猫がラグビーにトライしたら~稲沢裕子の読むラグビー&ときどき映画案内

そにしけんじ「ラガーにゃん1」(光文社)

ラグビーのルールは難しいと言われる。ルールを知らなくても十分面白いけれど、知れば知るほど面白くなるのもまた事実。2月には世界最高峰のプロリーグ「スーパーラグビー」が開幕し、9月からいよいよラグビーワールドカップが日本で開催される。ラグビーのルールを知りたい初心者にうってつけの漫画が出版されたので紹介したい。

作者は元ラガーマン

「ラガーにゃん 猫でもわかるラグビー入門[初級編]」(光文社)。作者は、読売新聞日曜版に連載中の「猫ピッチャー」でも人気の漫画家、そにしけんじさん。中学時代は野球をしていたが、高校からラグビーを始め、3年生ではキャプテンを務めた。進学した筑波大学でもフルバックとしてラグビーに没頭した経験者だ。

そにしさんが、その青春をささげたラグビーを漫画に描く。ただし、プレーするのは「猫」。全力で、全身でぶつかる熱い闘い――という話にはならない。

パスやキックの練習をするはずが、毛づくろいを始めてしまう(猫だから)。タックルするはずが、相手にかみついてしまう(猫だから)。ゴールポストによじ登って降りられなくなる(猫だから)。

猫がマウンドに立つ「猫ピッチャー」との大きな違いが、「ミー太郎」のような主人公がいないことだ。<ラグビーはボールを持てば誰もが主人公になれるんだニャ>。自由気ままな猫たちが、「立川さん」の指導で、ラグビーをプレーする猫「ラガーにゃん」へと育っていく。

週刊誌「女性自身」で連載が始まったのは2017年6月。編集者の吉田健一さんによると、そにしさんに猫をテーマにした読み切り漫画を依頼したところ、「ラグビーを題材とした猫の漫画なら描ける。2019年のラグビーワールドカップ日本大会を盛り上げたい」との前向きな返事があり、「ラガーにゃん」の連載が決まったという。「女性自身」の読者を意識して、ラグビーにあまり興味のない人たちにも、できるだけ楽しくその魅力を伝えようと、毎回分かりやすい解説を添えることになったそうだ。猫好きにはたまらない「猫あるある」が人気を呼び、連載は今も続いている。

「ラガーにゃん」公式ツイッターより((C)そにしけんじ/光文社)

元日本代表、広瀬さんならではのこぼれ話も

物語は15匹の猫がラグビーに出会うところから始まり、初めて試合に臨むところまでの全65話が1巻に収録されている。毎回、元ラグビー日本代表でキャプテンも務めた広瀬俊朗さんの解説が添えられているのが、「初級編」をうたう所以(ゆえん)だ。

広瀬さんは、日本代表キャップ(公式試合出場回数)「28」を数える。2015年のワールドカップでは日本代表初となった3勝に貢献し、現役引退後は東芝ブレイブルーパスでバックスコーチを務めつつ、ラグビーの普及に力を入れている。

猫たちをラガーにゃんに育てる「立川さん」が審判という設定は絶妙だ。多くのスポーツの審判は、反則があれば笛を吹いてプレーを止めるもの。広瀬さんは、作品の中でこう解説する。

トークセッションで笑顔を見せる広瀬俊朗選手(右)(2015年11月19日、東京都中央区日本橋で)=吉岡毅撮影

<ラグビーのレフリーは、反則されたチームが有利な状況ならば、笛を吹かずに、プレーを継続させます。つまり、ラグビーのレフリーは、ゲームを盛り上げるための“演出家”>なのだと。反則が起きたのに、どうして審判は笛を吹かないの?という、初心者が戸惑いがちな謎を解き明かしてくれる。

また、ボールを前に落とす反則について、<ノックオンは要注意。(せっかくボールが回ってきたのに)見せ場が台なしです。チームメイトの視線もあり、穴に入りたい気持ちになります>と、選手の気持ちを代弁することも。

勝手気ままな猫たちが、水休憩(ウォーターブレイク)で、姿を消してしまった時には、前日本代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズ氏のエピソードを紹介し、<ジョーンズさんは、その休憩中に、選手同士で話し合うことを重視していました。短い時間でも、チームの方向性や戦術を確認し合うことが大事>と、猫たちをやんわりと叱ることも忘れない。

広瀬さんは「当初は猫とラグビーが直接、結びつかなかった」と打ち明けてくれたが、「新しいラグビーファンができるのではないかとワクワクする。子どもから大人まで気軽に読んでもらえたら」と語っている。

ラガーにゃん、やってみました

ボールを転がす「トラ」。ラガーにゃんへの道はまだ遠い?

たまたま筆者の身近にいる「タマ」がラガーにゃんに仲間入りできるかどうか、トライしてみた。

まずは、ジャージ。ラガーにゃんたちは、かっこよく日本代表並みに赤白ボーダーのジャージで決めている。そこで、ジャパンのレプリカジャージを着せて、何とか写真に収めようとしたが、するりと抜け出してしまった。

ボールを渡してみると、「?」。もう1匹の「トラ」に渡すと、噛(か)みついたり転がしたりして興味は示す。どうやら前へのキックはできそうだ。ボールを弾ませると、少し離れて行方をじっと目で追う。脈ありとみて、2匹の間にボールを置いてみた。トラがタマに猛烈タックル! 漫画と同じ展開になったが、肝心のボールは……? まだまだラガーにゃんの仲間入りは遠そうだ。

チームのエンブレムになった「動物」たち

ラグビーの各国代表チームはそのエンブレムにちなんだ愛称で呼ばれることが多い。日本代表は桜のエンブレムから「ブレイブブロッサムズ」。動物のチームも少なくない。

南アフリカは「スプリングボクス」、オーストラリアは「ワラビーズ」、アメリカは「イーグルス」など。その中で、ネコ科の動物を選んだのが、アルゼンチンの「ジャガーズ」だ。

そのエンブレムはジャガーなのに、愛称はロス・プーマス。ピューマと間違って報じられ、そのまま定着してしまったようだ。アルゼンチンはサッカーの強豪国として知られるが、2007年のラグビーワールドカップでチーム史上最高の3位、前回大会では4位と力をつけ、現在、世界ランキング10位と日本の一つ上に位置する。

スーパーラグビーの合宿で練習するサンウルブズの選手たち(2019年1月14日、千葉県市原市で)=帯津智昭撮影

アルゼンチンがスーパーラグビーに参加したのは、日本と同時期の2016年。チーム名を「ジャガーズ」とし、晴れて本来の名前でプレーすることになった。

そのスーパーラグビーに日本から参加するチームが「サンウルブズ」だ。太陽に向かって、群れで立ち向かうオオカミをイメージしている。2016年4月23日、サンウルブズ初の白星が36―28でのジャガーズからの勝利だった。2017年には39―46で敗れ、2018年は対戦がなく、対戦成績は1勝1敗のままだ。

サンウルブズの2019シーズンは2月16日、シンガポールでのシャークス戦で開幕する。国内ではいずれも秩父宮ラグビー場(東京・港区)で、2月23日・ワラタス(オーストラリア)、3月16日・レッズ(オーストラリア)、4月19日・ハリケーンズ(ニュージーランド)、4月26日・ハイランダーズ(ニュージーランド)、5月25日・レベルズ(オーストラリア)、6月1日・ブランビーズ(オーストラリア)との試合が行われる。アルゼンチンのジャガーズとは6月15日、ブエノスアイレスで最終節に対戦する。

「ラガーにゃん」を読んで、スーパーラグビーではもちろん、サンウルブズを応援してほしい。

もっと知りたい人のために
広瀬俊朗さんのことを知りたい人は「なんのために勝つのか。」(東洋館出版社)を。勝つチームには大義がある。その大義の下に「覚悟」「ビジョン」「ハードワーク」の3要素が必要としている。チームをリードしてきた三つの言葉は、ラグビーにとどまらない意味がある。メンバーに選ばれながら出場機会がなかった2015年ワールドカップでの日々も率直につづられている。

プロフィル】稲沢 裕子(いなざわ・ゆうこ)
1982年読売新聞東京本社入社。社会部、生活部、経済部記者、ヨミウリ・オンライン編集担当から女性向けサイト「大手小町」編集長。調査研究本部主任研究員を経て、2018年4月から昭和女子大学特命教授。2013年6月、日本ラグビーフットボール協会の女性初の理事に就任、現在に至る。

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