高知最南西端で作る里海

「海を耕す」

 
読売新聞オンライン
制作・著作 読売新聞

【企画、取材、写真】読売新聞東京本社教育ネットワーク事務局・秋山哲也

初夏、「柏島ブルー」を見せた竜ヶ浜(手前)と周辺(6月5日)。中央の島が、黒潮実感センターのある大字柏島地区。集落全体の人口は約400人。少子化が進む。島の山頂部にあった旧柏島小学校は防災倉庫に代わり、島の小中学生は、スクールバスで約15㌔離れた大月町中心部の公立学校に通う。高齢化も進むが、島の人々は生き生きとしている。漁業や養殖業、ダイビングガイドなどを中心に、海の資源とその恵みで生計をたてる人たちが多い。

江戸時代、土佐藩の家老だった野中兼山が、集落を風波から守るために築いた石堤が今も健在。人が海に働きかける里海作りは大昔から始まっていた。

水深15メートル。キビナゴの大群に出会った。

人に驚くこともなく、悠然と通りすぎるアオウミガメ

黒潮実感センターのセンター長、神田優さん(52)。高知大学農学部栽培漁業学科を卒業後、東京大学海洋研究所で大学院博士課程を修了。1998年に島に移住。廃校となった旧柏島中学校の校舎を拠点として、研究と教育啓発に取り組んできた。2012年には「持続可能な里海づくりを通じ、海洋立国日本の推進に著しい功績をあげた」と、内閣総理大臣表彰を受賞した

サンゴの下で休むハリセンボン(左)。近づいても自然な表情をみせてくれる。右は人の背丈より大きくなるソフトコーラルの仲間

フクロノリのついた岩場で休むアオウミガメ。周囲にはテーブルサンゴ群が広がる

穏やかな里海の夕日(右)。夕闇に憩う住民たちのすぐ目の前で時折、息継ぎのためにアオウミガメが顔を見せる

ウミカラマツに産み付けられたアオリイカの卵(下の白い部分)

4年前に古里の柏島に戻り、母親の千浪(ちなみ)さん(右)が1990年代はじめに取得したダイビングショップの看板を引き継いだ長男の梶原秀一さん(32、左)。柏島の海の良さを改めて見直し、和歌山の酒造会社を退職しUターンした。父親の紹之(つぐゆき)さん(63)は毎日、自分の船で一本釣り漁に出る

現在黒潮実感センターのある旧柏島中学校の校舎に残された、廃校時の思いを描いた銅版レリーフ。梶原秀一さん(32)が彫った自画像は、右の一番上。思いを忘れず柏島に戻ってきた

アオリイカの産卵床とするヒノキの間伐材を、山から柏島漁港に運び、大月町産業振興課の職員と協力して岸壁に並べる梶原秀一さん(左)ら地元ダイビングショップのスタッフ。すくも湾漁業協同組合も全面的にこの事業に協力。漁場を提供している。「海と山がつながっちょることを、子どもたちに教えるのは実に良いこと」。同柏島支所の黒田朝男理事は話した

豊かな森が海際まで続く高知県大月町

産卵床を入れる海域で潜水の準備をする地元ダイビングショップのスタッフ

産卵床を固定するための鉄棒を打ち込むNPO法人黒潮実感センターの神田優さん

ヒノキの産卵床を固定させる神田さん

ダイビングショップのスタッフがウバメガシの産卵床を固定していると、カワハギ(中央)が興味を示し近づいてきた

大月小学校で森と海のつながりを教える授業の前日、熱や光による乾燥を嫌う土壌動物をおびき出す自作の「ツルグレン装置」を準備する神田さん。上からライトをあて続けると、容器の下にトビムシなどが落ちて溜まる

大月小学校の裏山に広がる森林で、6年生の総合の授業「アオリイカ産卵床づくり」を講師として行う黒潮実感センターの神田さん。左側の斜面は間伐が行われているため下草が茂る。まったく人の手が入っていない右側の斜面は、がれきが目立つ(4月22日)

スギの葉を数回ひねると葉っぱが一直線に並ぶ

多くの太陽光線を浴びようと成長するスギの葉の形状を、児童に説明する神田さん

森の観察をしながら、プラスチックなどのごみを自発的に拾い集めた児童もいた。森のごみは、川から海に流れていく

手入れがされた斜面の土を取る。この場所は、ふかふかの腐葉土に覆われていた

林で取った土を広げ、実体顕微鏡で土壌動物を探す。「めっちゃ、おる!」「きもいけどかわいい!」と児童たちからは驚きの声があがった。「いっぱおるだろ。こいつらが土を食べて、栄養を作ってくれているんや」。神田さんは土壌動物が果たす重要な役割を教えた。

トビムシ(白い)やダニなど、土を食べて栄養を作る土壌動物(マイクロレンズで撮影)

森と海のつながりを教える授業の翌日は、海に出てアオリイカの産卵床を入れる実習授業が行われた。児童たちは柏島漁港の岸壁で、用意された間伐枝木の余分な小枝を、ノコギリで切り落とす作業をした(4月23日)

人とイカの共存をイメージして女子児童が描いたメッセージプレート

漁協の理事(左)らが小型船の先頭部に立ち、アオリイカの産卵床の設置海域(後方)に到着。海に「田植え」をするような協働作業が始まる(4月23日)

児童たちが、産卵床を海に落とす

別の船に乗った児童たちも、合図に従って産卵床を海に投入

海底でダイバーによって鉄の棒にくくりつけられた、メッセージプレート付きの竹(4月23日)

約1ヶ月半後の6月3日、人工産卵床の底の方を中心に、卵がびっしりと産みつけられていた。

メッセージプレートに描かれた児童の願い通り、びっしりと卵が産み付けられていたヒノキの産卵床(6月3日)

オス(右)が見守るなか、ヒノキの人工産卵床に卵を産み付けるメスのアオリイカ(6月3日)

産卵するメスのアオリイカ

神田さんが授業を行っている大月町立大月小学校の水槽内で生まれ、数日たった アオリイカの赤ちゃん(6月13日)。体長は1センチほど。児童たちに孵化や成長を 観察してもらおうと、神田さんが6月4日に海底で採取した卵から誕生した

アオリイカの赤ちゃんが誕生する瞬間を観察できるのはめったにない機会。その瞬間を観察することができた児童(下)は、「房からピュッと出て、下のほうに行きよって、しばらくじっとしていた」と話す

卵の房にとりつき一休みする、体長約1㌢に成長した赤ちゃん

目の後ろが青く光るものがいた

2000年代はじめの台風で大きな被害を受けたという柏島のテーブルサンゴもすっかり回復。アオウミガメも気持ちよさそうに泳ぎ回っていた。2015年に国連が採択したSDGs(持続的開発目標)を先取りするような神田さんらの取り組みに、これからも注目したい

  読売新聞オンライン
Copyright (C) The Yomiuri Shimbun.
今回取り上げた写真の一部は、「よみうり報知写真館」で購入できます