北朝鮮 瀬取り監視

カナダ軍のネオン作戦

米軍ホワイトビーチ(沖縄県)に入港したカナダ海軍のフリゲート艦「レジャイナ」(右) 
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制作・著作 読売新聞

 北朝鮮が2017年の国連安全保障理事会の制裁決議に違反し、繰り返し行っている石油精製品を海上で船から船へ移し替え密輸する「瀬取り」。東シナ海公海上などでの瀬取りの警戒監視活動には、日米に加え、英豪仏、ニュージーランド、カナダが参加している。
 昨年から参加しているカナダ軍は、今年からは艦艇と航空機、人員を交代で一定期間派遣する2年計画の「ネオン作戦」を展開し、体制を強化している。6月から7月にかけて、国連軍地位協定にも基づいて米軍嘉手納基地(沖縄県)を拠点に活動したカナダ軍哨戒機・CP140「オーロラ」と米軍ホワイトビーチ(同県うるま市)に寄港したフリゲート艦「レジャイナ」、補給艦「アステリックス」、指揮官らを訪ねた。

米軍嘉手納基地(沖縄県)内で、大型のカーキ色のテントが強い風雨に揺れていた。5月30日から7月5日まで、瀬取りの監視活動のためにカナダから空輸され、設置されたものだ。

カナダ軍は国連軍地位協定に基づき、昨年から米軍嘉手納基地を拠点に、北朝鮮の瀬取り監視活動に参加している。北朝鮮は、国連安全保障理事会の北朝鮮制裁決議に違反する年50万バレルの上限を超える石油精製品を密輸しているとされる。瀬取り監視活動は日米が2017年から始め、昨年から英豪カナダ、ニュージーランドが参加し、今年からは仏も加わり国際協力が強化されている。

テント内には「セキュリティ・ゾーン」と英仏2か国語(カナダの公用語)で書かれた扉があった。海上コンテナ2つをつなげて作られた「部屋」は、カナダから輸送機で空輸された「戦術作戦室(通称TOC、Tactical Operation Center)」で、CP140とともに世界で展開する可動式の小基地だ。正式名はDeployable Mission Support Centre (DMSC)。

アジアでのTOC設置は初。極度に冷房が効いた内部にはパソコン、レーダーなどの電子機器が並び、カナダ空軍部隊8人と米兵らが迎えてくれた。内部には携帯など電波の出る機器は持ち込み禁止、撮影は不可だった。哨戒機・CP140が集めた映像やデータはここに集約され、分析が行われる。TOCには衛星通信機器、PCが詰め込まれており、大容量のストレージ(補助記憶装置)が備えられている。

ウグ・カヌエル海軍大佐(右、白い制服)は、「カナダは国連中心主義だ。昨年から東シナ海での瀬取りの警戒監視活動に参加しているが、今年からは『ネオン作戦』と名付けた2年計画を展開している。航空機と艦艇、人員を一定期間、継続的に派遣している。国連安保理決議の実効性確保に取り組むためとアジア太平洋地域の安定に貢献するためだ」という。瀬取りに参加表明している国の中でも、米英豪、カナダ、ニュージーランドの英語圏5か国は「ファイブ・アイズ(5つの目)」を形成して、軍事機密を共有しているとされる。

「海洋での監視活動は1国では成し得ない。マルチナショナル(多国籍)な協力が不可欠だ。NATOの中では小規模であるカナダ軍にとっては、各国との連携のよい機会でもある」という。

哨戒機CP140「オーロラ」。5月30日から7月5日まで米軍嘉手納基地を拠点に警戒監視活動を行った。上空から「国連安保理の制裁決議違反を疑われる船」の捜索と追跡を行い、レーダーやカメラを使い、映像や位置情報などを集めた。機体先頭部分がレーダー。(※背景の一部を加工しています)

哨戒機・CP140「オーロラ」の本国での主な任務は対潜哨戒活動で、機体下部には、上空から音響探知機(ソノブイ)を投下して潜水艦を探知する「ソノブイ・シューター」(写真)がついていた。カナダ沿岸では「カナダの主権を守るため、対テロ、麻薬密輸阻止の活動、北極圏での海難救助なども行う」という。

哨戒機・CP140「オーロラ」の内部。カナダから派遣された空軍部隊ら40人は、5月30日から7月5日まで、米軍嘉手納基地を拠点に監視活動を行った。嘉手納基地を離陸し、海上で警戒監視をして同基地にもどるパターンで、気象条件などにもよるが、1回の平均飛行時間は10時間だという。9月末には哨戒機・CP140とともに、新たなチームが派遣される。

CP140の操縦席と空軍パイロット。「瀬取り」は英語ではship-to-ship cargo transferで、船から船へ荷物を移す行為を指し、カナダ沿岸ではほとんど見たことがないという。東シナ海の公海上では、日常的に「瀬取り」を行っている船が多数見られるが、この中から「国連安保理の制裁決議違反の行為を行っている北朝鮮」の映像やデータで証拠を集めることが瀬取り監視の任務だ。瀬取り監視は「情報収集活動(インテリジェンス)」だという。

CP140に備え付けられたキッチン。1回の警戒監視活動で平均のフライト時間は10時間。気象条件や捜索の状況などで変わる。米軍嘉手納基地から離陸し、基地にもどる。嘉手納基地は監視の現場に近く、任務には合理的な場所だという。

機内で打ち合わせるパイロットら。「ターゲット監視」とよばれるあらかじめ情報のある「瀬取りを疑われる船」を捜索、追跡する場合と、パトロール中に新たに疑わしい船を発見する場合など、監視方法はさまざまだ。

CP140機内に搭載された電子機器。集めた「疑わしい船」の映像、位置情報などは、嘉手納基地に設置されたコンテナの「戦術作戦室(TOC)」に集約されて分析される。情報は監視活動をする各国と共有などし、最終的には本国を通して国連安保理の北朝鮮制裁委員会・専門家パネルに送られ、制裁決議違反などが判断される。

カナダ空軍のデラ・ロッカ少佐(右)は、瀬取り監視に参加する各国が、膝を付き合わせて頻繁に協議をするという「(制裁決議)執行調整所」(Enforcement Coordination Center、ECC)のメンバー。カナダ人は2人。他に日米英豪仏、ニュージーランド、韓国が調整役を置いているという。「(制裁決議)執行調整所(ECC)」は米海軍横須賀基地(神奈川県)を母港とする第7艦隊の揚陸指揮艦「ブルーリッジ」内にあるとされる。情報を共有し、監視の分担などを話し合う各国間の調整(coordinate)であり、指令(command)はしないという。

東シナ海での瀬取り監視活動を終え、6月26日、米軍ホワイトビーチ(沖縄県うるま市)に入港したカナダ海軍フリゲート艦「レジャイナ」(右)と補給艦「アステリックス」。6月17日から25日に東シナ海で瀬取りの監視活動を行った。2隻は今年2月にカナダ西海岸を出港し、中東海域などで2か月間、対テロ海上警察活動を行い、テロ組織の資金源となる麻薬などを押収した。その後、ベトナム沖で海上自衛隊の護衛艦「いずも」などと日加共同訓練(KAEDEX)を実施、台湾海峡を通り東シナ海に入り、6月17日から25日に東シナ海で瀬取りの監視活動を行った。海上で各国と合同訓練などを続けながら、8月19日、半年ぶりにカナダに帰港した。

「レジャイナ」の艦内で、「上海沖あたり」と言いながら、監視活動を行った東シナ海域を指すジェイコブ・フレンチ艦長。「艦橋のレーダーに200隻の船が映ることもあり、公海上は非常に混んでいる。船から船へ荷を積み替える瀬取りは珍しくない。何隻もの船を積み替えて最終的に北朝鮮に石油精製品が渡ることもある。疑わしい船が公海上から中国領海内に入り、艦載ヘリが追跡を断念することが今回あった。制裁決議違反の北朝鮮による密輸の監視は、困難を伴うが不可能ではない。制限の中でベストをつくす」と話した。

「ここは艦の頭脳だ。電波の出る物は持ち込み禁止、撮影は許可する部分のみ」、と艦長に案内された「戦闘指揮所(CIC、 Combat Information Center)」は暗く、電子機器が並んでいた。艦長が“右腕”と呼ぶロブ・ダベンポート少佐(中央)は、「240人の乗組員のうち最大のチーム、76人が24時間体制でレーダー、ソナー、カメラなどからの空海域の情報を監視、分析し、このイスに座る私のところに集め、艦長に報告する」と話した。東シナ公海上で行った瀬取りの監視では、艦載ヘリ・CH148「サイクロン」が赤外カメラなどを使い、「瀬取りを疑われる船」の夜間撮影に成功、監視参加各国からなる「制裁調整所」にも情報を提供した。

”Veto Panel”と呼ばれ、指揮官が安全上の問題などで以下のシステムの使用に対し、拒否権を行使できる。
ボフォース57mm 砲(57mm Bofors gun)
魚雷(Mk 46 anti-submarine torpedoes)
CHAFF(チャフ)
対艦ミサイル「ハープーン」(Harpoon anti-ship missile)
対空ミサイル 発展型シースパロー(Evolved Sea Sparrow anti-air missile )
CIWS (20mm Phalanx Close-in Weapon System )

「レジャイナ」の艦上に格納されている艦載ヘリ・CH148「サイクロン」。 「艦艇は大きく標的になりやすい。艦載ヘリは、甲板から離陸後すばやく現場海域で活動できる。警戒監視活動には欠かせない。今回も疑わしい船の夜間撮影に成功した」と艦長。

CH148「サイクロン」は、テール(尾部)とブレード(翼型)が折りたためる仕様になっている。広げるのには約4分しかかからない。瀬取り監視任務を終え、格納庫でメンテナンス中だった。

サイクロンの操縦席の下にある「カメラボール」。回転し、赤外撮影も可能で、今回の監視活動中に公海上で「疑わしい船」の夜間撮影に成功し、映像と情報を「(制裁決議)執行調整所(ECC)」と共有できたという。

CH148「サイクロン」の下部についているレーダー(丸い部分)。機体内部の撮影は禁止だった。

【取材・撮影】読売新聞社 加藤祐治、山岸直子
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