鬼と戦う「全集中の呼吸」、主人公の超人的嗅覚の秘密に迫る
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単行本の累計発行部数(電子版含む)が1億部を超え、映画版も記録的ヒットとなっている「鬼滅の

漫画「鬼滅の刃」
大正時代を舞台に、家族を鬼に殺された少年・竈門炭治郎が、鬼にされた妹を人間に戻すため、共に旅立つ。鬼と戦う「鬼殺隊」に入った炭治郎は、先輩や同輩の剣士らの指導や協力を得ながら、人間としても成長していく。
自己制御に関わる部位が活性化
呼吸法は、太極拳やヨガを始め、格闘技やスポーツで重視されている。「ゆっくり吐く呼吸を心がけることで、自律神経の副交感神経の活動が上がり、血流が良くなる」と、自律神経に詳しい小林弘幸・順天堂大教授は説明する。血流が良くなると、腸の活動や免疫の働きも活性化し、長生きにつながるという。
小林さんが勧めるのは、吸気と呼気の長さを1対2にして、深い呼吸をする方法だ。1日3分間でも時間を決めて、呼吸に意識を向けることが大事だという。
新型コロナウイルスの流行で、現代人のストレスはますます高まり、呼吸も浅くなっているのではないかと、小林さんは懸念する。「この作品で、一般の人の呼吸への意識が高まってくれるのはありがたい」と話す。

では、集中力が高まった脳はどのような状態なのか。脳科学者の池谷裕二・東京大教授によると、意外にも、集中力は野生動物にとっては邪魔なものだという。目の前のことに集中すると、外敵に気づくのが遅れてしまうからだ。
一方で人間は、勉強や仕事をするために集中力は欠かせない。ヨガの上級者は深い呼吸により、大脳の「

島皮質は、自分の体の自律神経や心拍などを監視し、下前頭回は欲望や雑念を抑え、自分を制御することに関わる場所だという。深い呼吸で集中力が高まり、物事に動じなくなっていることがうかがえる。
「呼吸は、脳活動を間接的に変化させられる。集中力を高めるために呼吸を利用するのは理にかなっている」と池谷さん。呼吸法を鍛錬し、脳の集中力を高めれば、仕事や勉強に生かせそうだ。
匂い可視化、病気診断も
物語の中で、炭治郎の並外れた嗅覚は、鬼の居場所を突き止めるだけでなく、人や鬼の気持ちを理解することも可能にする。「匂いが『見える』世界を、これほどうまく描いた作品はなかったのでは」と、匂いセンサーを開発するベンチャー企業「アロマビット」(東京)の黒木俊一郎社長は熱く語る。
匂い物質は、
黒木さんによると、人間の嗅覚受容体は約400種類で、嗅覚が鋭いイヌは約1200種類だ。化学物質に反応する人工の匂い受容体を1200個持った匂いセンサーを開発すれば、イヌ並みの識別を客観的に行える可能性がある。
同社は、すでに35個の受容体を持ったセンサーを開発し、コーラ飲料やコーヒーなどの匂いの違いを可視化することに成功した。現在、豊橋技術科学大の沢田和明教授(半導体工学)らと、1ミリ角のセンサーに1200個の匂い受容体を載せる技術を開発しており、数年後には、スマートフォンに組み込む計画だ。
英国などでは新型コロナ感染者を探知犬がかいで見分ける試みが始まっている。体長1ミリほどの線虫が、がん患者の尿に含まれる物質をかぎ分け、がんの早期発見につなげる検査法もある。喜怒哀楽に伴う体臭変化で、感情を識別することも夢ではない。
近い将来、センサーを組み込んだスマホで、自分や周りの人の健康状態や気分を確かめる時代が来るかもしれない。
黒木さんは「植物も葉を切られてストレスを感じると、匂い物質を出す。匂いセンサーで、自然からのメッセージを聞けるようになるかも」と話している。