大分ラグビー物語~親から子へ 裾野広げる伝統スクール

JR大分駅前の「トライ」のオブジェ

ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会12会場を巡る「ラグビー物語」の取材を始めた頃、知人から「大分が盛り上がっていますよ」と聞いた。取材に入って実感した。大分市中心部はバナーフラッグやポスターなどで飾られ、大型オブジェの「トライ」「スクラム」「ラインアウト」も設置されている。商店のシャッターには、観戦チケットのような武者絵のタッチでラグビーのイラストが描かれていた。

ラグビー熱を支えているのは大分ラグビースクール(大分RS)の存在だろう。1967年に設立された、歴史のあるラグビースクールだ。幼児から中学生まで約140人が在籍する。卒業生(OB)は約550人を数え、今大会の日本代表プロップ、具智元(ぐ・じうぉん)選手もその一人だ。校長の御沓(みくつ)稔弘さん(57)によると、父親がスクールOBで、親子2代で所属する選手もいるという。

他県のラグビースクールとの交流も盛んだ。9月8日には、福岡県大野城市のつくしヤングラガーズ(つくしYR)を招いた交歓会で、小学1~6年の学年別と、中学生の試合などが行われた。締めくくりの中学生の試合で大分RSは先制トライを挙げたものの、つくしYRに逆転を許して敗れた。

大分RS(黒いジャージー)とつくしYRの交歓会

試合後、大分RS主将の井手一登さん(14)は「時間がたつにつれて集中力がなくなっていった。チーム全体の士気を高めないと勝てない」と振り返った。副主将の内海圭佑さん(13)は「今日の試合はミスが目立った。次の試合の課題です」と述べた。

選手にとって、交歓会にはもう一つの楽しみがある。訪問先チームの選手宅での1泊2日のホームステイだ。大分RSの原田楓雅さん(14)は「知らない人の家に泊まって友達になり、次の年はその人や、また知らない人が泊まりに来たりするのは楽しみ」と話す。

原田さん宅には今回、つくしYR主将の立石飛鳥さん(13)が宿泊した。大分と福岡はともにW杯日本大会の開催県だ。立石さんは「ラグビーをやっているので開催は本当にうれしい。将来は世界で活躍できる選手になって、スーパーラグビーなどにも挑戦したい」と笑顔で話してくれた。

再生回数16万超え~温泉とコラボ動画

別府市役所に掲示されたポスターは「日本中をわかそう」と訴える

日本代表のジャージーを着せた油屋熊八像

「別府観光の父」と呼ばれる油屋熊八(あぶらや・くまはち)(1863―1935年)は「山は富士 海は瀬戸内 湯は別府」と書いた標柱を富士山に立てるなど、奇抜なアイデアで観光振興を図った。バスガイドが乗った観光バスを日本で初めて走らせたのもこの人だと聞く。熊八譲りなのだろうか、奇抜な発想は大分のラグビーW杯日本大会のPRにも生かされた。

別府市ラグビーW杯2019推進室の高橋祐人さん(35)は振り返る。「ラグビーは見る人の心を熱くする。温泉はつかる人の体を熱くする。ラグビーと温泉を掛け合わせて何かできないかと考えました」

ひらめいたのは、ニュージーランドやウェールズなど強豪チームがキャンプする市のPR動画作成だった。

腰にタオルを巻いた男性がラグビーボールに見立てた桶(おけ)を片手に温泉街を疾走。タックルを受けながらオフロードパスやノックオンなどのプレーやルールを解説し、ニュージーランドが試合前に舞うハカを模したパフォーマンスで締めくくる。

今年の市の新年祝賀会で初めて公開した時は、どよめきが起きた。YouTubeにアップすると、「面白い」という意見とともに「ああいう格好で撮影するのはいかがなものか」との指摘もあったという。それでもYouTubeでの視聴は16万回を超えた。

「裸の付き合いで心を通わせたい」という思いを込めた動画には、市民や市職員ら約200人が出演する。高橋さんは「別府は、やりすぎと言われるくらい訪れる人たちをもてなす」という。JR別府駅前に立つ油屋熊八の像も、日本代表のジャージーを着て、訪れる人たちを歓迎している。

バスタオル1枚で「温泉ラグビー」再生10万回(2019/01/18)

サッカーW杯でも実績~大分スポーツ公園総合競技場

大分スポーツ公園総合競技場(大分県提供)

大分スポーツ公園総合競技場は大分市郊外の丘陵地にある。可動式屋根を備える多目的スタジアムで、球体の一部が地中から頭を出したように見える。W杯日本大会では、天候にかかわらず屋根を閉じた状態で試合を行う。

完成は2001年で、翌年のサッカーW杯日韓大会の会場となった。Jリーグ・大分トリニータがホームグラウンドとして使っている。

ラグビーは2018年6月に日本対イタリアのテストマッチが行われた。日本が4トライを挙げて34―17で快勝し、2015年イングランド大会以降の進化を印象づけた試合だった。

今大会に向けては今年9月初め、天然芝をハイブリッド芝に張り替える作業を行った。大分県ラグビーW杯2019推進課の土田真由美さん(31)は「連日開催の準々決勝を含む5試合が開催されるため、耐久性に優れるハイブリッド芝導入を決めた」と説明する。

収容人数は約4万人。このうち仮設の可動席分が約6400人となっている。無料で利用できる公衆無線LAN「Wi―Fi」も整備する。

大分スポーツ公園総合競技場の試合日程
10月2日(水)ニュージーランド 対 カナダ
10月5日(土)オーストラリア 対 ウルグアイ
10月9日(水)ウェールズ 対 フィジー
10月19日(土)準々決勝1
10月20日(日)準々決勝3

渡辺 嘉久(わたなべ・よしひさ) 読売新聞東京本社編集委員。1964年、東京都生まれ。1987年、読売新聞東京本社入社。青森支局、社会部、政治部、世論調査部などを経て2013年から現職。朝刊教育面「18歳の1票」、夕刊「旅」「史書を訪ねて」などを担当し、幅広い分野を取材。大学時代に同好会でラグビーを始め、入社以来のブランクを経て40歳過ぎで再開。今もプレーを楽しむ。

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