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【苦難を越えて・正倉院宝物の原点】(下)安寧への願いをつなぐ

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見学者が訪れる正倉院正倉。宝物は近くの新宝庫に移されている(奈良市で)=浜井孝幸撮影
見学者が訪れる正倉院正倉。宝物は近くの新宝庫に移されている(奈良市で)=浜井孝幸撮影

 奈良市の東大寺大仏殿から北へ少し歩くと、緑に囲まれた校倉あぜくら造りの国宝・正倉院正倉がある。その近くに立つ鉄筋コンクリート造りの新宝庫では、宮内庁正倉院事務所職員が白衣にマスク姿で、宝物に目をこらす。秋恒例の点検作業の一コマだ。

 張り詰めた空気の中、床に敷いたマット上に宝物を置く。主に3人1組での作業。時折、腹ばいになってルーペで細部をのぞき込み、異常の有無を点検用カードに記す。

 新型コロナウイルスが流行する今年は、各組の作業場所をできる限り離し、作業前の検温や消毒も徹底している。それでも飯田剛彦・保存課長は「細心の注意を払うのは毎年同じ。無事にやり通すだけです」と淡々と語る。

 奈良時代から令和へ。約9000件に上る正倉院宝物は、1260年余りの間、宝庫に納められ、人の手で守られてきた。世界でも類を見ない経過をたどっている。

 明治時代以降、宝庫の扉を開くのは年1回。天皇の許可を必要とする「勅封」制度によって、秋の2か月間のみ開封され、集中的に宝物の点検が行われる。現在、私たちがかつての輝きを目にすることができるのは、先人から受け継いだ宝物を後世に伝えようとする人たちのたゆまぬ努力があるからだ。

 正倉院事務所は人員の入れ替わりも少なく、同じ人が同じ目線で点検を続ける強みがある。ベテラン、中堅、新人がともに組んで作業することでノウハウを継承する。

 「だから小さな異変にもすぐに気付くことができる。いわば正倉院宝物の『ホームドクター』のような立場です」と西川明彦所長は話す。

入念な点検と手入れを経て出展される「粉地彩絵箱(ふんじさいえのはこ)」。仏への献物を入れた
入念な点検と手入れを経て出展される「粉地彩絵箱(ふんじさいえのはこ)」。仏への献物を入れた

 現在、宝物を収納する新宝庫は空調完備とはいえ、カビや害虫も発生する。そのたびに対策を施し、時には保管方法も見直してきた。修復作業が長期に及ぶこともある。いかに劣化させず、次の世代へ引き渡すか。今だけでなく、過去、そして未来にも重い責任を負っている。

 こうした宝物の歴史や価値、将来に残す意義を広く伝えていくのが正倉院展だ。

 宝物にとってはわずかな環境の変化も負担となる。それでも状態のいいものを十数年周期で公開している。「長く伝えられてきた日本人の心を未来へとつなぐためです」。主催する奈良国立博物館の松本伸之館長はそう語る。

 コロナ禍に見舞われた今年は、72回の歴史で初めて感染症対策にも取り組む。事前予約の日時指定入場制を導入し、展示室の有効面積や過去の来場者の動きを踏まえ、1時間に約260人の受け入れ可能人数を定めた。感染予防に万全を期す構えだ。

 実は、光明皇后が「病に苦しむ人に用いてほしい」と献納した薬を今回まとめて出展する方針は昨秋に固まった。疫病と闘った当時の人々の思いに触れる展示となるのは偶然の巡り合わせだ。

 「宝物に込められているのは安寧への願い。私たちに希望の光をもたらしてくれるでしょう」と松本館長。その思いはこれからも生き続ける。

 (この連載は編集委員・田尾茂樹が担当しました)

第72回正倉院展
10月24日~11月9日 奈良国立博物館 特別協力 読売新聞社
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1570406 0 正倉院 2020/10/22 12:00:00 2020/10/22 12:00:00 2020/10/22 12:00:00 入念な点検と手入れを経て第72回正倉院展に出展される「粉地彩絵箱(ふんじさいえのはこ)」 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/10/20201019-OYT8I50057-T.jpg?type=thumbnail

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