「恩返し」熱い思いがドラマに結実~稲沢裕子の読むラグビー&ときどき映画案内

「ノーサイド・ゲーム」池井戸潤著 ダイヤモンド社刊

今、一冊の本を前に、迷っている。読んでから見るか、見てから読むか。「ノーサイド・ゲーム」(ダイヤモンド社)――。

池井戸潤さんの書き下ろし小説が、慶応大ラグビー部時代に日本一になったこともある元ラガーマンのディレクター、福沢克雄さんの演出で、7日からTBS系列でテレビドラマ化される。

「倍返し」が流行語にもなった「半沢直樹」をはじめ、「下町ロケット」「陸王」などのヒットを飛ばしたコンビだ。ドラマには、広瀬俊朗さんら元ラグビー日本代表選手も出演するから、楽しみでないわけがない。

福沢さんは、慶応義塾を創設した福沢諭吉の玄孫(やしゃご)で、慶応義塾に幼稚舎から通った。小学5年から大学までラグビー部で活躍し、高校日本代表にも選出された。大学時代には、日本選手権で社会人トップのトヨタ自動車を破り、慶応史上初のラグビー日本一になった。身長約190センチの見事な体格だが、卒業後はラグビーから離れ、一般企業に就職。だが、映画監督になる夢を忘れられず、TBSに転職した。

その後は、「半沢直樹」の最高視聴率42%など、「日本一視聴率を稼ぐ」と称されるほど、ドラマで高視聴率を出すことで知られる。

大切なことはラグビーが教えてくれた

「奇跡を起こす、言葉の力」と題した福沢さんのトークショーが昨年9月、「ラグビーの魅力に出会える場所作り」を目指している三菱地所グループの「丸の内15丁目プロジェクト」の一環として東京・丸ビルで開かれた。

丸の内15丁目プロジェクトに登壇した福沢克雄さん(右)、山崎紘菜さん(中央)(2018年9月、東京・丸ビルで)=稲沢裕子撮影

「ラグビーよりキツイものはない」「一流を見続け、イメージし続ける」「勝てるわけない、でも勝てる」――。トークショーで福沢さんが挙げた三つのキーワードを簡単に解説したい。

1.「ラグビーよりキツイものはない」=テレビのディレクターは体力勝負だが、「ラグビーの方が100倍キツイ」し、社会で理不尽なことに遭遇しても「生き残る精神力を(ラグビーが)つけてくれた」。

2.「一流を見続け、イメージし続ける」=ドラマ制作も「ラグビー形式」を取っている。慶応大ラグビー部の合宿所では、オールブラックスなど世界一流のプレーをビデオで繰り返し見た。「試合で同じ状況になった時、瞬時にそのプレーができることがある。だから、名作映画を30本選んで毎日のように見た」。これが福沢ドラマの下地となった。

3.「勝てるわけない、でも勝てる」=ラグビーエリートではなく、付属高出身者中心の大学生チームが、社会人に勝てるわけがないと誰もが思っていた。でも、勝って日本一になった。慶応大ラグビー部の上田昭夫監督は「こうすれば勝てる」と選手たちに言い続け、戦略を浸透させた。ピッチに送り出した後は、選手を信じて何も言わない。上田監督をずっと見てきた福沢さんは、「しょせん、監督は監督。プレーヤーがちゃんとしていないと、いい作品はできない。(ドラマでも)役者を信じて任せている」。

イベントの最後に福沢さんは「ラグビーに恩返しがしたい。(きつすぎて)死ぬほど嫌いだったラグビーだが、自分があるのはラグビーのおかげ。ラグビーのために精いっぱい頑張りたい」と明かした。ラグビーへの熱い思いが、今回の「ノーサイド・ゲーム」に結実した。

ラグビーが生んだ最大のドラマ

選挙集会でガッツポーズをするマンデラ氏。スポーツが持つ力で国内融和を進めた(1994年4月、南アフリカで)=秋元和夫撮影

このトークショーには、ラグビーが大好きという女優の山崎紘菜さんも登壇し、南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領の座右の銘に力をもらうと語った。

「我が運命を決めるのは我なり、我が魂を制するのは我なり」。27年間に及ぶマンデラ氏の獄中生活を支えた英国詩人ウィリアム・アーネスト・ヘンリーの詩の一節だ。詩のタイトルは、ラテン語で「不屈」を意味する「インビクタス」。

山崎さんは好きな映画に「インビクタス/負けざる者たち」を挙げた。1995年のラグビーワールドカップ(W杯)南アフリカ大会を描いた原作をクリント・イーストウッド監督が映画化した。

アパルトヘイト(人種隔離政策)に対する国際的な批判から、1964年の東京オリンピックも含めて長年、南アフリカはスポーツの国際大会に出場できなかった。その南アフリカにとって、国際舞台への復帰試合となったのがラグビーW杯だった。

当時、ラグビーは白人のスポーツとされ、黒人の間には敵視する向きがあった。マンデラ大統領は「人種を超えて代表選手を応援しよう」と呼びかけ、自ら先頭に立つ。

オールブラックスとの決勝戦はW杯初の延長戦にもつれこみ、劇的なドロップゴールを決めた南アフリカが15-12で見事優勝を果たした。その瞬間、「One Team、One Nation」のスローガンの下、人種の壁を越えて国が一つになった。

「インビクタス/負けざる者たち」ブルーレイ 2,381円+税/DVD¥1,429円+税 ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント Invictus © 2009 Warner Bros. Entertainment Inc. and Spyglass Entertainment Funding, LLC. Package Design & Supplementary Material Compilation ©2010 Warner Bros. Entertainment Inc. Distributed by Warner Home Video. All rights reserved.

原作(NHK出版)は、1989年から1995年にかけて英インデペンデント紙の南アフリカ支局長だったジャーナリスト、ジョン・カーリン氏が、政界引退後のマンデラ元大統領はじめ関係者にインタビューを重ね、1995年6月の決勝までの約10年間を多角的に記録した。

「スポーツには世界を変える力がある」と、マンデラ元大統領がラグビーに期待を込めた背景をより深く知ることができる、おすすめの一冊だ。もちろん、映画だけでもラグビーがもたらしたドラマを知ることができる。ラグビーW杯までにぜひ見ていただきたい作品だ。

【もっと知りたい人のために】

原作もテレビドラマもおすすめしたい作品に「不惑のスクラム」(安藤祐介著、角川文庫)がある。ラグビーとは全く縁がなかった作者が熟年ラグビーの世界を知り、チームに2年間同行して、仕事も立場も関係なくボールを追う仲間たちの姿を描いた。

前に進むために、後ろにパスしなくてはならないラグビーの理不尽さは、人生にもついて回る。トライの得点が高いのは、挑戦することに価値があるから、と素人ならではの気づきも織り込まれている。

ドラマは2018年9月から10月にかけてNHKで放送された。40歳以上のメンバーでラグビーチームを作り、主人公をチームに誘う萩原健一さんの演技が今も忘れられない。萩原さんは今年3月、消化管間質腫瘍のため68歳で亡くなった。迫真の演技と役柄は、長年、病と闘ってきた自身の状況と重なり合っていた。

【プロフィル】稲沢 裕子(いなざわ・ゆうこ)

1982年、読売新聞東京本社入社。社会部、生活部、経済部記者、ヨミウリ・オンライン編集担当から女性向けサイト「大手小町」編集長。調査研究本部主任研究員を経て、2018年4月から昭和女子大学特命教授。2013年6月、日本ラグビーフットボール協会の女性初の理事に就任。

 

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