神戸ラグビー物語~神鋼に見る「勝つこと」の難しさ~

今季のラグビー日本選手権は昨年12月、神戸製鋼が18季ぶり10度目の日本一に輝いた。元日本代表で神鋼の主将、監督も務めた増保輝則さん(47)は名門復活を編成力の勝利とみる。

増保さんは現代ラグビーで鍵となるポジションに、ゲームをコントロールするスクラムハーフ、スタンドオフとロックを挙げる。「特に世界トップのニュージーランド(NZ)ではロックはボール争奪の中心になるだけでなく、パスを通して攻撃の起点にもなる。強さと走力があり、パスもうまいマルチプレーヤーが理想だ」と話す。

神鋼は今季、元NZ代表スタンドオフのダン・カーター選手、スーパーラグビー・ハイランダーズからロックのトム・フランクリン選手、そしてサントリーからスクラムハーフの日和佐篤選手ら、「鍵」のポジションを補強した。総監督にはNZ代表ヘッドコーチも務めたウェイン・スミス氏を迎え、「NZ流」へとチーム改革を進めた。

インタビューに応じる元神戸製鋼監督の増保輝則さん

常勝チームは勝てなくなると再建が難しい。増保さん自身、神鋼1年目の1995年1月の日本選手権で史上最多タイの7連覇を経験したが、その後、「日本一」は遠のく。7連覇当時の神鋼には平尾誠二さんがいた。「平尾さんを中心として言葉に出さなくても研ぎ澄まされた感覚で自由にチームが動いていた」(増保さん)。平尾さんら中心選手が引退しても、ボールを回してきれいにトライを取る「神鋼ラグビー」のイメージに引きずられてしまった。

増保さんが神鋼で再び日本選手権を勝ち取ったのは2000年2月のことだ。スクラムやラインアウト後の2次攻撃でフォワードやバックスの陣形などに「決まり事」を設けた。「ある程度の縛りをかけたことで選手の動きに迷いが消えた」と振り返る。チームのスタイルを変えたことで再生した。

現役時代、ラグビー・ワールドカップ(W杯)には1991年、95年、99年の3大会に連続出場した。プロ選手が容認されて初めて開催された99年大会が印象に残る。「95年大会までは牧歌的な雰囲気もあったが、その後の4年間で各チームのトレーニング理論や栄養学など全てが変わった」という。

今の日本代表は増保さんにはどう見えるのだろう。

「ラグビーは日々進化し、洗練されていく。突き詰めると『これしかない』というスタイルに行き着く。だから、どのチームのラグビーも似通ってくる」

そんな中で日本代表が勝つには何が必要なのか。

「飛び抜けた個(選手)、もしくはフィジカルが勝負になる。それではなかなか難しい。対戦相手を徹底的に分析して穴を見つける。それに対するスペシャルプレーを用意しておく」

かつて、最年少で日本代表入りし、早稲田大学でも脚光を浴びた増保さんはこう答えてくれた。

スポーツミュージアムで「進化の歴史」に触れる

アシックスのスポーツミュージアムに展示されている豪州(左)と南アフリカのジャージー

神戸はアシックスの活動拠点だ。世界戦略を指揮する本社に加え、商品開発の基幹となるスポーツ工学研究所がある。本社に併設されたスポーツミュージアムでは、様々なスポーツ選手が使ったシューズなどを展示する。アシックスがサポートしてきたアスリートの記録は、スポーツの進化の歴史でもある。

2019年ラグビーW杯日本大会では、南アフリカと豪州にジャージーを提供する。前回15年大会に続くサポートだ。南アはグループリーグで日本に敗れたが、決勝トーナメントに進出して3位、豪州はNZとの決勝で敗れはしたものの2位だった。

南アと豪州のジャージーにもスポーツ工学研究所発の技術と知見が生きる。ラグビー選手ならではの体形や体の動きのデータを集め、より耐久性と軽量性を両立した素材を採用する。ボールを滑り落としにくくするため胸の部分にはゴム素材を使い、同時に相手につかまれにくくするためフィット性を重視した。「丈夫さ」と「軽さ」、「滑りにくさ」と「つかまれにくさ」の相反する要求を1枚のジャージーで実現した。

スポーツミュージアムで球速170キロを体感。投球の軌道は床の赤いLEDライトで示される

日本国内では人気の大学ラグビーで早稲田にジャージーを提供する。特に創部100年を記念した伝統的な白襟の早稲田ジャージーは好評だ。選手着用と同じ素材を使い、サポーター背番号「24」をプリントした「早稲田オーセンティック」が売れているという。

アジア初のラグビーW杯日本大会では、地元神戸のグループリーグ戦で南アが登場する。

アシックスの担当者は「夏季五輪、サッカーW杯に並ぶ『世界3大スポーツイベント』が創業の地で開催される。注目されるこの機会に、サポートするチームの活躍で、よりブランド力を高めたい」と話している。

2度目の「W杯」へ普及活動も

御崎公園球技場はサッカー日韓大会に続き2度目の「W杯」となる(神戸市提供)

神戸市でラグビーW杯会場となるのは開閉式の屋根を持つ御崎公園球技場(ノエビアスタジアム神戸)だ。2002年サッカー日韓大会に続く2度目の「W杯」となる。

1970年に2万2100人収容で国内初の国際級夜間照明を備えた神戸市立中央球技場としてオープンし、「サッカーの神様」ペレをはじめとする世界のレジェンドもプレーした。

御崎公園球技場は臨場感を味わえる(神戸市提供)

大きく変容したのは2001年だ。サッカーW杯規格の4万2000人(仮設席含む)を収容するスタジアムに生まれ変わった。仮設席を撤去して開閉式屋根が完成したのは03年で、現在の収容人数は約3万人となっている。

グラウンドは2018年から「ハイブリッド芝」を採用する。長さ20センチの人工繊維を打ち込むことで、水や空気がより深く地中に浸透し、天然芝の根付きも良くなった。人工繊維はグラウンド表面の5%未満だ。昨年6月に行われた日本対イタリアのテストマッチでも問題はなかった。

ラグビーW杯では屋根を閉め切って試合を行う。球技専用のため、バックスタンドからグラウンドまでは6メートルしか離れていない。柱のない構造は視界を遮ることがなく、勝負を決める一瞬を見逃す恐れもない。

ラグビーの普及活動に当たる元日本代表の冨岡耕児さん

今年9月開幕のラグビーW杯開幕に向け、神戸市はラグビーの普及にも取り組んでいる。1月中旬には神戸総合運動公園で「女子だけのラグビー体験会」を開いた。小学生から50歳代の未経験者約10人と地元の女子ラグビーチームから約20人が参加し、5人制の「FIVES(ファイブス)」を楽しんだ。

タックルや体の接触はなく、フットサルほどの広さのコートで、腰につけたタグを取り合う。小学4年の栗田絵恋さん(10)は「点を取れて面白かった。水泳をしているけど、チームでやるのも楽しい」と笑顔を浮かべた。

指導にあたった一般社団法人「PRAS+」代表理事でラグビー元日本代表の冨岡耕児さん(38)は「ファイブスは誰もが気軽に安全に楽しめる。ラグビーのルールやボールを持った時の選手の視野をリアルに体感できる」と話している。(編集委員 渡辺嘉久)

神戸市御崎公園球技場の試合日程
▽予選プール
9月26日(木)イングランド 対 アメリカ
9月30日(月)スコットランド 対 サモア
10月3日(木)アイルランド 対 ロシア
10月8日(火)南アフリカ 対 カナダ

渡辺 嘉久(わたなべ・よしひさ) 読売新聞東京本社編集委員。1964年、東京都生まれ。1987年、読売新聞東京本社入社。青森支局、社会部、政治部、世論調査部などを経て2013年から現職。「若者と政治」をテーマに幅広い分野を取材する。年間企画「平成時代」、夕刊「密着」なども担当。大学時代に同好会でラグビーを始め、入社以来のブランクを経て40歳過ぎで再開。今も時々、プレーを楽しむ。

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