漁で使った縄がジャケットに変身…「地域アピールの機会にも」

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廃漁具リサイクル会社社長 加藤広大さん

 海洋プラスチックごみの発生源の一つに、廃棄された漁網や縄といった漁具がある。そこで、3年前に宮城県気仙沼市に移住した加藤広大さん(25)は、使い古しの漁具を衣類などにリサイクルする事業に挑戦している。豊かな海を守ることは、東日本大震災にもめげず、海とともに生きる漁師たちを支援することにもつながるからだ。(科学部 中根圭一)

「農家の思い」届けるプロ…ふるさと野菜を東京へ
マグロを釣り上げる縄を手や腕に巻き、リサイクルした生地で試作したジャケットを着る加藤広大さん(5月13日、宮城県気仙沼市で)=武藤要撮影
マグロを釣り上げる縄を手や腕に巻き、リサイクルした生地で試作したジャケットを着る加藤広大さん(5月13日、宮城県気仙沼市で)=武藤要撮影
    かとう・こうだい  1997年、神奈川県小田原市生まれ。東京都内の大学を中退して大手IT企業に勤務した後、宮城県気仙沼市に移住。廃漁具を回収し、資源化する会社「amu」を昨年設立した。

 日本有数の漁船基地・気仙沼。マグロ船で使い古されたナイロン製の網や縄を両手いっぱいに抱え、倉庫からトラックの荷台に積み込んでいく。

 「処分に困っていたんだ」「うちの船も協力するよ」――。地元漁師から気さくに声をかけられることも多い。

 回収した漁具は、愛知県内の工場で再生プラスチックの原料となるペレットにしてもらい、これを生地に加工する。生地はつるりとした上質な手触りで、試作品のジャケットに袖を通すと、着心地が良い。

 特に、マグロの引き上げに使う縄は耐久性に優れている分、丈夫な生地ができあがる。2023年3月までに10トンの縄を資源化し、ジャケットとして販売する予定だ。

都会の喧騒に嫌気、脳裏によみがえった気仙沼の海と人々

武藤要撮影
武藤要撮影

 気仙沼とつながりができたのは、東日本大震災から4年後のこと。東京都内の大学1年時の夏休みに、ボランティアとして訪れた。そこでは、ほかのボランティアとともに、津波で自宅を失った被災者たちの居場所として集会所造りに汗を流した。

 休憩時間になると、地元の漁師たちが新鮮な魚介類を振る舞ってくれた。夜には、彼らの身の上話に耳を傾け、津波に打ちのめされても再び海とともに生きようとするたくましさに触れた。

 それからは、長期休暇のたびに気仙沼に足を運ぶようになった。1年の3分の1を過ごすほど気仙沼に魅せられ、「いつかは気仙沼の漁師のために働きたい」とも思うようになった。

 大学3年の冬に中退し、いったん、東京・渋谷にある大手IT企業に勤め始めた。テレビゲームを紹介する番組制作はやりがいがあった。だが、都会の 喧騒(けんそう) に嫌気がさし、満員電車に揺られながら脳裏によみがえってきたのは、気仙沼の澄み渡った海の風景や復興に向けて歩む人たちの姿だった。

分解されず海を漂う「ゴーストギア」、処理費用も悩みの種

 決断は速かった。「気仙沼の漁師のために」との情熱だけを頼りに19年6月、気仙沼に移住した。

 とはいえ、1年間知恵を絞っても妙案はなく、新型コロナウイルスの感染拡大もあって 悶々(もんもん) とした日が続いた。

 そんな時、都内にいるかつてのボランティア仲間と「オンライン飲み」をしていて、「廃漁具がスニーカーになったってニュースを見た」と聞かされた。

 古くなった網や縄は、埋められたり、焼却処分されたりするはずだが、海に捨てられるものもある。環境省によると、海岸に漂着するプラスチックごみの約半数は廃漁具だという。分解されることなく海を漂う廃漁具は、魚やウミガメ、海鳥がエサと間違えて捕食したり、ひっかかって死んだりするため、「ゴーストギア(漁具の幽霊)」とも呼ばれる。

 気仙沼には廃漁具がいくらでもある。その上、処理に費用がかかるため漁師たちの悩みの種だった。

 「これだ」と確信し、昨年9月に会社を設立。ありふれた物を再編して新しい価値を生み出したい――との思いを込め、社名は「amu(アム)」とした。

「世界の課題解決のポテンシャルはここにある」

武藤要撮影
武藤要撮影

 古くなった漁具を回収して新たな素材に作り替える取り組みは、国内ではまだ珍しい。

 漁業が盛んな日本では、刺し網や巻き網、一本釣り、養殖など、漁法に合わせて多様な漁具が開発されてきた。そのため、漁具によって素材や形状が異なり、金属製の仕掛けが付いているものもあり、分別が難しい。海藻や貝殻の破片などが付着している場合には、洗浄する手間がかかることも、漁具のリサイクルが遅々として進まなかった一因という。

 産業廃棄物として処理するのにも費用がかかるため、漁師らの経済的な負担は少なくない。「漁具の回収やリサイクルは、廃棄コストを抑えるだけでなく、『気仙沼では海洋環境に良いことをしている』と、地域をアピールする機会にもなるはず」と強調する。

 今はジャケットを試作している段階だが、再生プラスチック素材の生地で防災リュックを作る計画も思い描く。いずれは事業を展開する地域も拡大したいとも考えている。

 世界自然保護基金(WWF)ジャパンも今年5月、気仙沼市や市内の漁協と連携して、サケ用刺し網を回収してリサイクルするプロジェクトを始めるなど、廃漁具を再生する機運は高まりつつある。

 遠洋漁業で古くから世界に開かれた気仙沼の港。「世界の課題解決のポテンシャルはここにある」と固く信じ、飛躍を誓う。

 加藤さんに移住先の暮らしぶりなどを聞いた。

――移住先の暮らし

 かつて遊郭として使われていた建物をリノベーションし、友人3人と暮らしています。週末に遊びに来る人もいて、水揚げされた魚をさばいて一緒に食べます。地酒を片手に、未明までビジネスの議論を深めることもあります。翌朝の起床が遅くなるのが悩みの種です。

――家族

 妹の広菜(24)も気仙沼に移住し、食堂の店長を務めています。今年は49歳の母も呼び寄せ、3か月ほど移住生活を体験してもらいました。母は気仙沼に来て、刺し身を食べられるようになりました。

――憧れの人は

 ライブ配信サービスを運営する「SHOWROOM」社長の前田裕二さん(34)です。シングルマザーの母を8歳で失い、厳しい家庭環境でありながら、新たなビジネスを生み出した若手起業家です。著書「人生の勝算」を読み、心が揺さぶられました。

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