[サイエンスReport]iPS がん退治の切り札…免疫細胞 大量作製し備蓄

[読者会員限定]
無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 人のiPS細胞(人工多能性幹細胞)から大量の免疫細胞を作り、がんをたたく新しい治療法が注目を集めている。理化学研究所と千葉大のチームは年内にも臨床試験(治験)を始める見込みだ。次世代の「がん免疫療法」を目指し、様々な研究開発が活発化している。(伊藤崇)

 

iPS細胞からNKT細胞を作製するための準備作業を行う理化学研究所のスタッフ(横浜市鶴見区で)
iPS細胞からNKT細胞を作製するための準備作業を行う理化学研究所のスタッフ(横浜市鶴見区で)

 理研生命医科学研究センター(横浜市)にある「細胞調整室」では、治験で使う「ナチュラルキラーT(NKT)細胞」をiPS細胞から作る準備が進む。「iPS細胞をがん治療に使う試みは例がなく、慎重に行っている」と古関明彦はるひこ・副センター長は話す。

 NKT細胞は、体の中にある免疫細胞の一種だ。自らがん細胞を攻撃する上、他の免疫細胞も活性化するとされる。治験では、iPS細胞から作った大量のNKT細胞を、顔や首にできる「頭頸部とうけいぶがん」の患者3人に投与し、安全性や効果を調べる。

 なぜ、わざわざiPS細胞から作るのか。「ほぼ無限に増える上、様々な細胞に変化させることができるiPS細胞の特性をいかせる」。古関さんはそう答える。NKT細胞そのものを増やせればいいが、血中にごくわずかしかなく、培養にも時間がかかる。iPS細胞を使えば、患者から細胞を採取しなくても、大量のNKT細胞を事前に用意しておける。

 古関さんらは、健康な人のNKT細胞をいったんiPS細胞にして増やした後、再びNKT細胞に戻す方法を開発した。研究チームの岡本美孝・千葉大教授(頭頸部腫瘍学)は「患者自身のNKT細胞を増やして患者に戻す臨床研究では、1回の投与でがん細胞が最大3~4割縮小した。iPS細胞からNKT細胞を大量に作り、繰り返し投与できれば、治療効果も高まるはずだ」と期待する。

      ■

 手術、抗がん剤、放射線に続く第4のがん治療法として注目される「免疫療法」には、患者自身の免疫細胞の力を増強させる方法と、免疫チェックポイント阻害剤など免疫細胞にかかるブレーキを解除して本来の力を取り戻す方法がある。これまでの免疫療法では、「ブレーキ解除」が注目される一方、「免疫力増強」には大きな課題があった。

 免疫療法に詳しい玉田耕治・山口大教授(腫瘍免疫学)は「患者の状態が悪いと免疫細胞が十分に採れず、採れても増えないこともある。がんをたたく細胞を準備している間に病状が悪化してしまうこともあった」と話す。iPS細胞は、そんな課題を克服する切り札になる可能性がある。応用はNKT細胞にとどまらない。

      ■

 京都大ウイルス・再生医科学研究所の河本宏教授は、ウイルスや細菌に感染した細胞を殺す「T細胞」のなかでもひときわがん攻撃力が高い「キラーT細胞」をiPS細胞から作る方法を開発した。この細胞を白血病マウスに投与すると、一部のマウスは5か月以上も生き延びた。投与しなかったマウスが約2か月ですべて死んだのに比べ、明確な治療効果があった。

 河本教授らは白血病の患者を対象に、京大で備蓄する他人由来のiPS細胞を使った治験を、2022年にも行う計画だ。

      ■

 iPS細胞は、すでに効果的ながん治療をさらに強力にする可能性も秘める。体外に取り出した患者のT細胞を遺伝子操作して攻撃力を高めた上で戻す「CAR―Tカーティー細胞療法」へのiPS細胞の応用だ。現在は患者からT細胞を採取するなどの手間がかかるが、すでにあるiPS細胞を遺伝子操作してCAR―T細胞を事前に大量に作っておけば、すぐに投与できる。コスト削減にもつながると期待される。河本教授は、そうした研究も進めている。

 課題はある。iPS細胞自体にがん化の恐れがあり、他人由来の細胞を使う時には拒絶反応が起きる場合もある。そうした課題を克服できれば、大きな可能性が開ける。「ゆくゆくは、免疫力を増強させた細胞を、製剤のように使える時代が来るはずだ」。河本教授は将来をそう展望する。

 【免疫チェックポイント阻害剤】 昨年ノーベル賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授の発見などから生まれた薬で、小野薬品工業が製造・販売するオプジーボなどがある。

 【CAR―T細胞療法】 T細胞を、がん細胞の「目印」を見つけられるように遺伝子操作した「CAR―T細胞」を使う。米国では再発・難治性の急性リンパ性白血病の治療法として2017年に承認された。劇的な効果を発揮している一方、1回の治療費は米国で約5000万円に上る。厚生労働省の専門部会は20日、国内での製造販売を了承した。

 

再生医療市場 拡大の一途

 がん免疫療法は、再生医療の中でも特に市場規模の拡大が期待されている分野だ。

 市場調査会社シード・プランニングの将来予測(2016年発表)によると、国内の再生医療の市場規模は2015年の140億円から、30年に1兆1000億円に拡大。このうち、がんが全体の3割(3300億円)を占める。

 iPS細胞を使った再生医療は、目の病気やパーキンソン病などで次々に治験・臨床研究へと進んでいるが、がん免疫療法への応用も研究開発は国際的に活発化している。

 米バイオベンチャー「フェイト・セラピューティクス」は昨年、iPS細胞を使ったCAR―T細胞の作製を目指し、小野薬品工業(本社・大阪市)と提携したと発表した。

 iPS細胞からキラーT細胞を作る方法を開発した河本教授は、4年前に日米欧などで特許を出願した。「開発競争はさらに激しくなると予想される。世界的に主流のES細胞(胚性幹細胞)を使った研究も進めていきたい」と意気込む。

458370 1 テクノロジー 2019/02/24 05:00:00 2019/02/24 05:00:00 2019/02/24 05:00:00 iPS細胞からナチュラルキラーT細胞をための材料の準備作業を行う理化学研究所のスタッフ(横浜市鶴見区の理化学研究所で)=伊藤崇撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190223-OYT8I50022-T.jpg?type=thumbnail

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ