笑顔の記憶 抱きしめて…[思い]<4>
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産声が愛らしかった。
児童74人が犠牲となった宮城県石巻市立大川小で娘は短い生涯を閉じた。
あの日の朝、千聖さんは食パン一枚かじって家を出た。「帰ってきたら、おいしいご飯を食べさせてあげよう」。2日後に再会した娘は、ブルーシートにくるまれていた。
「ふざけてんの、早く目を開けて」。抱きかかえ、体をさすり、目や鼻にこびりついた泥を拭った。
帰宅する父を玄関に隠れて驚かせ、近所のあぜ道を「おっとぉー、おっかぁー」と、叫びながら自転車で駆けてきた。冬の散歩道、自販機で買ったココアをポケットに入れ、2人で手を温めた。
震災後、初めて入浴できた時、日常を感じた。それが涙が出るほどつらかった。笑うことを罪と感じた。
寒い季節になると、満面の笑みで走ってくる娘の夢を見る。「おっかぁー」と抱きつかれて目を覚ます。ぬくもりを確かめたくて、もう一度、目を閉じる。
12月24日の夜は毎年、大川小の校舎を訪れる。心の底から幸せと感じる日が来るかはわからない。それでも「千聖は笑っている私が好きなはず」と毎晩、湯船につかりながら笑顔を練習する。
「ちー、ずーっと大好きだよ」。頭上には、あの日と同じ星空が広がっている。
写真と文 関口寛人