福岡ラグビー物語~世界と鍛えあげた「レガシー」

ラグビーW杯日本大会に向けて準備が進む東平尾公園博多の森球技場(福岡市提供)

毎年4月末から5月初めの大型連休中に、ラグビー強豪国・地域の高校生世代のチームが、福岡県宗像市の多目的スポーツ・文化施設「グローバルアリーナ」に集まって対戦する。日本の高校生が、ニュージーランド(NZ)やイングランドなど「ティア1」と呼ばれる世界トップクラスのラグビーを体感する貴重な機会となっている。

今年度、20回大会を迎えたこの「サニックスワールドラグビーユース交流大会」には、日本や世界ランキング上位のNZ、ウェールズ、南アフリカ、豪州などから、女子7人制を含めて計24チームが参加した。

男子は、南アのポール・ルース・ジムナジウムがNZのセント・ピーターズ・カレッジを破り優勝した。日本勢では、桐蔭学園(神奈川県)が順位決定戦で豪州のウェーバリー・カレッジに勝利し、3位となった。

大会の出場権を得るのは、大阪・花園ラグビー場の全国高校大会前年度ベスト4と、同大会と並行して行われ「裏花園」とも呼ばれる予選会を勝ち抜いたチームなどだ。海外チームはそれぞれのラグビー協会に「トップ5」を条件として選考を依頼する。

過去の日本勢最高は、東福岡(福岡県)と仙台育英(宮城県)の2位(準優勝)だ。歴代参加選手にはその後、各国・地域代表に選ばれたキャップ保持者も多い。2015年ワールドカップ(W杯)イングランド大会の日本戦に出場した南アのウィングのJP・ピーターセン、NZプロップのオーウェン・フランクス、今年のW杯日本大会での活躍が期待されるイングランドのウィング、ジャック・ノーウェルらが名を連ねる。日本代表では五郎丸歩(佐賀工業卒)、松島幸太朗(桐蔭学園卒)らがいる。

かつてサニックスでプレーした渡辺敏行さん。ラグビーの話は尽きることがなかった

大会を共催するサニックススポーツ振興財団の事務局長で、2002年度の3回大会から関わる渡辺敏行さん(43)は「言葉の通じない相手と試合をすることが一番の収穫だと思います」と話す。

相手チームの選手が何を言っているのか理解できず、「海外チームは強い」という先入観にとらわれ、試合に負けてしまう。当初は、こうした日本の高校チームの「弱さ」が目についたという。

「それが回を重ねるごとに互角以上、あるいは、勝つ試合もできるようになった。どうすれば相手を理解し、対応できるようになるのか。チームで先輩から後輩へと引き継がれているのかもしれないですね」

大会では毎回、参加各国・地域の選手が顔をそろえるウェルカム・パーティーがあり、各チームが3分間のパフォーマンスを用意する。

地域の伝統文化を紹介したり、NZのチームは「ハカ」を披露したりする。昨年度は桐蔭学園の選手が、アフリカの飢餓と貧困層の解消を願う歌「ウィ・アー・ザ・ワールド」を流したところ、他の国・地域の選手が、座席を示すために用意された国旗などを手に駆け寄り、パフォーマンスに加わった。「この時の動画は今もスマートフォンに残してあります。見るたびに感動します」と渡辺さんは言う。

言葉は通じなくても気持ちは分かり合える。こんなレガシー(遺産)を、W杯日本大会でも残したい。

「好きだから、もっと高みへ」

「ユース交流大会は高校生活で一番楽しみだった大会」と語る山下昂大さん

花園の全国高校大会で優勝6回を誇る強豪・東福岡は、サニックスワールドラグビーユース交流大会の常連校だ。

同校OBで現在、福岡市を拠点とするトップチャレンジリーグ「コカ・コーラレッドスパークス」で活躍する山下昂大(こうた)さん(29)は、1年生だった2005年度から2007年度まで3年続けて出場した。「高校の3年間で一番楽しみだった大会です」と振り返る。

大会は出場校が総当たりの予選リーグを戦い、順位決定トーナメントに進む。「負けても次があるという、高校生ではなかなかできない体験ができる。負けを次の試合にどうつなげるかが大切」と山下さんは強調する。「国内の強豪はもちろん、海外のチームと試合をできることもうれしかった」

初めて海外チームを目の前にした時の印象は、今も鮮明だ。1年生の時の緒戦の相手は、NZのチームだった。まずは試合前のハカに圧倒された。試合が始まると、速さと強さとうまさにチームは翻弄される。リザーブとして臨み、出場機会はなかったが、「出られなくてほっとするというか、ちょっとびびっていた」。ただ、この試合もきっかけとなり、「チャレンジしたいという気持ちは強くなっていった」という。

コカ・コーラレッドスパークスで活躍する山下昂大さん(コカ・コーラレッドスパークス提供)

最終学年の3年生で臨んだ大会で、東福岡の合言葉は「日本一の前に世界一を取ろう」だった。それまでは花園、サニックスワールドラグビーユース交流大会とも、準優勝が最高成績だった。正月の花園の前に、春のこの大会で優勝することを目指した。

緒戦で優勝候補の南アフリカのチームに勝利する。「行けるんじゃないか」という気持ちになって勝ち上がり、決勝に進出した。豪州チームとの対戦は「僕のミスが多くて優勝はかなわなかった」。それでも、とても有意義な大会だった。この試合の負けがつながったのだろう。東福岡は正月の「花園」で初優勝する。

山下さんは昨年、NZに約4か月間、ラグビー留学した。「プレーヤーとして、より高いレベルを目指したい。そのために、日本とは違ったラグビー文化を知りたかった」という。首都ウェリントンのクラブチームを拠点に、NZ代表スタンドオフのB・バレットらが所属するスーパーラグビー「ハリケーンズ」の練習にも参加した。

「一番うまい選手は最後まで練習をしている。『ラグビーが好きだから、うまくなりたい』という気持ちを強く感じた」

インタビューに応じてくれた山下さんにも、同じ気持ちを強く感じた。

アクセス良好、森の中のスタジアム

緑に囲まれる東平尾公園博多の森球技場(福岡市提供)

福岡は出張のたびにアクセスの良さを実感する。福岡空港から地下鉄が延び、繁華街の天神へも10分ほどだ。

W杯日本大会の会場となる東平尾公園博多の森球技場(レベルファイブスタジアム)は空港から道路1本を隔てたところに広がる。福岡市スポーツ推進部ラグビーW杯担当の重岡清貴さんは「球技場までは歩いても25分です」と教えてくれた。

博多の森球技場はサッカーJ2・アビスパ福岡のホームグラウンドだ。スタンドから周囲を見渡すと、緑の多さに気付く。「海外のチームが来ると『これほど森が迫っているスタジアムは珍しい』と言われる」(重岡さん)ほどだ。

グラウンドは天然芝で、公園管理事務所の平田和子さんたちが手入れをする。平田さんにサッカーとラグビーで違いがあるのか聞いてみた。

「サッカーはボールを転がすゲームなので、芝の長さは大体14~16ミリで短い方がいい。ラグビーは選手が倒れた時のクッション性を考えると、30ミリ前後の長さを求められます」

昨年秋に始まった芝の張り替えと養生は、今年5月で終わった。6月9日には高校ラグビー九州大会県予選の決勝と3位決定戦が行われ、十分な強度が証明された。9月のラグビーW杯開幕に向けた準備は本格化する。

1995年に完成した球技場は、ラグビーW杯に向けて観客席を個別シートとし、電光掲示板を大型ビジョン化するなどの改修工事を終えている。約2万人収容で、メインスタンドのうち約250席にはクッションをつけた。ただ、公園管理事務所は予想もしなかった被害に悩まされている。「カラスがクッションを突っついて破いてしまうんです。試合が終わると直ちに職員がブルーシートでシートを覆って被害を防いでいます」(平田さん)。この作業には約2時間もかかると聞く。

東平尾公園博多の森球技場の試合日程

9月26日(木)イタリア 対 カナダ
10月 2日(水)フランス 対 アメリカ
10月12日(土)アイルランド 対 サモア

渡辺 嘉久(わたなべ・よしひさ)

読売新聞東京本社編集委員。1964年、東京都生まれ。1987年、読売新聞東京本社入社。青森支局、社会部、政治部、世論調査部などを経て2013年から現職。朝刊教育面「18歳の1票」、夕刊「旅」「史書を訪ねて」などを担当し、幅広い分野を取材。大学時代に同好会でラグビーを始め、入社以来のブランクを経て40歳過ぎで再開。今もプレーを楽しむ。

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