愛知ラグビー物語~世界と渡り合うマインド

愛知県出身で、トップリーグ「NECグリーンロケッツ」を牽引するPR滝沢直(すなお)さん(32)は、県立千種高校(名古屋市)3年の時の全国大会県予選決勝を振り返る。

「試合に入る心構え、マインドセットが(対戦相手と)違った。その差が出てしまったのかな」

高校ラグビーの聖地・花園行きをかけて戦ったのは名古屋市立西陵商業高校(現・西陵高校)だった。当時の西陵商業は花園の常連で、全国制覇の実績もあった。「相手は『絶対に勝って花園へ行かなければならない』と思っていた。一方の僕たちは『チャレンジして行きたいな』という感じでした」

千種高校は敗れて花園行きを逃してしまう。ラグビーは気持ちの有りようが影響すると改めて思う。

インタビューに応じる滝沢直選手

愛知県のラグビーについて滝沢さんは、「僕が高校生の頃ぐらいまでは全国でトップレベルにはいなかった。それから十数年がたち、力をつけて全国区で戦えるレベルになってきた」と話す。

9月に開幕するラグビーワールドカップ(W杯)で活躍が期待されるフォワードの姫野和樹選手(24)も愛知県出身で、地元の春日丘高校を経て帝京大学で活躍し、卒業1年目にしてトップリーグ「トヨタ自動車ヴェルブリッツ」の主将を任されるなど逸材も輩出しつつある。滝沢さんは「現状でも愛知県は全国で上位というわけではないけれど、力をつけている」と加えた。

6月初め、千葉県我孫子市のNECクラブハウスでインタビューに応じた滝沢さんは「体の強さ、コンタクトの強さもラグビーの本質の一つ」とも強調した。日本人として初めて北米プロリーグ(メジャーリーグラグビー)でプレーするため、5月中旬に渡米し、インタビュー前日に帰国したばかりだった。

「オースティン・エリート」(テキサス州)に加入し、リーグ戦3試合に出場した滝沢さんは「背が高いうえ、横幅のある選手が多く、コンタクトが強かった」と話す。「技術的な面では日本の方が高いと思う部分は多かったが、米国ラグビーが強くなるのは時間の問題というのが正直な感想」と話す。

世界ランキング(7月1日現在)は日本が11位で米国は15位だが、発展途上の米国ラグビーから学ぶことも多かったという。「エンターテインメント性が高く、お客さんがすごく盛り上がっていた。ホームとアウェーもはっきりして、とにかく楽しんでいた」

滝沢さんはラグビーの魅力も再確認した。オースティン・エリートには、米国はもちろん、ニュージーランドや南アフリカ、フランス、フィジー、ウルグアイ、カナダ、チリの出身選手もいた。「ラグビーの魅力の『多様性』は体のサイズだけではないということを感じた」という。

「米国にどっぷりと漬かった」という約3週間は、日本のラグビーを再考する機会になった。

最大傾斜38度が生む臨場感・・・豊田スタジアム

9月開幕のラグビーW杯日本大会で会場となる愛知県豊田市の豊田スタジアムは印象的だ。高さ96メートルの4本のマストが天を突き、メインスタンドとバックスタンドにケーブルでつり下げられた天井は、風を受けて膨らむ2枚の帆のようだ。試合開始を告げるホイッスルとともに、約4万5000人の観客を異次元の夢空間に運んでくれるのだろう。

高さ96メートルの4本のマストが印象的な豊田スタジアム(写真は、豊田スタジアム提供)

愛知県出身で世界的に有名な建築家の黒川紀章さんが設計し、2001年に完成した。豊田市は当初、2002年サッカーW杯日韓大会の会場を目指し、6万人規模のスタジアムを計画した。その選に漏れたことから規模を4万5000人に修正する。今の外観は一連の見直しの過程で形作られた。

目指したのは急傾斜のスタンドが臨場感を高める本場欧州のサッカースタジアムだった。豊田市都市整備部副部長の中村誠さん(57)は「日本にない形を作るというのが私たちの考えでした」と話す。

豊田スタジアム建設当時を振り返る中村誠・豊田市都市整備部副部長

スタジアム建設に早くから関わり、当時、サッカー関係者が例に挙げたオランダの強豪アヤックスのホームスタジアムを私費で訪れた。急傾斜のスタンドには安全性を不安視する意見もあった。「欧州にあるのだから日本でできないことはないと思った」という。

高さ61メートルのスタンドは最大傾斜角度が38度ある。4階席から見下ろすとグラウンドはすり鉢の底にある。前列の人が帽子をかぶっていても邪魔にならないと聞いた。天井をつり下げることで、支柱がいらなくなった。どの席からも視界を遮られることなく観戦を楽しめる。

豊田市はスタンド下段の観客席とグラウンドのラインを平行にすることも重視した。欧州のスタジアム視察などを踏まえたもので、急傾斜の作りと併せ、観客席とグラウンドの距離をより近く感じさせる。

「皆さんそう言いますが、実際は傾斜が強いほど観客席とグラウンドは遠くなるんです」と中村さんは教えてくれた。

「直角三角形を考えて下さい。底辺、つまり座面の長さが同じで、それに直角の辺が長く(高く)なるほど、斜辺にあたる観客席とグラウンドの距離は長くなりますよね」

メモ帳に直角三角形を書いてみるとなるほど、その通りだ。

「人間の錯覚なんですかね。面白いですよね」

支柱のないスタジアムは視界を遮らない

市民2586人で世界一のスクラム

豊田スタジアムに隣接する芝生広場では昨年9月、ラグビースクラムのギネス世界記録が樹立された。豊田市商工会議所青年部が主催し、公募の市民ら2586人がスクラムを組み、ギネスに認定された。

2586人のスクラムでギネス世界記録を達成した(豊田市商工会議所青年部提供)

それまでの世界記録はニュージーランド(NZ)で達成された1758人で、豊田市の記録は828人も上回り、ラグビー王国NZに完勝した。市内にはラグビーワールドカップに関連する横断幕やラッピングバスも走り、開催機運も盛り上がっている。

豊田市は「世界のトヨタ」が本社を構える企業城下町でもある。同市からは少し離れるが、愛知環状鉄道の新豊田駅から電車を乗り継ぎ、リニモ芸大通駅で降りると、長久手市のトヨタ博物館にたどり着く。博物館はクルマ館と文化館の2棟からなる。

クルマ館は日米欧の自動車約140台を動く状態で保存、展示している。自動車の形の変化を楽しみながら、1880年代の黎明(れいめい)期から現代までの歩みを知ることができる。博物館には海外からも含めて年間26万人が訪れるという。

隣接する文化館は43分の1の自動車模型約800台やポスター、おもちゃなどが展示されている。ミュージアムショップでは限定商品も扱っている。

トヨタ博物館のクルマ館には黎明期からの名車が並ぶ

 

<豊田スタジアムの試合日程>
9月23日(月)ウェールズ 対 ジョージア
9月28日(土)南アフリカ 対 ナミビア
10月5日(土)日本 対 サモア
10月12日(土)ニュージーランド 対 イタリア

渡辺 嘉久(わたなべ・よしひさ) 読売新聞東京本社編集委員。1964年、東京都生まれ。1987年、読売新聞東京本社入社。青森支局、社会部、政治部、世論調査部などを経て2013年から現職。朝刊教育面「18歳の1票」、夕刊「旅」「史書を訪ねて」などを担当し、幅広い分野を取材。大学時代に同好会でラグビーを始め、入社以来のブランクを経て40歳過ぎで再開。今もプレーを楽しむ。

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