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キリンには、他の哺乳類にない「8番目の首の骨」がある。東洋大生命科学部助教、郡司芽久さん(32)は、2016年にそんな論文を発表して注目されている気鋭の「キリン博士」だ。実学がもてはやされる中、「好き」を原動力にユニークな研究にまい進してきた研究者は、「無用の用」に楽しみと意義を見いだしている。(文化部 武田裕芸)

- ぐんじ・めぐ 1989年生まれ、東京都出身。2017年、東京大大学院博士課程を修了。国立科学博物館・日本学術振興会特別研究員、筑波大研究員を経て、今年4月から現職。
動かないはずの骨が…
「ゾウやサイ、カバに比べ、キリンは、体重が1トンを超す動物とは思えないほど、軽やかに振る舞う。神秘的で上品。自分もそういう生き方をしたい」群馬県板倉町のキャンパスにある同学部に今月、着任したばかり。まだがらんとした研究室には、しっかりとキリンのイラスト入りのクッションが置かれている。
哺乳類の首の骨(
キリン研究「うちでは無理」と言われ続け

子供の頃から動物好きで、ハムスターや文鳥、ミニチュアダックスフントを飼っていた。1歳の時、写真館で撮った写真には、キリンのぬいぐるみが一緒に写る。「写真館のおもちゃの中から自分でこのぬいぐるみを選んだそうです」
動物に関わる仕事をしたいと、08年に東京大理科2類に入学した。「何十年も研究するならずっと好きだったものをやるべきだ」。そう考えて「キリンを研究したい」と切り出したが、遺伝子などをミクロレベルで研究する分子生物学が主流の時代になっていた。教員たちから「キリンはうちでは無理」と難色を示され続け、「一人前の研究者になった後で、キリンの研究を始めるしかないのかもしれない……」とも考えた。
「解剖男」への相談が転機に
転機は同年秋。自称「解剖男」の遠藤秀紀教授に相談すると、「キリンの解剖はできると思う」。同年末、神戸市の動物園で死んだキリンを東京大総合研究博物館で解剖した。