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東京電力福島第一原子力発電所で増え続ける「処理水」を海に放出する東電の計画について、原子力規制委員会は22日、安全性に問題はないとして正式に認可した。東電は今後、福島県と同原発が立地する同県大熊、双葉の両町から事前了解を得たうえで、海洋放出のための設備の本格工事に着手する。政府と東電は来春の放出開始を目指している。

東電の計画では、同原発から沖合約1キロ・メートルまで海底トンネルを建設し、その先端から処理水を放出する。放出前に海水で薄め、放射性物質トリチウム(三重水素)の濃度を国の排出基準の40分の1以下、世界保健機関(WHO)の飲料水基準の7分の1程度にする。
海底トンネルなどの工事にかかる期間は当初、10か月半程度と見積もっていたが、来春から放出を開始できるよう8か月半程度に短縮するという。

処理水は、2011年の炉心溶融(メルトダウン)事故で溶け落ちて固まった核燃料を冷却した後の汚染水を、多核種除去設備(ALPS=アルプス)で処理し、トリチウム以外の大部分の放射性物質を取り除いた水。その量は増え続けており、現在は約131万トンが同原発敷地内の1000基以上のタンクに保管されている。タンクの容量は来年夏~秋には満杯になるとみられている。
このまま保管を続けると廃炉作業の支障となるため、政府は昨年4月、23年春から海洋放出を始める方針を決めた。放出終了までには数十年かかる見通しだ。
政府と東電、さらに丁寧な情報発信を
東京電力福島第一原子力発電所の「処理水」の海洋放出は、原発敷地内のタンクの数をなるべく減らし、廃炉作業を円滑に進めるため、避けて通れないステップだ。廃炉が着実に進まないと、福島の復興の妨げにもなる。
処理水は同原発の汚染水を浄化し、大部分の放射性物質を除去した水だ。トリチウムの除去は技術的に難しいが、薄めて濃度を下げれば、人間や環境に影響がないことが科学的に確認されている。トリチウムは通常の原発の運転でも発生するため、国内外で海などへの放出が認められている。
処理水の放出に反対している中国や韓国の専門家を含む国際原子力機関(IAEA)の調査団は今年4月、東電の計画や浄化設備を調査した上で、安全性に問題はないとの報告書を公表した。
それでも風評被害への懸念は根強く、地元の漁業関係者らは海洋放出に反対している。規制委は今年5月に審査結果をまとめた審査書案を了承した後、一般から意見を募集した。その結果、1233件の意見が寄せられ、安全性に疑問を抱く人の声も多かった。政府と東電は今後さらに丁寧に情報を発信し、国民全体に対して理解を求めていく必要がある。(科学部 服部牧夫)