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[地球を読む]東京五輪まで1年 新たなレガシーへ着々…武藤敏郎 東京五輪組織委事務総長

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武藤敏郎氏 1943年生まれ。東大卒。財務次官を経て日本銀行副総裁、大和総研理事長。2014年1月、東京2020大会組織委員会事務総長に就任。
武藤敏郎氏 1943年生まれ。東大卒。財務次官を経て日本銀行副総裁、大和総研理事長。2014年1月、東京2020大会組織委員会事務総長に就任。

 2020年東京五輪・パラリンピック競技大会まで、残すところあと1年となった。24日に五輪、8月25日にはパラリンピックの1年前イベントがそれぞれ開催される予定で、機運が高まってきた。

 国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長から「大会準備は大変順調に進んでいる」と高い評価を得ているが、大会本番に向けて取り組むべき課題は山積している。

 去る5月、国内在住者向けの五輪観戦チケットの抽選販売を行った。申し込みを行うためのID登録は750万件を超え、事前の予想を大幅に上回った。今回販売されたチケットは322万枚だ。1枚も当たらなかった人を対象にした抽選再販売を8月に行うほか、秋にも引き続き抽選販売を計画している。8月にはパラリンピック観戦チケットの販売も始まる。

 大会組織委員会は、小中学生のために学校と連携し、五輪・パラリンピック合わせて100万枚を超えるチケットを用意した。子供たちにとって、東京大会の観戦は一生の思い出になることだろう。

 大会のボランティアの準備も着実に進んでいる。8万人の募集枠に対し、20万人を上回る応募があった。海外からも数万人の応募があり、東京大会に対する関心の高さが示された。現在、面談を実施しており、秋には研修をスタートさせる。ボランティア活動を通じて、有意義な体験をしていただければと思う。

 競技会場の整備も、すべて予定通り進んでいる。新国立競技場は11月に完成する見通しで、来年2月までに九つの新設会場がすべて完工する運びだ。

 晴海の選手村も年末には完成する。特に青海、有明、お台場の臨海部には若者向けのアーバン(都市型)スポーツの施設が集中して整備され、大会時には「祝祭空間」となるだろう。

 そのほか大会関係者の宿泊、飲食、輸送、警備、医療の提供は重要な仕事だ。世界中から集まるメディアの取材環境の整備や、スポーツの廉潔性を維持するためのドーピング対策、さらに台風や酷暑など異常気象への対応も不可欠だ。特に輸送、警備、サイバーセキュリティー、暑さ対策は、組織委員会だけで対応するのは困難であり、国や東京都・関係自治体との連携を強化している。

 テストイベントが既に始まっており、来年春までに約60競技で行われる。テストイベントは、アスリートはもちろん、すべての関係者がそろって参加する本番さながらの予行演習である。組織委員会は、テストイベントを通じて大会運営のノウハウを学び、蓄積して、本番に備えていく。

 

持続可能性 社会の指針に

 この機会に、日本が2020年に五輪・パラリンピックを開催する意義を改めて考えてみよう。

 大会に向けて東京では様々な社会基盤(インフラ)が整備されつつある。特に障害者、老人、子供に配慮したバリアフリーの都市づくりが進んでいる。1964年の東京大会は新幹線や首都高速道路などのレガシー(遺産)を残した。しかし、既にインフラが整っている今日の日本では、こうした基盤整備は、それほど重要なテーマではない。

 大会時には、世界中から民族、人種、文化、宗教などが異なる大勢の人々が集まってくる。多様な人々を受け入れて共生すること、すなわち「多様性と調和」が東京大会の大切な基本概念(コンセプト)だ。

 五輪・パラリンピックはスポーツの祭典であり、アスリートは自己ベストを目指して競う。力を出し切れないこともあるし、敗者もいる。ベストを尽くして戦った人たちは、お互いに尊敬し合い、観客もこうした思いを共有するはずだ。

 スポーツには、スポーツを超えた価値がある。だからこそ「スポーツには世界と未来を変える力がある」(東京大会ビジョンより)という言葉が意味を持つ。

 東京大会のもう一つのコンセプトは「持続可能性」だ。組織委員会は昨年、国際連合と持続可能な開発目標(SDGs)に関する基本合意書を締結した。これに基づき、いくつかのプロジェクトが進行中だ。

 第一は、金、銀、銅メダルを、使用済みの携帯電話や小型家電といった、いわゆる「都市鉱山」から取り出した原材料で製作する取り組みである。100%リサイクルの貴金属を使用してメダルを製作するのは大会史上初めてで、国際オリンピック委員会(IOC)や国際パラリンピック委員会(IPC)から高く評価されている。

 第二に、廃プラスチックによる海洋汚染問題の深刻化を踏まえ、廃棄されるプラスチック容器を再利用して表彰台を作成する。これも史上初の試みとなる。

 第三に、選手村内の交流施設の建設資材に全国の自治体から提供される木材を活用する。大会後には解体した木材を自治体に返還して、公共施設などに再利用する。既に63自治体の参加が決定した。

 さらに、聖火リレー用トーチは東日本大震災の被災地の避難住宅で使用したアルミサッシで製造する。聖火ランナーのユニホームも廃棄されるペットボトルから作った繊維を一部使用して作成する。約1万人のランナーがこのユニホームを着て日本全土を走る。

 一連のプロジェクトは、持続可能な社会の実現を目指し、人々の意識向上とリサイクル(再生)、リユース(再利用)、リデュース(減量)の3Rを促進する社会システムの構築をアピールする狙いがある。

 多くの企業が様々な形で持続可能性の向上に貢献する事業に取り組んでいる。これが定着すれば大会の重要なレガシーとなろう。

 組織委員会は、大会準備にできるだけ多くの人々が参加することを基本方針に掲げてきた。例えば、大会エンブレムやマスコットのデザインを公募制にした。エンブレムには約1万5000件の応募があり、審査風景をライブ配信で公開した。採用された「組市松紋」は好評である。

 マスコットにも2000件以上の応募があり、全国の小学生らによる投票で、「ミライトワ」と「ソメイティ」が選ばれた。結果発表の瞬間、会場の小学生から大歓声が上がった。

 メダルやトーチのデザインも公募で決めた。大会ボランティアがフィールドキャスト、都市ボランティアはシティキャストと名付けられたのも、ボランティアに応募した人たちの投票による決定である。

 この透明性の高い民主的なプロセスを重視した運営は東京大会の特色であり、今後の五輪運営のロールモデルになると自負している。東京大会が推進する「持続可能性の追求」と「透明性の高い民主的手続き」は五輪・パラリンピックのみならず、広く社会の行動指針となるに違いない。

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701106 1 地球を読む 2019/07/21 05:00:00 2019/07/21 05:00:00 地球を読む 東京2020大会組織委事務総長 武藤敏郎氏 写真差し替え https://www.yomiuri.co.jp/media/2019/07/20190721-OYT8I50000-T.jpg?type=thumbnail

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