札幌ラグビー物語~地域に根ざすクラブチームの挑戦

敵陣に攻め込む赤いジャージーの北海道バーバリアンズ(9月1日、札幌市で)

札幌市のラグビークラブ「北海道バーバリアンズ」の歴史は1975年、高校時代からの友人5人が集まり、始まった。田尻稲雄さん(71)が当時を振り返る。「高校の体育の先生が授業でラグビーしかやらなかった。何かスポーツをやろうと思った時に『やっぱりラグビーだよな』という話になった」

今は女子や小中学生も含めて、約270人が所属する。全国クラブ大会3連覇中で、計4回の日本一に輝いた。郊外には天然芝のグラウンドやクラブハウスを持つ。

飛躍のきっかけは1987年の第1回ワールドカップ(W杯)ニュージーランド大会だった。観戦に訪れた田尻さんらは本場のラグビー、そして本場のクラブライフを体感する。「日本のスポーツは学校や企業に依存している。どうして自分たちでお金を出し、寄付して、組織を作り、運営して楽しまないのか」

欧州型クラブ組織への転換を図り、1999年にNPO法人となる。2002年にはジュニアと35歳以上のチームを作り、ラグビーを「ゆりかごから墓場まで」楽しめる体制を築いた。クリケットやジュニア・アイスホッケーチームなども設けて総合型クラブに移行、会員数は合計370人を超える。

ラグビーでは、2009年に強化計画「これからの10年」を策定した。2020年を目標年とし、その年のオリンピック男女7人制代表に選手を送り込むことなど、トップアスリート育成を掲げた。バーバリアンズ女子7人制チームの岡村由惟主将(28)は「多くの人のサポートに感謝している。伸び伸びとプレーできることが、選手としての成長につながっている」と教えてくれた。

バーバリアンズでのクラブライフはどんなものか。元ユニバーシアード7人制代表の七戸勇気さん(28)は「クラブチームとして日本で最も施設が整っている。子どもから大人まで自由に楽しんでいる」と話す。

「これからの10年」は来年、目標年を迎える。日本のクラブラグビーの歴史が、バーバリアンズの挑戦によって、さらなる進化を遂げることを期待したい。

開幕100日前を記念して日本代表のジャージーを着せた「さっぽろ羊ヶ丘展望台」のクラーク博士像(現在は着せていません)(札幌市提供)

W杯開催、ラグビー人気に追い風

札幌市ラグビーW杯担当課長の山崎高徳さん(58)は「スポーツには『見る』という楽しみ方もある。プロ野球・日本ハムファンのお母さんたちが、みんな野球をするわけではないですよね。ラグビーは見るのも楽しいスポーツです」と話す。W杯日本大会をきっかけに、ラグビーが「見るスポーツ」として幅広く認知されることを望んでいる。

札幌にとってラグビーは、どちらかと言えばなじみの薄いスポーツだ。野球は日ハムがある。サッカーならJリーグのコンサドーレ札幌がある。ラグビーはというと、トップリーグのチームがあるわけではない。高校では、札幌山の手高校が日本代表主将のリーチマイケル選手の出身校だが、全国の強豪に名を連ねるには至っていない。札幌が日本大会の会場の一つに決まった当時、「なぜ?」といぶかしむ声も聞かれたという。

その風向きは確実に変わってきている。6月2日に札幌ドームで行われたトップリーグのトヨタ自動車対パナソニックの招待試合で山崎さんは実感した。入場者数は約1万2000人で、トップリーグの動員平均の倍を記録した。「私たちにとっては真剣勝負の『大会110日前イベント』でした」と振り返る。

上空から見た札幌ドーム(札幌ドーム提供)

W杯の試合日程も、札幌市やさらには北海道のラグビー人気を高める追い風となっている。札幌ドームでは9月21日にオーストラリア対フィジー、翌22日にイングランド対トンガ戦が行われる。週末にオーストラリアとイングランドという人気も実力もあるチームが続けて登場するのだ。札幌市中心部で行われる食のイベント「さっぽろオータムフェスト」開催も重なり、街全体でラグビーを見て楽しむ雰囲気を作り出す。

札幌市は21、22の両日で外国人2万人が訪れると試算する。山崎さんら市のスタッフは事務所に待機し、万一のトラブルに備えることになっている。「ラグビーが大好きなのに札幌ドームの試合を(生で)見られないなんて……」。そう残念がる山崎さんは高校、そして札幌のクラブチームでプレーをしてきた。今はその代表を務める。

ラグビーの魅力を問うと、こう答えてくれた。

「ラグビーは助け合うスポーツ。もちろん自分の責任は果たさなければならないが、暗黙の了解でカバーし合う。近くに誰かがいてくれるのを感じられるんです」

「ホヴァリング」で場面転換~札幌ドーム

サッカー場から野球場への場面転換作業

山崎さんが「札幌開催の魅力の一つ」と力説するのが会場の札幌ドームだ。2001年の完成当時からコンサドーレ札幌のホームスタジアムであり、2002年サッカーW杯日韓大会でも会場となった。2004年からは日ハムも本拠地として使用している。

サッカーと野球の「二刀流」を可能にしているのが、札幌ドームの象徴とも言える「ホヴァリングサッカーステージ」だ。ラグビーW杯で使われるサッカー用の天然芝グラウンドは、使わない時は屋外で日光を当てながら芝を育成する。野球場からサッカー場への「場面転換」では、外野席部分を開き、天然芝グラウンドをドーム内に引き込む。

天然芝グラウンドは縦120メートル、横85メートルで、車輪などを含めたステージ全体では8300トンの重量がある。それでも移動のために軽量化が図られていて、芝の下の砂の厚みは通常30~40センチのところを、20センチとしている。札幌ドーム施設管理課長の小檜山尚登さん(57)は「その分、水はけはいいが、肥料の効果は長くはもたない」と軽量化ゆえの苦労を話す。

芝は、北海道の気候に適した複数の冬芝を混合している。「暑さなどのリスク管理ができる」(小檜山さん)からだ。Jリーグのシーズンオフとなる冬場は、70センチにもなる積雪の下で寒さに耐える。

4万1410人を収容する全天候型ドームは、競技場というより、巨大なイベント会場といった印象だ。スタンドの歓声はドームに反響し、熱戦をさらに盛り上げるだろう。

重さ約8300トンもある天然芝のホヴァリングサッカーステージ

札幌ドームの試合日程
9月21日(土)オーストラリア 対 フィジー
9月22日(日)イングランド 対 トンガ

渡辺 嘉久(わたなべ・よしひさ) 読売新聞東京本社編集委員。1964年、東京都生まれ。1987年、読売新聞東京本社入社。青森支局、社会部、政治部、世論調査部などを経て2013年から現職。朝刊教育面「18歳の1票」、夕刊「旅」「史書を訪ねて」などを担当し、幅広い分野を取材。大学時代に同好会でラグビーを始め、入社以来のブランクを経て40歳過ぎで再開。今もプレーを楽しむ。

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