【宝物の科学】民衆救った 薬の原点

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植物や鉱物など8種出展

第72回正倉院展

 正倉院の宝物には、民衆のために実際に使われた薬や、毒性の強い成分が混ざった薬がある。今回出展される薬にはどんな特徴があるのか。科学的な調査で明らかになった薬の効能や成分、特徴などを探った。

光明皇后が献納

 正倉院の薬の多くは756年、光明皇后が東大寺の大仏に献納したものだ。薬の名称や量などがわかる目録「種々しゅじゅ薬帳やくちょう」には「病に苦しむ人のために使ってください」と記され、実際に多くが持ち出された。献納された60種類のうち、現在38種類が保管される。

 皇后が深く帰依した仏教の経典は、この世に生きるすべてのものを救う大切さを説く。奈良国立博物館の内藤栄学芸部長は「仏教の教えに基づき、民衆のために献納されたのではないか」と語る。

 一方、正倉院には種々薬帳に記された薬以外に、「帳外ちょうがい薬物」と呼ばれる薬が約20種類ある。帳外薬物と種々薬帳の薬の成分などを解明するため、宮内庁正倉院事務所が主体となり、戦後2回にわたって科学的な調査を実施した。

便秘改善や鎮静

 今回の正倉院展では、植物や鉱物などを原料にした薬8種類が展示される。その一つ「大黄だいおう」は便秘の改善や鎮静などの効能があるとされ、今も漢方薬として使われる。薬は高さ2メートルにも育つタデ科植物の根茎こんけいから作る。外皮を取り除いて乾燥させ、10センチ程度の大きさに小分けして天日干しにする。種々薬帳には200キロ以上あったと記されるが、現在は約31キロしかない。

正倉院の薬について語る米田・大阪大招聘教授(大阪府吹田市で)=東直哉撮影
正倉院の薬について語る米田・大阪大招聘教授(大阪府吹田市で)=東直哉撮影

 1994~95年の第2次調査に加わった米田該典かいすけ・大阪大招聘しょうへい教授(薬史学)は「副作用がほとんどなく薬効は今の漢方薬とほぼ同じ。当時の人たちにも、使い勝手がよかったのだろう。今に通じる薬の原点と言える」と強調した。

 宝物には化石から作った薬もある。「五色龍歯ごしきりゅうし」は、象の歯の化石とみられる。使用された記録はないが、鎮静の作用があるとされる。真柳誠・茨城大名誉教授(医史学)は「化石には薬の成分を吸着する特性が考えられ、別の薬と配合して効き目を発揮したのでは」と推測する。

不老不死体に毒?

 毒性が強い薬もある。帳外薬物の一つ「雄黄おおう」は、殺菌や殺虫、解毒目的で用いられたとされる。主成分は毒性の強い硫化ヒ素。赤みがかったオレンジ色の卵形(最大直径約4センチ)で、重さは約150グラム。「鶏冠石けいかんせき」と呼ばれる鉱物を溶かし、鋳型に流して加工したとみられる。

 ヒ素や水銀化合物は当時の唐では不老不死の薬とされたが、服用した皇帝らが早世したとも伝えられる。

 船山信次・日本薬科大特任教授(薬史学)は「朽ちてなくなる草木と違い、鉱物は不変であることから、当時はそれらを体内に取り入れることで永遠の命が宿るという考えもあった」と指摘する。

 雄黄かどうか不明だが、光明皇后の祖父、藤原鎌足かまたりの墓との説が強い阿武山古墳(大阪府高槻市)に埋葬された人の毛髪からは、ヒ素が検出されている。

 一方、意外な使われ方もある。752年の大仏開眼供養会かいげんくようえの前日、東大寺に雄黄が納められたという記録がある。内藤部長は「仏教では、仏前供養の薬物として雄黄が用いられていた。正倉院の雄黄も供物として使われた可能性がある」とみる。

中国・インド伝来

 正倉院の宝物には、産地が不明な薬もあるが、中国やインドなどから運ばれてきたと考えられる薬が多い。「シルクロードの終着点」とも例えられる正倉院に集まった薬は、日本の薬の始まりともいわれる。

 大黄の原料は中国西北部(甘粛省、青海省、チベット自治区周辺)で採れたものとみられる。古代ギリシャ・ローマ時代には、シルクロードを通じて欧州に伝わっていたようだ。

 雄黄など産地がはっきりしない薬もあるが、「遠志おんじ」は中国・内蒙古自治区や山西省、湖北省など広い範囲で採れた可能性があるとされる。また「紫鉱しこう」はインドが原産との見方があり、「蘇芳すおう」は中国の南部や東南アジアからもたらされたとみられる。

 「正倉院薬物の世界 日本の薬の源流を探る」の著者で常磐植物化学研究所(千葉県佐倉市)顧問の鳥越泰義さん(90)は「当時の世界最先端の薬が正倉院に集められ、その後独自に発展して広まった。日本の薬の礎だ」と話す。

 ◎大阪科学医療部 冨山優介、長尾尚実が担当しました。

正倉院クイズに挑戦

 問題 「種々薬帳」に記載された薬のうち、現在、正倉院に残っている薬は何種類?
 〈1〉18種類 〈2〉38種類 〈3〉98種類 (答えはこちら

 正倉院の宝物にまつわるクイズ、さらに楽しみたい方は読売新聞オンラインの正倉院展「自宅で楽しもう!」ページ(https://www.yomiuri.co.jp/shosoin/jitaku/)へ。正解者に抽選でプレゼントが当たる設問もあります。

第72回正倉院展

  奈良国立博物館 (奈良市登大路町)
 10月24日(土)~11月9日(月)
 ※会期中無休、日時指定入場制
  【開館時間】
 午前9時~午後6時。金・土・日曜と祝日は午後8時まで。
  【前売り日時指定券】
 通常券(一般)2000円、同(中高大生)1500円ほか
 ※当日券はありません。
 ※観覧には前売り日時指定券の予約・発券が必要です。各種手数料がかかる場合があります。
 ※ローソンチケットとチケットぴあにて販売中。奈良国立博物館での販売はありません。
 ※購入方法により、最終販売日時は異なりますが、売り切れ次第、終了します。
 詳細はハローダイヤル((電)050・5542・8600)か、 奈良博ホームページ 読売新聞オンライン で。
  【主催】
 奈良国立博物館
  【協賛】
 岩谷産業、NTT西日本、関西電気保安協会、近畿日本鉄道、JR東海、JR西日本、シオノギヘルスケア、ダイキン工業、大和ハウス工業、中西金属工業、丸一鋼管、大和農園
  【特別協力】
 読売新聞社
  【協力】
 読売テレビほか

 答え 〈2〉38種類

 今回出展される薬のほかに、「しょう」や「にんじん」なども記載されています。

無断転載・複製を禁じます
1533344 0 正倉院 2020/10/09 11:54:00 2020/10/17 17:01:57 2020/10/17 17:01:57 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201009-OYT8I50018-T.jpg?type=thumbnail

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