なにやらすごいらしい「映えない地層」…[チバニアン外伝]<1>

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地質年代に初めてついた日本の地名

 今から12万9000~77万4000年前の地球は「チバニアン期」と呼ぶことになっている。2年前に国際組織によって正式決定された。日本の地名が初めてついた地質年代だという。なにがどうすごいのか分からないまま、きっとすごいことなんだろうと思い続けてきた。昨年、縁あって地質学者から集中的に話を聞く機会を得た。結論を先に。チバニアン、いろんな意味で、すごかった。(編集委員 清水美明)

あの火山灰層が別の名に…[チバニアン外伝]<8>最終回
チバニアンの「基点」となった養老川の崖。ダイナミックな地形や複雑な縞々模様を期待すると肩すかしを食らう(昨年12月9日、千葉県市原市で)=鈴木竜三撮影
チバニアンの「基点」となった養老川の崖。ダイナミックな地形や複雑な縞々模様を期待すると肩すかしを食らう(昨年12月9日、千葉県市原市で)=鈴木竜三撮影

2017年に脚光、今は見学者激減

 チバニアンに行く、とかつい口にしてしまうが、チバニアンは場所じゃない。前の時代との境界を示す証拠(地層)とセットで決まる地質年代の名前だ。千葉・房総半島の真ん中、市原市のJR五井駅から車で1時間ほど南に入った養老川の崖に、その証拠となった地層がある。

 にわかに注目されたのは2017年11月だった。1次審査でライバルのイタリアの地層に勝って唯一の候補になり、その暮れ、9000人近くが地層に押し寄せた。ところが、見学者は減り続け、いまや1000人を下回る月もある。

 初めて川岸に立ったとき、地元の人が漏らした言葉を思い出した。「覚悟してください。 えませんから」。たしかに地層らしい 縞々しましま がない。

つるつるした川底…なんなんだこの川は

 とはいえ、せっかくなのでしばし川を眺めてみた。人の手が加わったような感じがしてくる。川底が平らで、つるつるなのだ。

 岐阜県の揖斐川上流部で遊んで育ったぼくにとって川といったら、石や岩がごろごろ転がる場所にほかならない。ところが、ここにはほとんど見当たらない。砂もあまりない。平たい石は素手で割れてしまう。なんなんだ、この川は……。

 見ばえのしない地味な地層と、つるつるした川底。チバニアン決定時の研究チーム代表・茨城大教授の岡田誠さん(56)に取材すると、それにはれっきとした理由があった。「房総半島の大部分は、海底にできた盆地の 堆積たいせき 物なのです。その130万年分の地層がいま、養老川沿い約20キロにわたって傾いて露出しています」

海底が「とんでもない速さ」で隆起

 日本は昔、沈没していた。関東一帯も海の下だ。というか、関東なる地域がまだない。海底は沈降し、周囲の土砂などをどんどん堆積させていた。500~1000メートルの海底に、世界でも類を見ない速度で土砂がたまり、なかでも77万年前頃は、泥の流入が多かったという。ところが、その海底盆地が急に、異様なスピードの隆起に転じる。

 NHK「ブラタモリ」でもおなじみの高橋雅紀博士(59)(産業技術総合研究所=産総研)に聞いてみた。「半島下のフィリピン海プレートの変形が原因でしょう。隆起は年3~4ミリというとんでもない速さ。地層が硬ければ、房総アルプスができていましたね」

 実際の地層は地質学的には堆積して間もないので、えぐれやすい。そうして何十万年もの浸食で、あの映えない崖と平らな川が現代に姿を現したのだった。その崖には、なんと地球の地磁気が逆転したことを示す層と、火山灰が薄く積もった層が露出していた。これがのち、チバニアン認定の決定打となる。ただし、どちらも見えにくいのだが。

鍵を握る学者たちの縁

 地球の都合で房総半島にたまたま露出したその地層は、発見と研究がなければ、いまもただの大地の一部だ。気になって経緯をたどったぼくが、火山灰層をめぐる地質学者たちの出会いと探究のドラマの存在に気づいたのは間もなくだった。そしていまは、こんな想像をしている。彼らのつながりがなければ、46億年の地球史にチバニアン期という時代名が刻まれることはなかった――。

 鍵を握るのは、研究チーム代表の岡田さんら3人だ。高校時代に地学の履修を避けたぼくの取材を、果敢にも引き受けてくれた方々でもある。次回、半世紀前の仙台から物語を始める。未知の研究に乗り出した規格外の大学院生の話だ。

地磁気反転…77万年前の「直近の記録」

 地球は北極がS極になった巨大な磁石で、方位磁針のNは必ず北を向く、と教わった記憶ならある。しかし、向きが逆転するなんて話は、この年になるまで聞いたこともなかった。

 この逆転の研究には、100年近く前から日本の学者がかかわっていて、ぼくの高校時代でも地学の資料集なんかにしっかり載っていた現象らしい。やはり履修しておくんだった。

 ただ、過去600万年間で20回以上も逆転したのに原因は不明。影響も謎が多い。なんとも気味が悪いが、科学にとって逆転は、とても都合が良いものらしい。逆転は地球規模で起き、あらゆる場所で岩石や地層が地磁気の向きを記録する。つまり、地球史の目盛りとして使えることを意味する。

 逆転はこの77万年間起きていない。裏を返すと77万年前、南極側にあったS極が今と同じ北極側に移動した。国際組織は長年、この時期を鮮明に示す地層はないかと探していた。そしてそれは房総半島にあった。

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2681052 0 科学・IT 2022/01/18 15:00:00 2022/01/26 14:25:47 2022/01/26 14:25:47 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/01/20220117-OYT8I50057-T.jpg?type=thumbnail

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