火星への探査機着陸で起きる「死の7分」、成否を握る80本の「黄金色の命綱」は日本発
完了しました
米航空宇宙局(NASA)の火星探査機「パーシビアランス」が来年2月、火星に着陸する。火星の大気圏に猛スピードで突入し、急減速して着陸するまでわずか7分。「死の7分」とも言われるこの過酷な時間を乗り切るカギは、日本発の「
着陸パラシュートのロープ…帝人「テクノーラ」
火星の大気は薄く、大気圧は地球の0・6%。そんな中、突入4分後に開く直径21メートルのパラシュートは、わずか2分間で時速1500キロ・メートルから同320キロ・メートルに急減速させる。重量約1トンの探査機と傘をつなぐ80本のロープには、大きな負荷がかかる。切断されれば探査機は地上に激突し、ミッション終了だ。
「命綱」ともいえるこのロープは、繊維大手「帝人」の「テクノーラ」で作られている。強度は鉄の8倍もあり、繰り返し引っ張ってもびくともしない。

NASAの委託でパラシュートを開発した米企業が、その高い能力に目を付けた。事前の試験で、80本で37トンの重みに耐え、期待通りの強さを見せつけた。
理想の条件求め16年
同社がテクノーラを発売したのは1987年。「それから30年以上たって、世界的なプロジェクトに採用されたことが感慨深い。先輩たちも喜んでいると思う」

そう話すのは、帝人のアラミド繊維技術開発課長の山口順久さん(44)。「ただ、強度を上げるのは本当に大変だったようで、開発には16年の月日を要した」
テクノーラは「パラ系アラミド」と呼ばれる繊維の一つ。リングのような化学構造が繰り返しつながる特殊な細長い分子が、何本も束になっている。それぞれの分子が「平行」に整列すると、引っ張り方向の強度が格段に高まるという。
平行に近づけるには、繊維を引っ張って伸ばすのが有効だが、そのタイミングや力の加減、温度などの条件がずれると、理想の繊維に仕上がらない。
初期の試作品は、分子の向きがバラバラで、強度も弱く、安定しなかった。膨大な条件を一つずつ検証し、十数年を経てようやくたどりついたのが「350度~550度で8~12倍の長さまで引っ張る」という結論だった。
最も苦労したこの工程を経ると、繊維は美しい黄金色に変わるのだという。「きれいな色ですよね」。テクノーラを抱え、山口さんはそう語った。