骨まで透ける「スケルトン標本」SNSで話題…魚やウニがアートに
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魚を薬剤で処理し、骨が透けて見えるようにするなどしたユニークな生物標本が、人気を集めている。普段は見えない自然の造形美がSNSで話題を呼び、若い女性らが自宅のインテリア用に購入している。学校現場で標本が使われなくなる中、博物館での展示など教育用途でも注目されている。(苅田円)

幻想的できれい
小さな瓶の中に、全身の骨が透けて見える小魚が浮かぶ。青みがかった骨は細部まで鮮明で、精巧な作り物にしか見えないが、本物の魚の体を薬剤で透明化した透明骨格標本だ。
製作、販売するのは、大阪市都島区の「アクアテイメント」。養殖場で、成長が遅いなどとして廃棄される個体を譲り受け、研究用の透明化技術を応用して標本を生産し、インテリアや雑貨として販売する。
起業した2010年には注目されなかったが、徐々にSNSで「幻想的できれい」などと話題となり、今は、全国展開の雑貨店や水族館、博物館のショップに商品が並ぶ。ブルーギルなど駆除された外来魚の標本も作っている。

社長の松前諭さん(44)は「水産学を専攻していた学生時代に、廃棄魚を活用できないかと思ったのが起業のきっかけ。美しさのほかに、命をなるべく無駄にしないというメッセージ性も受け入れられていると考えている」と話す。

京都市中京区の「ウサギノネドコ」はウニの骨格標本を販売する。ウニから可食部やトゲなどを取り除いた拳大で球形の骨格を、アクリル樹脂でコーティング。骨格は淡いピンクや黄色などで、表面には細かい突起が規則的に並んでおり、「現代アートのよう」「数学的な美を感じる」などと評判になっている。
購入した女性客の一人は「外観とのギャップが驚き。種類ごとに骨の模様が全く違い、それを知る奥深さもある」と魅力を語った。
学校現場で標本を目にする機会が減ったこともあり、注目されやすい透明標本などを教育に生かそうという動きもある。
人の体や頭部の骨格標本や動物のホルマリン漬け標本は、1953年に制定された理科教育振興法で、小中高校の購入が補助されるなどして学校に広まったが、最近は古くなって捨てられているほか、「怖い」という子供に配慮して利用されなくなっている。
日本理科教育振興協会(東京)による全国調査(抽出調査)では、8割以上の中学と高校で従来の骨格標本の保有数がゼロだった。
こうした中で、生物の構造などに興味を持ってもらおうと、民間企業が2018年に福岡市で透明標本などの企画展を開催すると、各地から引き合いがあった。19年は東北や九州を巡回し、今年も開催を検討している。
幼稚園などで移動水族館を開催する企業も透明標本を導入し、いずれも子供たちに好評だという。公立博物館が企画展の開催を検討する動きもある。
標本に詳しい東京大学総合研究博物館の松原始・特任准教授(動物行動学)は「標本の用途は、生物のそのままの姿を残し、観察・観賞すること。その基本を守りながら、見えない部分を前面に押しだし、自然が持つ神秘性を強調したのが面白い。どうしてこういう形なのだろうかと知的好奇心も刺激され、教育現場での活用も期待できる」と話している。