乳房再建手術 情報知った上で 自分に向いた方法を

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◎矢野智之・がん研有明病院形成外科部長インタビュー

 国内で最多の乳がん手術を手がけるがん研有明病院(東京都江東区)で、乳房再建手術を行う矢野智之・形成外科部長に、人工乳房の自主回収を受けた対応や、ニーズが高まる自家再建について聞いた。

 Q これまでがん研有明病院では、乳房再建手術をどのように行ってきましたか。

 A 主に院内で乳がん手術を受けた患者さんに行ってきました。ここ数年は、年600~700件程度です。

 私が着任する直前は、9割以上が人工乳房でした。でも2017年春に着任して以降、自家組織(自分のおなかや背中などの組織)を使った手術(自家再建)の割合が徐々に増えて、今は半々ぐらいです。

 Q 自家再建の割合が増えたのはなぜですか。

 A 患者さんが希望すれば、自家再建に対応できる体制をしっかり整えたからだと思います。その結果、患者さんに、両方の手術の特徴(メリット、デメリット)を公平にしっかり説明して、「どちらの方法でも対応できますよ」と言えるようになった。患者さんが選べるようになったからだと思います。ただ、当院のように年間100件以上の自家再建手術を手がけている病院は全国でも当院、横浜市大総合医療センター、都立駒込病院など10施設ぐらいにとどまるのが現状です。

 Q なぜでしょうか。

 A 自家再建は、国内でも1980年代から本格的に始まりました。昔から公的医療保険が適用されています。自然なやわらかい乳房が作れるのが強みです。自分の背中やおなか、太ももなどの組織を乳房に移植して再建する方法です

 術式はいくつかあります。私が行っているのは、「DIEP」(深下腹壁動脈穿通枝皮弁)、「PAP Flap」(深大腿動脈穿通枝皮弁)という二つの方法です。脂肪と血管を移植する方法です。筋肉ごと移植する古くからある術式と比べ、体への負担は少ないです。

 手術には高度な技術が求められます。顕微鏡を見ながら細い血管をつなぎあわせていきます。手術時間も長いです。人工乳房では2時間程度ですが、自家再建の場合、どの部位を移植するかで多少異なりますが、だいたい6、7時間はかかります。

 技術を持った形成外科医と、長時間の手術室の確保が必要なので、人工乳房と比べて、行える医療機関は限られているのが現状です。

 Q 人工乳房か自家再建か、患者さんはどうやって選ばれていますか。

 A 乳房以外に新たな傷がつくのは抵抗がある、入院期間が短い方がいいという人は人工乳房を選ぶことが多いように感じます。ただ、人工物を入れているので、感染がないかどうかなど画像検査も含めた経過観察が必要です。おおむね10年ぐらいで新しい人工乳房への入れ替えが必要です。

 自家再建では、入院期間は8泊9日程度で、社会復帰にはさらに1~2週間かかるものの、その後は一生持ちますし、画像検査も必要に応じて行う形です。そもそも人工物を入れることに抵抗がある人や、仕事があっても、ある程度まとまった期間休めて、育児があってもサポートがある人も、自家再建を選ばれることが多いです。

 Q 自家再建に関する具体的な情報を得にくいという声も聞きます。

 A 自家再建のデメリットとして、先ほど、「乳房以外に傷がつく」ということを話しました。その通りです。でも、どんな傷なのか、ご存じでしょうか。形成外科医は、極力、傷が目立たないように努めています。おなかの組織を使う場合は、おなかのたるみに合わせたカーブ状にメスを入れたり、しわにそってメスを入れたりしますし、下着に隠れる位置にします。

 本来はこうした情報もしっかり知った上で、自分に向いた再建を選ぶのが望ましいと思います。でも、自家再建を行っていない医療機関では、具体的な情報を得るのが難しいようです。

 海外の報告ですが、それぞれの方法の満足度は、術後3年時点までは人工乳房を入れた患者さんのほうが高いけれど、その後は自家再建の患者さんのほうが高くなるという結果でした。

 Q 人工乳房が自主回収になってから、人工乳房による再建手術はストップしています。どんな影響がありますか。

 A 自主回収が決まった時点で拡張器(エキスパンダー)を入れている患者さんが260人ほどいました。人工乳房の入れ替えを希望していた患者さんは、自家再建への切り替えを決めた方、もう少し様子を見て決めるという方、それぞれです。

 Q ほかに対応をしていますか。

 A 当院では、人工乳房の手術枠を、自家再建の枠にあてて、これまで週3~4日だった自家再建の手術を、週5日行える体制に変更しました。さらに、緊急事態なので、他院でエキスパンダーを入れて自家再建手術に切り替えたいという患者さんの受け入れも始めました。当院は乳房再建手術を担う形成外科医が5人と多いので、そういう対応が可能です。それでも、手術予約は1年先の日程になります。

 自家再建へのニーズが高まってはいますが、技術を持った形成外科医が限られているので、そう簡単に、受け入れ態勢を拡充することは難しいです。

 Q 自家再建に切り替えようと思っても、また「待機」になるのですね。

 A 当院に限らず、これまで精力的に自家再建を手がけてきた病院の多くは、今回の事態に協力対応していますが、限りがあります。今回の自主回収は、日本の乳房再建手術を巡る様々なゆがみが浮き彫りになったと思います。

 Q ゆがみとは何でしょうか。

 A 自家再建をしっかり行える医療機関が限られていること、人工乳房では1社しか保険適用を受けた製品がないことです。私が留学したベルギーでは2016、17年当時、人工乳房よりも自家再建が主流でした。

 今年9月、ロンドンで行われた乳がん関連の学会に参加しました。自主回収は全世界で行われていますが、深刻な影響があったのは日本だけのようでした。他のメーカーの人工乳房が流通していることが大きいでしょう。

 また、おなかなどの脂肪を吸引して使う脂肪注入との併用も普及しています。併用すると、今度販売が再開されるスムースタイプの人工乳房でも仕上がりが美しくなるし、再建した乳房が硬くなるのも防げます。人工乳房を覆う特殊なシートを使えば、ずれやすいスムースタイプでも、理想の位置に固定できます。日本では、脂肪注入もシートも保険診療の対象外です。

 今回の事態を機に、日本でも自家再建を行える医療機関を増やしていくことや、安全で美しい人工乳房製品の保険適用を実現することが求められると思います。

 やの・ともゆき 2000年、東京医科歯科大学卒。同大形成外科、北海道大学形成外科、国立がん研究センター東病院頭頸科などを経て、16年4月から17年3月までベルギー・ゲント大学形成外科に留学。17年4月、がん研有明病院形成外科医長、18年8月から現職。

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806944 0 テクノロジー 2019/09/21 15:00:00 2019/09/21 15:24:16 2019/09/21 15:24:16 矢野智之・がん研有明病院形成外科部長 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/09/20190921-OYT1I50057-T.jpg?type=thumbnail

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