世界自然遺産登録へ

守り続ける命の森

読売新聞オンライン
制作・著作 読売新聞
 濃密な緑が匂う雨上がりの森に「キョキョキョ」と大きな鳴 き声が響き渡る。沖縄本島北部にだけ生息する飛べない鳥、ヤ ンバルクイナだ。林道にたまった落ち葉の下の餌をついばみ、 再び森の中に消えていった。  イリオモテヤマネコ、アマミノクロウサギなど、多くの希少 種がすむ「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表(いりおも て)島」(鹿児島、沖縄県)が今月、世界自然遺産に登録され る。日本の国土の0・1%の対象地域に国内の25%にあたる 約9500種の動植物が息づく。  だが、その「生物多様性」の足元は危うい。森林伐採や交通 事故、マングースやノネコによる捕食などにより、希少種が絶 滅の危機に瀕する。各地域では、地元住民と行政、民間団体が 一体となって、こうした命を守り、ヒトとの共生を探る取り組 みを続ける。  沖縄県国頭村の環境省やんばる野生生物保護センター・飼育 下繁殖施設では6月、ヤンバルクイナのヒナ3羽が人工孵化 (ふか)で生まれた。同施設では、人工繁殖、施設で飼育され た個体の野生復帰の研究が進んでいる。 (2021年7月12日公開)

林道を歩くヤンバルクイナ。温暖・多湿な亜熱帯性気候の多雨林には多くの固有種や絶滅危惧種が生息する(6月24日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

環境省の飼育下繁殖施設で人工孵化(ふか)により生まれた生後2日のヤンバルクイナのヒナ。一時、700羽まで激減したヤンバルクイナは1500羽程度まで生息数が回復した。絶滅を免れるため、遺伝子の多様性を確保しながら飼育下でも繁殖が行われ、野生に返す取り組みが行われている(6月23日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

環境省の飼育下繁殖施設で、民家にぶつかって骨折した絶滅危惧種・ノグチゲラの診療をするNPO法人「どうぶつたちの病院沖縄」の長嶺理事長(左)。ヤンバルクイナの繁殖や希少な野鳥の治療など忙しい毎日が続く(6月23日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

飼育下繁殖施設の飼育スタッフによって調べられる近隣住民が持ち込んだヤンバルクイナの卵(6月23日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

深い森が広がる沖縄本島北部(7月5日、読売機から)=大原一郎撮影

絶滅危惧IB類のホントウアカヒゲ(6月24日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

リュウキュウマイマイを食べるリュウキュウアカショウビン(6月24日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

雨上がりの森を飛び立つクビワオオコウモリ(6月24日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

鮮やかな黄色のリュウキュウカジカガエル(7月5日、沖縄県大宜味村で)=冨田大介撮影

夜咲いて、明け方に散ってしまうサガリバナ(7月6日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

国の特別天然記念物で、沖縄島北部のやんばる地域のみに生息する固有種・ノグチゲラ(6月26日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

真っ暗な林道であたりを見回すリュウキュウコノハズク(6月24日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

道路でうずくまるアマミノクロウサギ。採食やフンをするときに開けた場所に出てくる習性があり、交通事故が絶えない(6月22日、鹿児島奄美市で)=大原一郎撮影

 奄美大島では2月、交通事故に遭ったアマミノクロウサギ が、「ゆいの島どうぶつ病院」(鹿児島県奄美市)に運び込ま れ、大腿骨の一部を切除する手術を受けた。同病院は、同省な どと連携し、野生動物の治療に当たっている。  手術を担当した佐藤花帆獣医師(28)は、「希少生物が身 近だからこそ、守る意識が大切」と語る。

交通事故で脱臼した右後ろ脚の手術を受けたアマミノクロウサギの雄。執刀した佐藤花帆獣医師が経過を確認する。今後鹿児島市の動物園でリハビリを行う予定で「筋肉を付け、また奄美の森を動き回ってほしい」と佐藤獣医師は願う(6月25日、鹿児島県奄美市)=大原一郎撮影

奄美大島と近くの島にのみ生息する、国の天然記念物ルリカケス(6月27日、鹿児島奄美市で)=大原一郎撮影

木の枝から枝を渡る、国の天然記念物のケナガネズミ(6月22日、鹿児島県奄美市で)=大原一郎撮影

国指定天然記念物で絶滅危惧II類のオーストンオオアカゲラ(7月6日、鹿児島県龍郷町で)=大原一郎撮影

奄美大島の山間部で多く見られるハブ。猛毒を持つハブの駆除を目的に、島外から持ち込まれたマングースが繁殖して希少生物が捕食され、減少する一因になった(6月22日、鹿児島奄美市で)=大原一郎撮影

奄美大島の固有種、アマミイシカワガエル(6月22日、鹿児島県奄美市で)=大原一郎撮影

奄美大島以南に生息するリュウキュウハグロトンボ(6月23日、鹿児島県大和村で)=大原一郎撮影

日本固有種で絶滅危惧II類のアマミヤマシギ(6月22日、鹿児島県奄美市で)=大原一郎撮影

ノネコを捕獲するため、希少種の生息域に仕掛けられたワナ。アマミノクロウサギやケナガネズミを捕食していることが確認され対策が進む。捕まえられたノネコは島外にも引き取られている(6月25日、鹿児島県奄美市で)=大原一郎撮影

沖縄本島では絶滅した絶滅危惧IA類のリュウキュウアユ(7月8日、鹿児島奄美市で)=大原一郎撮影

奄美市住用のマングローブ群生地ではメヒルギの種が定着し、成長を続けていた(7月7日、鹿児島奄美市で)=大原一郎撮影

西表島のマングローブ群生地(7月5日、沖縄県竹富町で、読売機から)=大原一郎撮影

マングローブ林で食事するオカヤドカリ。国の天然記念物(7月7日、沖縄県竹富町の西表島で)=冨田大介撮影

マングローブ林の河口干潟で群生するミナミコメツキガニ。(7月7日、沖縄県竹富町の西表島で)=冨田大介撮影

海辺を歩くヤシガニ。絶滅危惧II類(7月6日、沖縄県竹富町の西表島で)=冨田大介撮影

八重山諸島に自生するナリヤラン。絶滅危惧ⅠB類で、近年、なかなか目にすることはなくなった(7月7日、沖縄県竹富町の西表島で)=冨田大介撮影

西表島と石垣島だけに生息する準絶滅危惧種のオオハナサキガエル(7月6日、沖縄県国頭村で)=冨田大介撮影

サキシマキノボリトカゲ(7月7日、沖縄県竹富町の西表島で)=冨田大介撮影

洞窟の中を飛び回るカグラコウモリ。八重山諸島の固有種(7月6日、沖縄県竹富町の西表島で)=冨田大介撮影

枝の上で羽を休めるカンムリワシ。絶滅危惧IA類で、国の特別天然記念物(7月8日、沖縄県竹富町の西表島で)=冨田大介撮影

森を守り、命を守り、次の世代につなげる。島人が守り続けてきた命の森は間もなく世界の宝になる。

【撮影】読売新聞写真部・冨田大介、大原一郎
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