放送されて大ヒット。その後、映画にもなり、DVDやブルーレイにもなった。

ドラマの舞台は伏見工ではなく、架空の「川浜高校」という設定。校内暴力が社会問題化していた時代に、ツッパリや非行少年がラグビーを通して目標に向かう姿や彼らに向き合う教師の思いなどが共感を呼んだ。

伏見工は山口監督の下、のちにミスター・ラグビーと呼ばれる故・平尾誠二さんが2年生の時に花園出場を果たし、3年生だった1981年に初優勝を飾った。

1984年の高校ラグビー決勝戦(天理-大分舞鶴)をモデルに生まれたのがユーミンの「ノーサイド」だ。この試合、後半ロスタイムにトライを決めた大分舞鶴は、ゴールを決めれば同点で両校優勝となるはずだった。そのゴールキックは無情にも外れ、ノーサイドの笛が鳴った。歌詞にはそれを思わせる情景がまるでドラマのように表現されている。

このように様々なドラマを生んできた高校ラグビー。今大会は全国711チームから予選を勝ち抜いた51校が頂点を目指す。聖光学院(福島)や桐生第一(群馬)といった初出場校のほか、79大会ぶりに早稲田実業(東京第一)が出るかと思えば、37大会の最多連続出場となる佐賀工業(佐賀)、通算63回で最多出場となる天理(奈良)など、多彩なチームが、青春に似つかわしい汗と涙を花園で流すことになる。

ここからまた多くのドラマが生まれるに違いない。

【もっと知りたい人のために】
・DVD/ブルーレイ「花園の記録 2018年度~第98回 全国高等学校ラグビーフットボール大会~」(予約受け付け中。発売元・東京サウンド・プロダクション)

【プロフィル】稲沢 裕子(いなざわ・ゆうこ)

1982年読売新聞東京本社入社。社会部、生活部、経済部記者、ヨミウリ・オンライン編集担当から女性向けサイト「大手小町」編集長。調査研究本部主任研究員を経て、2018年4月から昭和女子大学特命教授。2013年6月、日本ラグビーフットボール協会の女性初の理事に就任、現在に至る。

<<
コラム一覧へ戻る
>>