[地球を読む]米中「新冷戦」 貿易・技術・安保 覇権争い…白石隆 熊本県立大理事長

[読者会員限定]
無断転載禁止
メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 最近、「新冷戦」ということがよく言われる。

 新冷戦は米国と旧ソ連が対立した冷戦とは違う。米ソ冷戦では1962年のキューバ危機のように、核戦争の可能性が現実にあった。東西の経済依存関係はほとんどなかった。

 米国を中心とした「自由世界」で自由主義的な国際秩序が作られ、「封じ込め政策」でソ連陣営に対峙たいじできたのはそのためだった。新冷戦では米中対立が激化しても、核戦争に発展する可能性は小さい。中国は共産党国家体制と社会主義市場経済を維持しつつ、国際的には世界経済に統合されている。「封じ込め」は戦略にはなり得ない。

 では、なぜ、これほど急速に米中対立が厳しくなったのか。中国が「中国の夢」として覇権への意志を明らかにし、米国がそれを受けて立ったからである。

 習近平シージンピン中国共産党総書記(国家主席)は、2017年10月の党大会や昨年3月の全国人民代表大会での演説で、党がすべてを指導する体制の下、国内的には「近代化した社会主義強国の建設」と「世界一流の軍事力の形成」を加速し、国際的には「一帯一路」建設を推進し、世界の統治システムの変革・構築に積極的に関与すると宣言した。

 一方、米国も17年12月に公表した国家安全保障戦略で、中国は「インド太平洋地域から米国を追い出し、この地域の秩序を自らに都合の良いよう再編しようとしている」とした。

 さらに昨年10月には、ペンス副大統領が対中政策について包括的な演説を行った。中国が世界経済に統合されれば、いずれは民主化し市場経済化するだろうとかつては考えたが、そうはならず、中国は自国の経済的利益を優先し、軍事力を強化して、自らに有利な世界を作ろうとしている――。ペンス氏はこう述べ、中国が経済面では為替操作や知的財産の盗用などで産業基盤を築き、軍事面では尖閣諸島周辺や南シナ海で一方的な現状変更を試み、米国の民主主義にまで干渉していると鋭く批判した。

 では、米中関係はこれからどうなりそうか。

 米中貿易戦争は新冷戦の一部である。昨年12月の米中首脳会談を受け、「90日間」と期限を切って始まった米中新貿易協議で仮に中国が全面譲歩したとしても、米中対決が終結に向かうとは思えない。米国では、21世紀の安全保障、経済の両分野で鍵となる技術優位を守ることが超党派の総意だからだ。

 米国が貿易・投資、技術、安全保障などの分野で中国に厳しく対応し、中国が応酬する。日本などの諸国も様々に反応する。こうした力学の中で、国際関係はおそらく急速に変わっていこう。

新たな国際ルール策定を

 「新冷戦」に関して注目すべきは次の3点だ。

 一つは通商システムを巡る争いである。

 米国は昨夏、成立させた国防権限法に、外国企業による米企業の買収や合併などを審査する対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化を盛り込み、外国人の機密情報へのアクセスも制限した。念頭に中国があることは明白だ。同法は、中国の通信大手「華為技術(ファーウェイ)」などのサービスや機器を利用することも禁止した。

 昨秋に合意された、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる「米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)」では、いずれかの国が「非市場経済国」と自由貿易協定(FTA)を結ぶ場合、残る2か国は一定期間後にUSMCAを終了し、両国間の協定に移行できるとした。非市場経済国は中国を想定している。

 米国が今後、重要とみなす「新興・基盤的技術」を国際輸出管理体制の規制対象とするよう提案する可能性も十分ある。

 こうして見れば、日本政府が中央省庁の情報通信機器調達に関して指針をとりまとめ、電力、金融など14分野については情報漏洩ろうえいや機能停止などの懸念があるものは調達を避けるようにし、また民間企業・団体にも注意を促したことも驚きではない。さらに、現下の急速な技術革新を考えれば、日本としても新興・基盤的技術の輸出規制の厳格化を真剣に考えるべきだろう。

 1980年代以降、通商自由化は米国主導で進んできたが、今、これが大きな転機にある。新興・基盤的技術の国際輸出管理を狙いとして米ソ冷戦時代のCOCOM(対共産圏輸出統制委員会)、CHINCOM(対中国輸出統制委員会)の21世紀版が編成される可能性も十分ある。そうなると中国との通商や供給網の編成などで、日本の企業活動も大きく影響を受けるのは確実だ。

 もう一つは安全保障に関する動きである。

 日本政府は昨年12月に決定した新たな防衛計画の大綱の中で、陸、海、空、宇宙、サイバー、電磁波の各領域での防衛能力を統合する「多次元統合防衛力」の構築をうたった。これには米国などと従来以上に防衛産業技術分野で協力することが不可欠であり、その仕組み作りが求められる。

 米、英、豪、ニュージーランド、カナダの5か国で機密情報を共有する「ファイブ・アイズ」と日本との関係強化も進んでいるという。これを本格化するためにも機密情報管理体制の整備が必要となる。

 アジアは新冷戦の前線である。こうした分野で米国やその同盟国と協力関係の強化を図るのは、日本としては当然のことで、米国中心の安全保障体制の進化にもつながる。

 最後は電子データ流通という論点である。

 ヒトとモノがネットワークでつながる時代、医療から金融取引まであらゆる電子データを集約・分析し、新たな価値を生み出すデータ経済が既に現実のものとなっている。ただ、個人や企業の情報をやりとりするデータ流通についての考え方と体制は、民主主義・市場経済体制の国と、「党がすべてを指導する」という中国では大きく異なる。

 民主主義・市場経済体制ではプライバシー保護に配慮しつつ、国境を越えたデータの利用を促し、同時に巨大化するプラットフォーム企業を規制することが一大課題となっている。

 安倍首相は先月下旬、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)での基調講演で、データ流通の国際ルール策定に向けた交渉枠組みの創設を呼びかけた。国家によるデータ管理を強める中国などを念頭に、安全で自由な「データ流通圏」の構築を目指すもので、この分野での新たな国際体制の形成につながる可能性がある。

 新冷戦時代の今、問われているのは、米国を中心とする国際安全保障、通商、データ流通などの体制整備だ。日本がここで重要な役割を果たすには、これを日本の国内体制の再編・整備と同時並行で進めていく必要がある。

 白石隆氏 1950年生まれ。米コーネル大、京大教授、政策研究大学院大学長などを歴任。2007~18年、日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所長も務めた。

421441 1 地球を読む 2019/02/04 05:00:00 2019/02/04 17:44:14 https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/02/20190204-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail

アクセスランキング

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)
ページTOP
読売新聞社の運営するサイト
ヨミダス歴史館
ヨミドクター
発言小町
OTEKOMACHI
元気ニッポン!
未来貢献プロジェクト
The Japan News
美術展ナビ
教育ネットワーク
活字・文化プロジェクト
よみうり報知写真館
読売新聞社からのお知らせ