参院選、日本が目指す科学技術政策は?3氏に課題を聞く[サイエンス Report]

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 10日に投開票を迎える参院選に向け、各党はそれぞれ科学技術分野でも公約を掲げている。大学院の博士課程に進学する若者が減り、研究力の低下が進む中、日本はどのような政策を目指すべきなのか。3人の有識者に聞いた。

研究力強化へ院生支援…東京工業大栄誉教授 大隅良典氏

おおすみ・よしのり 福岡県生まれ。東京大教養学部卒。米ロックフェラー大、東大、基礎生物学研究所などを経て、2014年から現職。「オートファジーの仕組みの解明」で16年のノーベル生理学・医学賞を受賞。理学博士。77歳
おおすみ・よしのり 福岡県生まれ。東京大教養学部卒。米ロックフェラー大、東大、基礎生物学研究所などを経て、2014年から現職。「オートファジーの仕組みの解明」で16年のノーベル生理学・医学賞を受賞。理学博士。77歳

 日本の研究力が低下していると言われて久しい。これまでは、優秀な大学院生が日本の科学を支えてきた。だが、現在、博士課程への進学者が減っており、大学の活性が低下している。

 私の時代、修士課程は自分が博士課程で何をやるかを考える期間でもあった。今は修士課程で修了することを前提にした学生が多い上に、2年間のかなりの時間が就職活動に追われる。最大の問題はキャリアパスが見えないことだろう。博士課程に進むと生活できなくなるというイメージがあり、企業で研究した方が良いという意識になってしまう。その結果、基礎研究の楽しさを知ることが難しくなっている。

 基礎研究が社会の発展に大切で、そのためにはどれほどの博士人材が必要になるかの分析が求められる。博士課程の授業料の無償化、生活の保障、また博士が活躍できる場が広がることも重要となる。

 さらに、若者が科学者になれる道を広げる努力も求められる。エリートだけではなく、学歴や年齢、性別など問わず様々な人が科学者を目指せる社会が、研究の裾野を広げるためには重要だ。全国で多様な研究が展開されることも望まれる。

 研究費の分配も、過度に集中させず広い視野を持つ必要がある。例えば感染症が起きると一時的にこの分野の研究費が増えるが、危機が去ったら減額するような対症療法では科学は進歩しない。

 産学連携も重要だが、大学が企業の下請けになり、学生が下働きする構図は避けなければいけない。基礎研究が得意な大学と、製品化を目指す企業の役割を明確にした協力関係を考えなければいけない。

 研究力低下に歯止めをかけるため、国には研究者の現状をきちんと理解してほしい。(渡辺洋介)

ワクチン開発 国挙げて…大阪大特任教授 松浦善治氏

まつうら・よしはる 福岡県生まれ。国立感染症研究所肝炎ウイルス室長、大阪大微生物病研究所長などを経て2021年から現職。阪大感染症総合教育研究拠点長として、新型コロナワクチン開発を進めている。獣医学博士。66歳
まつうら・よしはる 福岡県生まれ。国立感染症研究所肝炎ウイルス室長、大阪大微生物病研究所長などを経て2021年から現職。阪大感染症総合教育研究拠点長として、新型コロナワクチン開発を進めている。獣医学博士。66歳

 新型コロナウイルスのワクチンはまだ、国産化できていない。日本の感染症政策に、危機管理の視点が欠けていたことが一因だ。

 日本は戦後、衛生環境が改善し、感染症が身近な脅威ではなくなった。細菌やウイルスなどの研究者は減少し、研究費も年間70億円程度しかなかった。米国の100分の1、中国の40分の1程度だ。海外では感染症研究を安全保障や国防の一環と捉え、戦略的に資金の配分を続けていた。それが早期のワクチン実用化につながった。

 コロナでは海外製のワクチンを輸入することができたが、本来、ワクチンの供給は自国優先が基本だ。

 政府がワクチン開発の司令塔として新設した「先進的研究開発戦略センター(SCARDA=スカーダ)」では、研究への出資を通じて、製薬会社も含めたオールジャパン体制を構築してほしい。

 政府は、米疾病対策センター(CDC)を手本に「日本版CDC」の構想も打ち出した。ただ、統合する国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの人員は計約2500人で、1万人以上のCDCと比べると桁違いに少ない。予算を拡充し、最新の疫学情報を収集する世界的ネットワークを作る必要がある。

 地球温暖化や森林伐採などで生態系が乱れると、人獣共通の感染症が増える。欧米では、アフリカの風土病だったサル痘の感染が広がっている。熱帯病のウイルスを媒介する蚊の分布域が広がることによって、日本でデング熱などが流行するのも時間の問題だろう。

 日本は資源小国だからこそ、技術力で立ち向かうしかない。ワクチンを早期に実用化できれば、世界の感染の抑え込みにも貢献できる。感染症研究に関心を持つ学生や中高生が増えた今こそ、人材育成に向けて手を打つべきだ。(中村直人)

安価な電源 安定供給を…国際環境経済研究所理事 竹内純子氏

たけうち・すみこ 東京都生まれ。慶大法学部卒。1994年、東京電力に入社。99年から国立公園・尾瀬の保護に携わる。東電を退社し、2012年から現職。多数の政府有識者会議で委員。東北大特任教授(客員)。著書に「誤解だらけの電力問題」など。51歳
たけうち・すみこ 東京都生まれ。慶大法学部卒。1994年、東京電力に入社。99年から国立公園・尾瀬の保護に携わる。東電を退社し、2012年から現職。多数の政府有識者会議で委員。東北大特任教授(客員)。著書に「誤解だらけの電力問題」など。51歳

 日本は資源に乏しく、エネルギー確保は生命線だ。エネルギーの「安定供給・安全保障」「経済性」「環境性」のどこに重心を置くかのバランスが重要で、近年は電力自由化による経済性や、温室効果ガスの排出削減など環境性に重心が置かれてきた。

 東京電力福島第一原子力発電所の事故以前、日本は原子力発電を大幅拡大する方針だった。しかし事故後は原子力への依存度を低減しつつ、温室効果ガスの削減目標を引き上げ、コストも抑制するとした。経済性や環境性を重視し、電力自由化や再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度の導入も進めた。同時にいろいろやり過ぎた感が強い。

 現在はロシアのウクライナ侵略を機に化石燃料のコストが上がって電気代が上昇し、家計が圧迫されている。電力需給が 逼迫ひっぱく した状況だ。

 日本の発電量の内訳は、化石燃料による火力発電が76%で最も多く、再エネは20%、原子力は4%にすぎない。再エネの更なる拡大には、まず他国より高止まりしている発電コストを引き下げなければならない。ただし、日本は再エネ導入に向けた国土や自然の条件が他国より有利だとは言いがたい。火力発電所の一部は再エネの出力調整に回り、固定費の回収が進まず休廃止に追い込まれている。国が進めた電力システム改革の修正を急ぐ必要がある。

 長期的にはカーボンニュートラルの達成に向け、潤沢で安価な低炭素電源の確保がカギとなる。運転中に二酸化炭素を排出しない原子力の活用は避けて通れない。ただ、原発は地元の反対などで長期停止すれば民間事業者が 莫大ばくだい な投資をしても回収できない事態に陥りかねない電源だ。国は原子力規制行政の効率化や民間事業者のリスク軽減策、新型炉の導入なども検討すべきだ。政治がきちんと向き合う必要がある。(松尾彩花)

原発是非など各党公約

 各党の公約には、日本の研究力低下の問題や新型コロナウイルス対策、原子力発電の利用の是非などが含まれている。

米ファイザー製の新型コロナウイルスのワクチン
米ファイザー製の新型コロナウイルスのワクチン

 自民党は研究力向上策として、10兆円規模の「大学ファンド」による世界トップレベルの研究大学の実現を掲げた。立憲民主党は国の科学研究費の倍増、公明党は博士課程の学生に対する支援の倍増を打ち出した。

 原子力政策を巡っては各党の主張が割れる。自民や日本維新の会、国民民主党、NHK党は安全が確認された原発の再稼働を主張する。共産党やれいわ新選組、社民党は原発の速やかな停止や禁止を訴えた。

東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(読売機から、2021年4月撮影)
東京電力の柏崎刈羽原子力発電所(読売機から、2021年4月撮影)

 新型コロナ対策では、国産のワクチンや治療薬の開発が遅れたことを踏まえ、多くの党がワクチン開発の推進や、コロナ対策の司令塔機能の強化などを掲げている。

【最新情報】参院選2022 各地の情勢(特設サイト)
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3134112 0 科学・IT 2022/07/03 05:00:00 2022/07/05 18:41:23 2022/07/05 18:41:23 https://www.yomiuri.co.jp/media/2022/07/20220702-OYT8I50016-T.jpg?type=thumbnail

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