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    ITジャーナリスト三上洋さんが、サイバー犯罪から身を守る術や情報流出対策などを解説します。

    架空請求急増!高齢女性が「法務省偽ハガキ」にだまされる

     有料サイト料金などの名目で現金をだまし取る架空請求の相談が急増している。昨年と比べて2.2倍もの相談が国民生活センターへ寄せられており、特に「女性・50歳以上」からの相談が目立つ。電話番号あてのSMS(ショート・メール・サービス)や、法務省の名前をかたったハガキにだまされているようだ。(ITジャーナリスト・三上洋)

    2017年度の架空請求相談は18万件で前年の約2.2倍

     2017年度に国民生活センターへ寄せられた架空請求の相談件数は、約18万2000件に上る。2016年度は約8万3000件で、その2.2倍だ。急激に増えている。国民生活センターは「速報!架空請求の相談が急増しています-心当たりのないハガキやメール・SMSに反応しないで!-」とする記事を公式ホームページに掲載し、注意を呼び掛けている。

     特に増えたのは、女性からの被害相談だ。上のグラフは男女別の架空請求相談件数をまとめたもので、2015年度や2016年度の男女比はおおむね「男4:女6」程度だった。しかし2017年度は女性からの相談が急増し、男女比は「男1:女3」。つまり、相談件数全体の4分の3が女性からだった。

     年齢別では50歳以上の女性の相談が多い。下のグラフは2017年度の相談件数を年齢別にまとめたものだ。「50歳代」「60歳代」「70歳以上」の女性が圧倒的に多く、全体の63%を占めている。特に女性の「50歳代」と「60歳代」は、いずれも前年の4倍以上もの相談が寄せられており、集中的に架空請求被害を受けていることが想像できる。

     なぜ50歳以上の女性が多いのだろうか。国民生活センターの担当者は「はっきりした原因はわからない。しかし相談内容から推測するに、ハガキによる架空請求が増えたことが理由かもしれない」と推測する。

    法務省をかたるハガキで50歳以上女性を狙っている?

    • 法務省をかたった架空請求ハガキ(国民生活センター提供)
      法務省をかたった架空請求ハガキ(国民生活センター提供)

     問題のハガキは「消費料金に関する訴訟最終告知のお知らせ」というタイトルで、差出人は「法務省管轄支局 民間訴訟告知センター」となっている。「貴方あてに契約不履行による民事訴訟を開始する」と書かれている。

     もちろん内容はウソであり、架空請求のハガキだ。国民生活センターによれば「このタイプの架空請求ハガキが2017年から増えている。特に、最近では個人情報保護シールを貼った巧妙なものが登場している」とのこと。国や自治体が返答を求めて送ってくるハガキを思い出していただきたい。えてして、返答の個人情報を記した部分に貼りつけるためのシールがついているだろう。あれと同じタイプのシールを使ったハガキが、架空請求を本物だと信じ込ませるための小道具として使われているわけだ。「50歳以上の女性は在宅である場合が多く、届いたハガキを直接受け取ることになる。驚いて、本物と信じて連絡してしまうのかもしれない」(国民生活センター)

     犯人は最初から50歳以上の女性を狙っている可能性があると、筆者はにらんでいる。性別や年齢層を意識せずにターゲットを選んでいる犯行ならば、相談件数の「63%」までが50歳以上の女性になるというのは、不自然ではないか。そうなると、犯人は「住所」「氏名」「性別」「年齢」を把握できる個人情報リストを持っていることになる。名簿屋からデータを買って、ハガキを送っているのかもしれない。かなりの手間とコストをかけた架空請求だと言えるだろう。

     このハガキの巧妙な点がもう一つある。それは料金の内容が一切書かれていない点だ。請求元も書いていないし、内容もわからない。「何の料金なんだろう?」と思わせる作りになっている。

     請求元や内容がわからないので、思わず電話で連絡してしまうという人間心理を突いた仕掛けだ。電話をしてしまうと、あの手この手で脅される。その末に、料金が未払いのままだと訴訟になると、思い込まされるのだ。このハガキの目的は、偽口座に金を振り込ませたり個人情報をだまし取ったりすることではなく、ターゲットに「連絡させる」ことにあるのだ。

    手口は多様化、人間心理を巧妙に突く

    • SMSを使った架空請求メッセージ(国民生活センター提供)
      SMSを使った架空請求メッセージ(国民生活センター提供)

     架空請求相談が急増したもう一つの理由は、手口が巧妙になってきたことがある。以前のように単純なメールでの架空請求だけでなく、被害者に本物だと思い込ませる心理的な手口が使われている。犯罪グループは、様々な手口を試しながらうまくいったものを集中的に使ってくる。最近目立つのは以下の例だ。

    ■SMSで有名サイトをかたる

     メールでの架空請求は迷惑メール対策によって削除されることが多いが、電話番号宛てのSMSは対策が甘い場合が多い。メールに比べると、ショートメールは通知で開く人が多いためか、犯人はSMSを多く利用している。有名サイトの名前をかたって、「法的手続きに入る」などと脅しメッセージを送ってくる。ちなみに、本などの通販で知られる「Amazon(アマゾン)」をかたった偽ショートメールも、あちこちに流されている。

    ■コンビニの収納代行を使うパターン

     架空請求料金の回収は、コンビニでプリペイドカードや電子マネーなどを買わせて、その番号を伝えるパターンが多いが、高齢者は対応しにくい。代わりに、コンビニの収納代行を悪用するパターンが増えてきた。チケット料金・仮想通貨取引の収納代行を装ってコンビニで入金させる手口だ。これなら収納代行ナンバーを伝えるだけなので、高齢者も簡単に金を払い込める。犯人側からすると、スムーズにだませる確率が高まるわけだ。この連載「サイバー護身術」では以前に「詐欺の新手口!『ビットコイン口座にコンビニから入金』が増加中」という記事も掲載したので、参考にしてほしい。

    ■「カモ名簿」によって何度もだまされる

     犯罪グループは架空請求の手口をマニュアル化しているほか、「カモ名簿」と呼ばれるリストを作っている。過去に詐欺でだまされた被害者の住所・氏名・電話番号などをまとめた名簿だ。これを使って何度も架空請求を仕掛けてくる。過去に金融詐欺被害に遭った高齢女性が、架空請求に繰り返しだまされるという例が報告されている。

    父母や祖父母には「困ったことは必ず相談」と声をかけよう

     巧妙化、複雑化してきた架空請求。本物か偽物かを判断するのは難しく、特に高齢者には判断しづらい場合が多く、被害急増の原因となっている。対策をまとめておこう。

    1:「後払い」「未納」の請求は詐欺だと疑え

     有料サイトやネットサービスは、前払いかクレジットカードによる引き落としで料金を支払うものが、ほとんどを占める。従って、「後払い」や「未納」の請求が来た時点で、詐欺を疑ったほうがいい。

    2:SMSでの請求は詐欺を疑え

     ショートメールで料金を請求する企業はほとんどない。電話番号あてのSMSで請求が来た時点で詐欺を疑おう。

    3:何があっても電話やメールで問い合わせをしてはいけない

     こちらから電話やメールをすると「身に覚えがある人」としてカモ名簿に入れられてしまい、さらに架空請求が増えることになる。何があっても、ハガキに記された電話番号にかけたり、返信メールを送ったりして問い合わせをしないことだ。「キャンセルの方はこちら」「誤クリックの方はこちら」などの表示も、必ず無視する。

    4:家族や友人に相談しよう

     どんな形であれ、請求が来た時点で必ず誰かに相談すること。家族に言いにくければ、友人や国民生活センターへ電話する。消費者ホットライン「188(いやや)」で相談するのが望ましい。

    5:父母や祖父母に「何かあったら相談を」と声をかけよう

     詐欺にだまされる高齢者は、誰にも相談できずに払ってしまうパターンが多い。スマートフォンなどの携帯電話を持っている父母や祖父母に「料金請求や訴訟についての連絡が来たら相談してね。どんなことでも構わないから、迷ったり困ったりしたら、相談してね」と声をかけておく。


    ★参考記事

     ・「免疫」ない? 女性・高齢者のアダルトサイト相談が増加:サイバー護身術

     ・アマゾン偽SMSと「最終通知書」ハガキに注意:サイバー護身術

     ・DMM装う詐欺摘発…被害10億円以上か

    2018年06月06日 18時33分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
    プロフィル
    三上洋   (みかみ・よう
     セキュリティ、ネット活用、スマートフォンが専門のITジャーナリスト。最先端のIT事情をわかりやすく解き明かす。テレビ、週刊誌などで、ネット事件やケータイ関連の事件についての解説やコメントを求められることも多い。
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