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[東日本大震災10年 秘話]<3>自治体避難、ゴルフ場「丸ごと町に」

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 東京電力福島第一原発事故は、前例のない広域災害だ。福島県内の避難指示区域だけでも最大1150平方キロ。東日本大震災の津波浸水域の倍、東京23区の1・8倍にあたる。全域が避難対象の町も出た。

全町避難のため役場でバスを待つ大熊町の人たち(2011年3月12日、福島県大熊町で)
全町避難のため役場でバスを待つ大熊町の人たち(2011年3月12日、福島県大熊町で)

 この「全町避難」は、住民たちの危機感を呼び起こした。避難が長引けば、故郷が消えてしまうと。ここから、ある計画が動き出す。既存のゴルフ場を丸ごと町に造り替えようという「仮の町」建設だ。

 候補地は、原発から南に50キロ以上離れた福島県いわき市郊外の「ヘレナ国際カントリー倶楽部」。同市には、原発が立地する大熊、双葉両町から多くの町民が避難していた。この3市町の住民が2012年に「いわき・ふたば絆の会」を結成、計画を推し進めた。

 18ホールのゴルフ場や乗馬クラブがある270ヘクタールの敷地は、宅地造成がしやすい。正門前には、JR常磐線が走る。施設はバブル崩壊を機に、現在の運営会社に売却された。ホテルなどが入る予定だった15階建てのビルは完成目前の状態。全長約4キロの地下道が整備され、電気ケーブルや上水道も通っている。

 計画によれば、ここに3000世帯分の戸建て住宅や学校を建て、未完成のビルには役場や診療所、集合住宅を整備。正門前に新駅を開設し、高速道につながる道路も建設する。絆の会の依頼を受け大手ゼネコン大成建設が12年暮れにまとめた資料には、図書館から郵便局、託児所の床面積まで細かく記載されていた。

 仮の町構想はその後、自然消滅した。いわき市の反対に加え、概算360億円ものプロジェクトに行政が乗ってこなかった。もとから実現可能性の薄い計画だったと切り捨てる人もいる。しかし、それだけか。

 生活の場所が人生を左右する。それぞれの避難先で定住が進む。19年4月に避難指示が一部解除された大熊町の場合、昨年末の実人口は原発事故前の3%未満。双葉町ではまだ帰還は認められず、町民は42都道府県に分散したままだ。故郷が消える――。あの危機感はいまも払拭できていない。

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故郷再建 署名7000人

「一緒に暮らせて、畑も作れる」。描いた未来図

「絆の会」で活動した双葉町の矢口守夫さん
「絆の会」で活動した双葉町の矢口守夫さん

 東日本大震災の被災地では、多くの集落が高台への集団移転を選んだ。コミュニティーを維持しつつ、安全な場所へと退避してもらう事業だ。東京電力福島第一原発事故の避難者が、同じ場所に集まり、暮らしを取り戻そうとした「仮の町」構想も、それと似ていた。だれもが、故郷のコミュニティーを守ろうとした。そのもろさを感じ取っていたのだ。

施設側も「復興に貢献」

 福島県双葉町から、同県いわき市に避難した矢口守夫さん(66)にとって、いわき市のゴルフ場に「仮の町」を作る構想は、原発事故後に初めて見た希望の光だった。

 事故前は双葉町で接骨院を経営していた。事故翌年の3月、多くの町民が避難するいわき市中心部で接骨院を再開させたのも、「双葉の人たちが会える場所を作りたい」との思いからだった。そんなとき、人づてに構想を知った。

 「バラバラになってしまった住民がまた集まって暮らせる」。矢口さんは、大熊、双葉町といわき市の住民らでつくる「いわき・ふたば絆の会」の結成準備から携わり、顔なじみの町民たちに構想の計画書を渡して協力を求めた。用意した計画書があっと言う間になくなった。構想の存在が口コミで広がっていった。

 大熊町から会津若松市へと避難した坂上義博さん(75)は、構想を知って、会に参加した。第一原発の地質調査にかかわり、地元と原発との関係を見つめてきた。「やらなきゃだめだ。やらなくては住民がバラバラになってしまう」と使命感に燃えた。

 絆の会は2012年8月25日、いわき市で結成総会を迎えた。大熊、双葉両町の町民ら約300人が集まり、地元選出の国会議員も顔をそろえた。登壇した矢口さんは訴えた。「我々が望むのは、双葉郡の人たちが1か所にまとまり、家族が一緒に暮らせる安住の場所をつくることだ」

 翌春には、バス2台に分乗した総勢約80人が、政権を奪回したばかりの東京・永田町の自民党本部に向かった。約7000人分の署名を添え、石破茂幹事長ら党幹部に構想実現への協力を陳情した。帰路のバス車内では、誰もが構想の実現を信じて笑顔を見せていた。

 候補地の「ヘレナ国際カントリー倶楽部」も協力的で、頻繁に見学に訪れる避難者の案内もしてくれた。15階建てのビルや、4キロ続く地下道、広い空。「ここならみんなで一緒に暮らせる」「畑もつくれるかな」。声を弾ませる避難者を見たヘレナ運営会社の高橋大吾専務(36)は「ふるさとに帰れない人たちを応援したいという思いを強くした」と言う。

 運営会社は、避難者向けのスーパーやレストランの運営、新しくできる公園の管理など、ゴルフ場運営の経験を生かした協力を想定していた。「施設の雇用を守りながら復興に貢献できる」と考えていた。

受け入れ 混乱を懸念

 避難者を受け入れる側だったいわき市の態度は慎重だった。

 「仮の町」構想は、各自治体や国、県などがそれぞれに検討を進めた。中身はまちまちだったが、大熊町のほか、浪江、富岡両町が、いわき市を候補地に挙げていた。

 市は12年8月、双葉郡8町村と意見交換会を開催し、当時の渡辺敬夫市長(75)が、1か所に避難者を集中させるのではなく、市内に分散させて住宅建設を進めるよう求めた。

 当時の幹部が、市長の発言を解説する。「いわきも津波で被災し、混乱していた。集中で市内に『別の町』ができると、避難者と市民が分断されないか危惧した」

 いわき市は、原発が立地する沿岸部の町と気候が似ており、避難者全体の15%にあたる約2万4000人が流入した。

 仮設住宅が集中する地区では、医療機関やスーパー、行政施設などが人であふれ、賃貸物件が不足、市内で新たに住宅を購入する動きもあって地価は一時1割以上も上昇した。

 朝夕を中心に幹線道路などの渋滞も慢性化した。原発の廃炉・復旧工事や除染作業に向かうトラックやワゴン車に加え、自宅へ一時帰宅する避難者のマイカーなどが長い列をつくった。いわき市側の街づくりが混乱していた。

 別の元幹部が語る。「将来の帰還が実現すれば、仮の町の跡地は廃虚となる危険性があった。そんな構想のために従来の都市計画を変更させるのは難しかった」

 絆の会に夢を託した矢口さんは、現在も、いわき市で妻、長男夫婦と接骨院を続けているが、この10年で高齢化が進み、双葉からの避難者を診る機会は減ったという。「仮の町ができていれば、みんながバラバラにならないで済んだ。なぜ、実現できなかったのか。今でも夢に出てくる」

構想頓挫 各地に分散へ

 12年春、当時の大熊町長の渡辺利綱氏(73)がヘレナを視察した。町役場は11年4月から会津若松市で稼働しているが、「多くの町民が避難するいわき周辺にリトル大熊を」との声が根強くあったからだ。敷地内を歩いた渡辺氏は、「町民が分散しないで済むメリットは大きい」と感じた。

 埼玉県加須市に役場を移した双葉町も、12年度予算で、次の移転先調査費として1億円を計上した。元町長の井戸川克隆氏(74)は「場所は特定しなかったが、11年5月には独自の仮の町構想を作っていた。家やふるさとを失った町民には、ゼロから再出発できる環境が必要だった」と話す。

 渡辺氏は最終的に、「じっくり考えて実現は難しい」と判断した。「農村の人びとは長年協力し合って、家族のような関係を築く。仮の町でそんな関係ができたかどうか」と懐疑的に振り返る。

 双葉町も、13年3月に現町長の伊沢史朗氏(62)が初当選すると、いわきのほか、郡山市などの各地に拠点を分散させる方向にかじを切っていった。

 伊沢町長は「当時は『町に戻れない』と言った瞬間、町が崩壊する危機感があった。町民をつなぎ留める手段だったのかもしれない」と見る。

 元福島大学教授で地方自治総合研究所の今井照・主任研究員(67)は「仮の町構想が実現していれば、生活水準の向上やコミュニティー維持などメリットは大きかったはずだ」とする一方、「新興住宅地のような街を一から作れば避難者の定住が一層進み、帰還の妨げになる可能性がある。帰還人口を増やしたい国や自治体には、選択しがたい面があったのでは」と指摘した。

取材・竹田淳一郎、星野達哉、鞍馬進之介 デザイン・佐久間友紀

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1763018 0 企画・連載 2021/01/12 05:00:00 2021/02/22 08:37:28 「いわき・ふたば絆の会」で活動した双葉町の避難者・矢口守夫さん(12月28日午後0時20分、福島県いわき市で)=竹田淳一郎撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/01/20210111-OYT1I50043-T.jpg?type=thumbnail

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