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[東日本大震災10年]善意と希望 響き合う…陸前高田のジャズ喫茶

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2021年3月2日 復活したジャズ喫茶「h.イマジン」で。オーディオセットやグランドピアノなどほぼ全ての備品が支援の品だ
2021年3月2日 復活したジャズ喫茶「h.イマジン」で。オーディオセットやグランドピアノなどほぼ全ての備品が支援の品だ

 冨山勝敏さんに出会ったのは東日本大震災発生から約1か月後、避難所となっていた岩手県陸前高田市の高台にある中学校の体育館。眼下に望む街中心部では、がれきの撤去が進み、市民が行き交い始めた頃だった。

 日中は復旧作業などで外出する人が多く、がらんとした体育館で、鮮やかな赤色の長袖セーターにベストをまとい、黙々と方眼紙に建物の図面を引いていた冨山さんに声をかけた。

 「こんど津波が来たら、『ノアの箱舟』のように海に浮かぶ店をつくろうと思いまして」

2011年4月10日 避難所となっていた中学校の体育館で。報道で被災を知った全国の人たちから続々とLPレコードが届けられた
2011年4月10日 避難所となっていた中学校の体育館で。報道で被災を知った全国の人たちから続々とLPレコードが届けられた

 当時69歳。津波で流されたジャズ喫茶の再建を目指していた。店の名は「h.イマジン」。ジョン・レノンの名曲と人生観の「暇人」をもじったものだ。

 どんな時もユーモアを忘れず、柔和な語り口に引き込まれ、押し潰されそうな日々の取材の最後、必ず立ち寄り話を聞いた。

 世帯ごとに重ねた段ボール箱は、衣類や食器を収容する棚代わりに使われていた。冨山さんを囲む箱だけは、中古のレコード盤がぎっしり詰まっていた。ジャズの名曲を提供して愛された店主を紹介する記事を見て、全国から寄せられたものだった。

 冨山さんは支援者から贈られた蓄音機とコーヒーメーカーを携えて避難所を巡り、「一日ジャズ喫茶」を開き、多くの人たちを励ました。豊かなコーヒーの香りが、冷たい避難所に希望を運んでくれるように感じた。

 店を失うのは初めてではない。2003年に岩手に移住、開いた最初の店は火事で焼失。震災前年に陸前高田で2度目の店をオープンしたばかりだった。

2020年8月20日 かさ上げされた土地に市街地が整備されつつある。赤丸内は復活した店がある場所(読売機から)
2020年8月20日 かさ上げされた土地に市街地が整備されつつある。赤丸内は復活した店がある場所(読売機から)

 震災からちょうど1年後の3月11日、隣の大船渡市で営業再開。そして、かさ上げ工事の完了を待って、陸前高田の元の場所で再建を果たしたのが19年秋だった。「一番うれしかったのは全てを失い、ゼロから作り上げたこの店を手に入れた瞬間です。最高の満足感、喜びでした」

2011年3月12日 震災翌日の陸前高田市(店があった場所は津波にのみ込まれた)(読売機から) 
2011年3月12日 震災翌日の陸前高田市(店があった場所は津波にのみ込まれた)(読売機から) 

 見渡せば1000枚を超えるレコードやピアノなど、ほぼ全て寄贈の品。「この店はお預かりしたもの。9割方は人様の善意で、今がある」と話すゆえんだ。

 「箱舟」とはいかなかったが、ステージや休憩場所を備えた店を誰もが自由に使える場所にして、「皆さんにお返しをしたい」。79歳になった冨山さんは今も変わらず前を向く。(写真部 松本剛)

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1901827 0 企画・連載 2021/03/11 05:00:00 2021/03/11 05:00:00 「2021年3月2日」 復活したジャズ喫茶「h.イマジン」で。オーディオセットやグランドピアノなどほぼ全ての備品が支援の品だ https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210310-OYT1I50052-T.jpg?type=thumbnail

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