<速報> トランプ米政権、対中制裁第3弾を発動
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    海賊版漫画サイト対策、「遮断」以外も有効策続々

     海賊版サイトの総合対策を検討する政府の有識者会議が、熱い議論を続けている。これまで、広告規制や正規版サイト振興、フィルタリングなど様々な対策案が出そろったが、最大の焦点は、賛否が割れるブロッキング★の法制度整備が盛り込まれるかどうかだ。だが、立法には様々なハードルがあることも分かってきた。

     

    ★ブロッキング
     インターネット上の通信をプロバイダーが監視し、アクセス先への接続を偽装するなどして遮断する行為。電気通信事業法の通信の秘密侵害罪にあたる。海賊版サイトの横行に頭を悩ませた政府が4月13日、刑法の「緊急避難」の要件を満たす場合には違法性が阻却されるとして、「漫画村」など3サイトの名前を挙げ、プロバイダーの自主的な取り組みとしてブロッキングを行うことが適当とする考えを決定した。

     

    総合対策

    • 中村伊知哉慶応大教授
      中村伊知哉慶応大教授

     「4月の政府決定から状況は大きく変わった」と話すのは、今年6月に始まった有識者会議の座長の一人、中村伊知哉慶応大教授だ。

     政府がブロッキングを緊急対策として打ち出した後、問題の3サイトは事実上閉鎖され、出版社の売り上げは回復した。さらに会議の議論などを通じ、ブロッキング以外にも様々な対策が取り得ることも分かってきた=表=。中村座長は「現時点でブロッキングが『緊急避難に該当する』という解釈は成立しないと思う」とした上で、「今後は知恵を出し合って総合的に対策をとりまとめていく。その中にブロッキングが入るかどうかは今後の議論次第。入らないという選択肢もありうる」とする。

     


    ■検討中の主な対策

    〈1〉正規版サイトの流通促進

    〈2〉海賊版サイト管理者の刑事告訴

    〈3〉配信代行業者への民事手続き

      (差し止め請求、損害賠償請求など)

    〈4〉検索結果表示の抑止

    〈5〉海賊版サイトへの広告出稿規制

    〈6〉フィルタリング

    〈7〉教育、啓発活動

    〈8〉ダウンロードの違法化

    〈9〉リーチサイト規制

    〈10〉ブロッキング法制化

     

    先行事例に学ぶ

     有識者会議には、権利者団体の代表だけでなく、法律家や通信事業者、インターネットに詳しい技術者や消費者団体の代表なども参加し、様々な角度から対策を検討している。テレビや音楽業界の先行事例も参考にされた。

    動画や音楽配信では、ユーチューブが2007年に導入したコンテンツIDと呼ばれる著作権管理システムが活用されている。違法なアップロードを機械的に検知し、著作権者は削除か広告料受け取りを選択できる仕組みだが、漫画などの静止画では導入されていない。

     また、動画と音楽の場合、著作権法改正により12年から違法コンテンツをダウンロードする行為が刑事罰化されたが、静止画は対象外だ。理由について文化庁は、当時、出版業界から強い要望が寄せられなかったためだと説明する。出版業界は今後、静止画でも導入するよう働きかけを強める見通しだ。

     

    「合法」の挑戦

    • 「合法的な海賊版サイト」を目指すというマンガ図書館Z
      「合法的な海賊版サイト」を目指すというマンガ図書館Z

     「海賊版サイトを潰すには、それより便利な合法サイトを作るのが一番効果的」と話すのは、漫画家の赤松健さんだ。赤松さんらの運営する無料配信サイト「マンガ図書館Z」では、8月から実業之日本社の絶版作品のデータを一般から募集し、作者の許諾を得たら掲載する試みを始めた。収益の一部は投稿者にも還元することで、多くの絶版作品を集める狙いがある。赤松さんは「読者を呼び戻すには、我々自身が知恵を絞り、技術を駆使する必要がある」と話す。

     

    ブロッキングには賛否

    • 村井純慶応大教授
      村井純慶応大教授

      次々と対策案が打ち出される一方で、ブロッキングについては賛否が分かれたままだ。

     「ブロッキングには簡単な回避方法があり、効果が薄い」と技術的な問題点を指摘するのは、有識者会議のもう一人の座長で、インターネットの父と呼ばれる村井純慶応大教授だ。また、「インターネットの基本の仕組みをいじることになるので、ミス一つで世界を混乱に陥れる危険がある」とも懸念する。08年にはパキスタンでユーチューブへの国内の接続を遮断しようとして世界の3分の2で閲覧不能を招いた。

     回避策について、委員の川上量生カドカワ社長は会議中、「(ブロッキングを導入しない)理由にならない。あらゆる犯罪(対策)に回避策はあり、イタチごっこになるのは当然の話」と反発し、効果が限定的であっても、少しでも効果があるなら導入して権利者を守るべきだと主張した。技術に詳しくなかったり、気軽にアクセスしたりしている利用者には効果があるはずだとの意見も出たが、これには、「リテラシー不足から安易にアクセスしている利用者層には、青少年を対象としたフィルタリングや教育で対応すべきだ」との反論もでた。

     権利者団体からも慎重論が出始めている。委員の一人で、日本写真著作権協会の常務理事を務める瀬尾太一さんは「広告規制や配信代行業者への民事手続き、フィルタリングなど、様々な対策案が出てきており、費用対効果の高い対策から実行していくべき。通信の秘密などの問題を抱えるブロッキングについては、最後の手段とするのが妥当ではないか」と話す。当初はブロッキングを歓迎していた老舗出版社の幹部も、「ブロッキングは副作用が大きすぎる。これだけ対策が出そろったのだから、他の手段でやってほしいというのが本音」と漏らす。

     

    ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

    全通信をチェック ブロッキング立法化には壁

     ブロッキング法制化には様々なハードルがある。

     第一の関門は憲法上の問題だ。ブロッキングは、すべての利用者の通信をチェックすることで特定の通信先を見つけ、それを遮断するため、海賊版サイトの閲覧とは無関係な通信も含めた大量の通信を検知することになる。精神的自由を制約する重大な人権侵害になり、厳格な違憲審査基準が適用されることになる。

     「人権制限については、昔から『スズメを撃つのに大砲を使うな』といわれる」。会議の委員の一人で、憲法が専門の宍戸常寿東大教授はこれについて「小さな標的を大砲で撃っても当たらない上、一帯を焼け野原にして甚大な被害を与える。猟銃では駄目なのか、ということ」と説明し、こう続ける。「ブロッキングも同じこと。目的を達成するための手段が合理的か、フィルタリングなど権利侵害の度合いの少ない実効的な方法が他にないのか、事情を十分調べなければ違憲の疑いを拭うことはできない」

     会議ではブロッキングを認める海外の制度も紹介されたが、いずれもそのまま日本に導入するのは難しい。

     例えば英国や豪州では、裁判所の決定でプロバイダーへのブロッキング請求を認めている。ただ、これらの国では、もともと直接の権利侵害者ではない者に対しても差し止め請求が可能な法制度がある。日本で行おうとすれば法体系全体の見直しが必要になる。

     ドイツでも2015年、連邦通常裁判所でプロバイダーへのブロッキング請求が可能であるとの判断が示されたが、宍戸教授は「ドイツと日本では憲法が保護対象とする『通信』の定義が違う」と指摘する。日本では、インターネットの利用行為が広く通信の秘密として保護されるが、ドイツでは、メールやチャットなどに限定し、公開されたサイトの閲覧は対象外という。

     しかし、ドイツでは通信の秘密の保護範囲が狭い代わりに、情報プライバシー権の保障が強力で、最近では大量監視の問題に対応するため「IT基本権」と呼ばれる新しい判例を生み出している。委員の一人、森亮二弁護士は「インターネットの自由を守るという同じ目的に対し、それぞれの国がその文化や歴史から違う法的枠組みで対応している。単純に他国の法律の一部分だけ日本に持ってくることは出来ない」と釘を刺す。

     気になったのは、韓国の事例だ。行政機関である著作権保護院の勧告や放送通信委員会の命令でブロッキングが可能な仕組みで、13年の12件が、3年後には209件と、急速に拡大している。さらに、その他の違法有害情報への対応もあわせると、17年には9万1853件が審査対象となり、6万6659件がブロッキング、1万5499件が削除された。膨大な申請に対し審査に当たるのは9人で、英国人ジャーナリストの北朝鮮関係の記事がブロッキングされたこともあるという。

    (編集委員 若江雅子)

     

    2018年08月13日 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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