読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

仙台に人口流入再び、大規模開発受け東北の「ダム」機能果たす[歳月]<3>

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 東日本大震災の後、東北の人口変化はめまぐるしい。津波にのまれた沿岸部では、人々が一斉に内陸へ移動し、震災前から続く人口流出は加速した。いったんは鈍ったが、復興の完了に合わせて、再び勢いづいている。最大の流出先は100万人都市・仙台市だ。独り勝ちか、それとも、東北の防波堤になるのか。

市に土地提供

 岩手、宮城、福島3県の計127市町村のうち、仙台市は唯一、転入者数が転出者数を上回る「転入超過」の状態を2011年以降、維持し続けている。

 超過数は、11年が6633人、12年が9284人。10年比でそれぞれ6倍、8倍だ。13年以降も震災前を上回るペースだ。市は、市内の人口について、27年に109万9000人まで増えると予測する。

 「多くの被災者をすぐに受け入れられる場所があった」。仙台に人口が流入した理由について、市関係者は口をそろえる。

 その場所の一つが、仙台駅から5キロ東の仙台市若林区荒井地区。住宅と農地が混在する約150ヘクタールの広大な土地の開発が1986年、市の主導で始まった。市で2本目となる地下鉄の開業を見据え、宅地の造成が行われた。しかし、バブル崩壊以後は停滞気味に。民間開発を含めた造成予定地の4割は未着手だった。

 地権者らでつくる荒井西土地区画整理組合の理事長だった伊藤敬一郎さん(72)は「計画を縮小するしかないと思っていたところに、震災がきた」と振り返る。東隣の荒浜地区は津波で壊滅、全988世帯が被災していた。伊藤さんのもとにはすぐに、市から土地提供の要請があり、夏には被災者の集団移転先となった。

「一気に整備を」

 荒井地区は土地の多くが造成済みで、上下水道も引かれていた。市幹部は「災害公営住宅を建てられる広さがあり、すぐに生活基盤が整う場所だった。この際、未開発の土地を一気に整備してしまおうということになった」と話す。

 市は16年までに災害公営住宅計527戸を建設した。地区には市外で被災した人や、被災者でない人も移り住んだ。地区の人口は震災前の2倍にあたる約2万人に増えた。

 同市太白区でも、長町地区の旧国鉄貨物線跡地などで区画整理を終えた時期と震災が重なった。同地区には災害公営住宅が高層マンションと並んで立つ。開発地域の人口は約8500人、震災前の3倍近くになった。

周辺に波及

 仙台市の人口集中は、周辺の名取市や富谷市などにも波及している。元々、仙台のベッドタウンとして、転入超過が続いていた。

 不動産鑑定士の千葉和俊さん(65)は「震災後、仙台周辺はハウスメーカーによる宅地開発が進み、子育て世代が誘導されている」と分析する。仙台駅へ鉄道で10分余の名取市では保育所が4か所増えた。市は19年、30年の目標人口を現在より約5500人多い8万5000人にした。

 東北大災害科学国際研究所の奥村誠教授(地域計画)は「仙台のような大都市だったから、東北の『ダム』としての機能を果たし、沿岸からの流入を受け止めることができた。雇用や住居が確保できなければ、関東などに人が流れただろう」と指摘する。

「復興完了」仕事なく

 岩手県釜石市や同県宮古市では18年以降、転出超過が再加速している。両市の担当者は「防潮堤や宅地の整備などの復興事業が終わり、雇用の場がなくなったことが大きい」と話す。

 釜石市は11年、前年の3・5倍の760人の転出超過だったが、翌年以降は工事関係者の流入もあり、転出超過数は100~200人台に収まっていた。釜石自動車道の開通で盛岡市などへの交通の便は良くなった。県沿岸最大のショッピングセンター「イオンタウン釜石」も開業した。

 しかし、18年は404人、19年は383人に跳ね上がった。このうち1割が仙台市へ移っていた。市幹部は「近隣自治体の工事作業員やその家族も移り住み、人口減は鈍るだろうと期待したが甘かった。都市部から遠いという地理的ハンデは大きい」と嘆く。

福島の避難者1割が宮城に 福島第一原発周辺の自治体は、避難指示が解除されても、転出超過が収まらない。一方、宮城県に接する福島県新地町は転入超過の状態だ。町の担当者は「住民票を元の場所に置いたままだった避難者が、正式に新地へ住所を移すケースが増えた」と話す。

 福島の避難者は宮城県へ集まっている。復興庁によると、宮城に住む福島避難者は今年1月時点で2730人、全国の1割を占める。東北の他県が数を減らす中、宮城は9年間で約1000人増えた。福島県の担当者は「福島の近くにいたいと、東北各地から移り住んでいるのではないか」と推測する。

 仙台市太白区でパン屋を営む今井まゆさん(45)は移住した一人。浪江町から実家のある同区へ家族6人で避難、6年前に自宅を建てた。浪江に戻っても、商売は成り立たない。生活や子供の学校のことなどを考えた。それでも週1回、浪江に通い、町役場の前でパンを販売している。「浪江と、どこかでつながっていたい」との思いは消えない。

仙台・荒井地区 建築ラッシュ…地価 9年で1・5倍

 「地下鉄やバスが走り、店も病院もある。不便はないよ」。開発が進む仙台市若林区荒井地区のすぐそばで暮らす佐藤成晃せいこうさん(83)は話す。宮城県女川町の自宅を津波で失った後、娘や息子の近くがいいと、仙台市のマンションに妻と避難した。13年にできた女川町の災害公営住宅には入らず、15年に娘の家の近くに完成した「六丁の目中町災害公営住宅」に入居した。

 同年に地下鉄東西線が開業すると、沿線には新築の戸建て住宅が軒を連ねた。スーパーや薬局、家電量販店が入るショッピングモールなどのオープンも相次ぐ。

 仙台駅まで約10分の荒井駅周辺では、宅地の公示地価も上昇。11年は1平方メートルあたり9万800円だったが、20年は13万6000円になった。

 19年には若林警察署、20年には荒井小学校ができた。警察署は県内で29年ぶり、小学校は市内で5年ぶりの新設だ。佐藤さんは先月3日、真新しい警察署へ行き、運転免許証を返納した。「ここなら車なしでも、生活できるから」とほほ笑んだ。

 取材・高野陽介、押田健太 デザイン・武石光央

無断転載・複製を禁じます
スクラップは会員限定です

使い方
1881981 0 企画・連載 2021/03/03 05:00:00 2021/03/10 09:44:11 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210302-OYT1I50103-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)