「役に立たぬ生き物が生きられないと…」今日も石をひっくり返す虫マニア

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小松貴さん 昆虫学者

 国立科学博物館協力研究員で在野の昆虫学者、小松貴さん(39)は、粘り強い観察で昆虫の生態に迫り、時に“奇人”とも呼ばれる。数々の著作は「虫マニア」の日常を描きつつ、小さな生き物への愛が込められ、時に環境行政への苦言も呈する。「分からないことを分かりたいという欲求で生きている。それが研究者や学者の生き方」と語る。(文化部 道下航)

漁で使った縄がジャケットに変身…「地域アピールの機会にも」
公園で葉っぱを手に取ると目つきが変わった小松さん。「意外と身近なところにたくさんいるんですよ」(3月、茨城県つくば市で=道下航撮影)
公園で葉っぱを手に取ると目つきが変わった小松さん。「意外と身近なところにたくさんいるんですよ」(3月、茨城県つくば市で=道下航撮影)
    こまつ・たかし  1982年、神奈川県生まれ。信州大学大学院博士課程を修了。専門は 好蟻(こうぎ) 性昆虫。新著「怪虫ざんまい―昆虫学者は今日も挙動不審」を4月下旬に刊行。

 

昆虫の世界に見とれた少年時代

 公園の片隅でカメラを右手に構え、左手で石をひっくり返しては、そこにうごめく小さな虫たちの名前を次々言い当てていく。捕まえずに、彼らが暮らす環境で観察する。

「世の中には2種類の生き物しかいない。人間にとって今、役に立つものと、現時点での知識と科学技術では何の役に立つかわからないもの」。現在知られている昆虫は約100万種で、全動物種の大半を占めているとされる。その一種でも絶滅すれば「未来の可能性を一つ失うことになる」と警告を発する。

4月下旬刊行「怪虫ざんまい―昆虫学者は今日も挙動不審」
4月下旬刊行「怪虫ざんまい―昆虫学者は今日も挙動不審」

 物心ついた頃から、動く生き物を目で追っていた。ダンゴムシやムカデをいじったり、クモの巣に引っかかったバッタが食べられる様子を見つめたり。振り返れば「相当陰気な子ども」だった。カエルを捕まえた手で目をこすって、腫らしたことは何度もある。

 小学2年生の時、父の同僚にチョウの標本を見せてもらい、さらにのめり込んだ。図鑑では羽が緑一色に塗られていたミドリシジミが、実際には角度により緑の色合いが変化することに驚いたのだ。その時、「虫の命を奪って標本にする以上、きちんと記録に残す。それが虫への供養だ」と教えられた。もうそれからは、目的もなく捕まえ、虫かごに入れて飼い殺しにするのはしなくなった。

 子どもの頃は、「同級生と遊んだ記憶はない。みんなが何で遊んでいたのか知りたいくらい」。田んぼで「生きた化石」といわれるカブトエビの大量発生に感動したり、群れずに単独で生きるハチの仲間にあこがれを抱いたり。人間にはない、昆虫の世界に見とれていた。その面白さは、高校生になると「虫を研究する」という漠然とした夢に変わった。

足の骨にひび、山に入れぬストレスで体調崩す

撮影にのめり込む小松さん(3月、茨城県つくば市で=道下航撮影)
撮影にのめり込む小松さん(3月、茨城県つくば市で=道下航撮影)

 進学したのは信州大学。長野県の松本駅を降りると、大きな山がそびえていた。「これは、やばい街だ」と心が躍り、すぐに大学構内で高原地帯に生息するクジャクチョウを見つけた。知らない虫が侵入してくるアパートに暮らし、大学の裏山に虫探しに向かう昆虫漬けの日々。まさに楽園生活だった。

 ある夏、ケガをして足の甲の骨にひびが入ったまま松葉づえで山に向かったが、あまりの痛みに断念。お宝の山を前に動けない状況にストレスが募り、さらに体調を崩してしまった。

 大学では、アリの巣に居候する「アリヅカコオロギ」を研究し、博士課程を修了する。その後、師匠でもある九州大総合研究博物館の丸山宗利准教授に師事したところ、「奇人」と名付けられた。「模範的で標準的な人間ですが、丸山先生の常識には合わなかったんでしょうね」。師の下で国外にも飛び出し、東南アジアなどで研究を続けてきた。アリの種類が多い東南アジアで 好蟻性(こうぎせい) 昆虫は、「何か捕まえればだいたい新種」だったという。最近は遺伝子資源の保護が厳しくなり、「アリ一匹でも生き物を簡単に国外に持ち出せず、下手すると国際問題になります。研究しづらくなっています」。

 ただ、「算数と数学がからっきしダメです。研究者にとっては数字を扱えるのが一番なので、本当に大変です」と苦笑いする。

 そこで見舞われたのがコロナ禍だった。妻と長男のためにも遠出ができず、研究スケジュールは全て狂い、「目的を探すことが目的になった」。原動機付き自転車を購入する前は、自転車で山に行ったり、身近な井戸を1000回以上くみ上げたり。すると、環境省の指定した絶滅危惧種と思われる生き物を発見できた。「最悪な2年だったが、身近なところに絶対にいるはずないと思っていた生き物がいた。気づかされる2年でもあった」

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2911369 0 科学・IT 2022/04/11 15:03:00 2022/04/11 15:03:00 2022/04/11 15:03:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/04/20220408-OYT8I50063-T.jpg?type=thumbnail

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