ラグビー超初心者のために~稲沢裕子の読むラグビー&ときどき映画案内

8月24日は「ラグビーの日」。ラグビーワールドカップ(W杯)観戦チケットの発送が始まり、いよいよ大会が近づいてきた。そこで今回は、ラグビーを全く知らない大人も子どもも楽しめる「超」初心者向けの本を紹介したい。お子さんの夏休みの読書感想文にもお薦めだ。大人も目を通せば、アジア初のW杯日本大会をもっと面白く楽しめるだろう。

「ラグビーっぽくない」ルール本

「ラグビーのルール 超・初級編」(中野良一・木谷友亮著、ハーパーコリンズ・ジャパン、税込み972円)

ラグビーのルールは難しいとよく言われる。そこで登場したのが、「これさえ読めばなんとかなる」という副題が付いた「ラグビーのルール 超・初級編」だ。

太っちょのルール伝道師「キシボーイ」が、ラグビーの基本やポジションを紹介するのだが、特徴は「ラグビーっぽくない」こと。

ルール本を名乗っているが、反則は「前に落とすノックオン」と「前に投げるスローフォワード」さえ知っておけば「なんとかなります」と太鼓判を押す。「痛くないですか?」といった素朴な疑問にも答えるし、「ラグビーふむふむノート」では、なぜ8月24日が「ラグビーの日」になったのかの由来も紹介。

本がパラパラ漫画になっている仕掛けも楽しい。漢字はすべて仮名が振ってあるから、子どもでも大丈夫だ。

キシボーイには原作がある。ラグビー・トップリーグの試合前やハーフタイムにスタジアムの大型ビジョンで流れる動画のキャラクターだ。昨年12月、大阪・花園ラグビー場でこれを見た出版社「ハーパーコリンズ・ジャパン」の編集者・山本有紀さんが「かわいくて本になる」と思い立った。

太っちょ「キシボーイ」が分かりやすくルールを解説

同社で女性向け恋愛シリーズ漫画を担当する山本さん。実は早稲田大学在学中に国内初の大学女子公認チーム「早大女子ラグビークラブ」に所属していた元プレーヤーだ。この日も世界的スターのダン・カーターのプレーを一目見たくて花園まで出かけたのだった。

動画を制作したクリエイターの中野良一さんと木谷友亮さんは、出版にあたり「ラグビーファンでないと入りにくい雰囲気」を払拭しようと、難しくないことをモットーにした。「すべてのページがポスターみたい」(中野さん)で「漫画のように分かりやすい」(山本さん)本に仕上がった。

ポジションを知るともっと身近に

ラグビーのポジション

ユニークなのが、ポジションの説明だ。「ポジションごとに役割が異なれば、プレーヤーの特徴も違ってくるところが面白い」と、動画にない情報を盛り込んだ。

まず、フォワードが守備的で、バックスが攻撃的だから、ざっくり、サッカーの逆と覚えよう。

フォワードでは、スクラム最前列のプロップ(背番号1、3)は「優しい怪力」で、「スクラムの要」のフッカー(2)と合わせて三兄弟と呼ばれる仲良し。ロック(4、5)はとにかく背が高い「大巨人」。

フランカー(6、7)は「スタミナ王」。チーム一の仕事量と運動量で「黙々と働き続ける献身的な奴」は「トライの影の功労者の時が多い」。そうと知れば、日本代表リーチマイケル主将のプレーを追ってみたくなる。ナンバーエイト(8)が「暴れん坊」と紹介されると、日本代表のアマナキ・レレイ・マフィ選手の突破が思い浮かぶ。

バックスでは「つなぎ役」となるスクラムハーフ(9)は負けん気が強い。スタンドオフ(10)の「司令塔」がゲームを作り、ウイング(11、14)は足の速さを生かしてトライを取る「超特急」。センター(12、13)は「俺が行かなきゃ、誰が行く」を座右の銘に、「切り込み隊長」を務める。

前回2015年のW杯イングランド大会で五郎丸歩選手が務めたフルバック(15)は「最後のとりで」。試合中しばしば見られる、相手陣地にボールを蹴り込むシーンは「考えもなく蹴り合っているように見えるが、実は頭の中で状況を瞬時に計算」していて、「試合後は頭も体もくたくた」だそうだ。

そして「31人目の選手」としてレフェリーが登場する。W杯では「反則による中断を少なくして試合を面白くする」レフェリングにも注目したい。レフェリーポーズをチェックしておくと、試合をさらに楽しめそうだ。

ラグビー憲章が掲げる五つの価値「(左から英語で)品位、尊重、規律、情熱、結束」(2015年、英ブライトンで)

ラグビー精神を知ろう

「ラグビーが教えてくれること」(村上晃一著、あかね書房)

「品位・尊重・規律・情熱・結束」――。ちょっと硬い言葉を真正面から章立てにしたのは、ラグビージャーナリスト・村上晃一さんによる「ラグビーが教えてくれること」(あかね書房)だ。児童書だが、大人にも読んでほしい内容だ。

この五つの言葉は、「ラグビー憲章」が掲げる価値だ。国際統括団体ワールドラグビーが2009年、ラグビー精神の基本をこの五つの言葉に集約し、以来、各国で大切にされている。

ルールは選手の安全性への配慮などから毎年改定されるが、競技規則は一貫してラグビー憲章から始まる。2015年のイングランド大会では、スタジアム全体が五つの言葉のデザインで統一されていた。

村上さんは小学5年で始めたラグビーに魅せられ、「ラグビーマガジン」の編集長を10年務めて独立する傍ら、34歳までプレーも続けた。子どもたちに一番伝えたいことを突き詰めたら、「それがラグビー憲章だった」という。

五つの価値は、村上さんが出会った選手や指導者の体験を通じて、かみ砕いて語られるから、子どもにも具体的で分かりやすい。登場するのは、日本代表の流大(ながれ・ゆたか)選手、姫野和樹選手をはじめ、日本人で初めてラグビー殿堂入りした坂田好弘・関西ラグビーフットボール協会会長、リオデジャネイロオリンピックに出場した女子7人制代表「サクラセブンズ」唯一のお母さん選手、兼松由香さんたちだ。

「結束」の章に登場するのは、トップリーグ・神戸製鋼に所属するイーリニコラス選手。あのリーチ選手が高校生でニュージーランドから来日したきっかけは、イーリ選手との「生涯続く友情、絆」だったという。「規律」の章では、東海大大阪仰星高校ラグビー部・湯浅大智監督の「常に勝利に値するチーム、人」作りの神髄が「規律とは思いやり」であると説きほぐす。

「尊重」の章では、ラグビーで最も大事な「ゲームに参加する人を尊重する」気持ちを、都内のラグビースクールの小学生たちの姿に読み取る。関東大会予選で試合が引き分けに。次のステージに進むためのくじを引き当てたが、相手チームへの配慮から喜びを抑え、相手の悔しさを胸に練習を積み、最後は日本一になった。

村上さんは、ラグビー憲章を知り、内容を理解し、実践できる子どもを増やせたら、「相手を尊重しない差別的な言動をなくして、だれも取り残さない社会の実現に役立てるのではないか」と思いを込めた。

子どもたちには「相手の立場を認め、相手の嫌がることをしない姿勢を、スポーツを通じて学んでほしい」という。W杯では「相手選手やレフェリーを尊重しながら、国籍、民族を超えた絆で結ばれた仲間と協力して勝利を目指す選手たちを応援してほしい」と呼びかけている。

もっと知りたい人のために
キシボーイの動画は、日本ラグビーフットボール協会のホームページ「ラグビーを知る・楽しむ」のビギナーズガイドで見られる。
日本ラグビー協会

「ワールドラグビー競技規則ウェブサイト」でラグビー憲章を含む、2019年版ワールドラグビー競技規則をダウンロードできる。登録すれば、競技規則テストに挑戦し、合格証明書をもらうこともできる。
ワールドラグビー競技規則ウェブサイト

【プロフィル】稲沢 裕子(いなざわ・ゆうこ)

1982年、読売新聞東京本社入社。社会部、生活部、経済部記者、ヨミウリ・オンライン編集担当から女性向けサイト「大手小町」編集長。調査研究本部主任研究員を経て、2018年4月から昭和女子大学特命教授。2013年6月、日本ラグビーフットボール協会の女性初の理事に就任。

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