聖武天皇 遺愛の品々

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 奈良国立博物館(奈良市)で開催される第73回正倉院展(10月30日~11月15日)の見どころなどを紹介する「正倉院展講座」(読売新聞社主催)が9月20日と28日、東京と大阪で開かれ、各約50人が耳を傾けた。東京講座では、同博物館の内藤栄・特任研究員が目玉の宝物などを、ライターの多田みのりさんが奈良のおすすめスポットを紹介。

楽器と鏡 似た図柄


  奈良国立博物館特任研究員 内藤栄氏

ないとう・さかえ 1960年生まれ。サントリー美術館を経て96年に奈良国立博物館に入り、学芸部長などを歴任。専門は仏教工芸史。
ないとう・さかえ 1960年生まれ。サントリー美術館を経て96年に奈良国立博物館に入り、学芸部長などを歴任。専門は仏教工芸史。

大仏への献納品

 正倉院の宝物は約9000件あり、752年の東大寺の大仏 開眼会(かいげんえ) で納められた品が数多く伝わります。今回出展の「 漆小櫃(うるしのこびつ) 」は大仏への献物を入れた箱で、木の札に「天平勝宝四年四月九日」という開眼会の日付や宝物名があります。その中には今回公開される「 瑪瑙坏(めのうのつき) 」「 白瑠璃高坏(はくるりのたかつき) 」などが納められていました。

 瑪瑙坏は大ぶりな葉の形をしています。瑪瑙は透けるので、光を通すと美しい。白瑠璃高坏は吹きガラスの技法で作られたものです。この技術は当時の日本になく、西アジアで作られたものが伝わったのではないかと思います。

 宝物の性格が大きく変わったのは4年後。聖武天皇が崩御した756年のことです。亡くなって49日目、聖武天皇が使った道具類や楽器など約650件をお (きさき) である光明皇后が献納しました。献納は信仰心の証しで、晩年に出家した天皇が仏の国で生まれ変われるよう願いを込めた喜捨です。一番数が多かったのは武器武具です。殺生の道具は手元に置きません、という誓いを込めたのでしょう。

実はインコ

 「 刻彫尺八(こくちょうのしゃくはち) 」は聖武天皇の遺愛品です。竹の表皮を彫刻して文様を表し、全面に草、鳥やチョウのほか、女性も描かれています。女性のほっそりした体の雰囲気や髪の結い方は、中国の700年代初めのお墓の壁面に描かれた女性像とよく似ています。この時期の絵に多く見られる姿なので、尺八もこの頃に作られ、日本に伝わったのではないかと思います。

 「 螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん) 」は中国の隠者の一人、阮咸が愛した楽器です。背面に螺鈿でインコの意匠が施され、今回出展の「 花鳥背八角鏡(かちょうはいのはっかくきょう) 」とよく似た図柄です。

出展宝物の見どころを紹介する内藤栄・奈良国立博物館特任研究員=奥西義和撮影
出展宝物の見どころを紹介する内藤栄・奈良国立博物館特任研究員=奥西義和撮影

 二つの宝物に描かれている2羽の鳥はオウムと考えられてきましたが、どちらも数年前の調査でインコとわかりました。螺鈿紫檀阮咸の鳥は宝石を、鏡の鳥はブドウの枝をくわえています。金属の成分分析の結果、この鏡が中国製であることはほぼ明らかで、螺鈿紫檀阮咸も中国製と考えてよいと思います。

 献物品を納めた「 籠箱(こばこ) 」という展示品は、虫かごのような作りの箱です。虫を入れて仏様に聞かせたのか、食べ物を入れたのか……などと想像されますが、本当のところはわかりません。奈良時代に行われた仏の供養の面白さを伝える宝物です。

奈良で庭園・紅葉巡り

ただ・みのり 1972年生まれ。「旅と歴史のライター」として、遺跡や歴史を巡る旅の企画・取材を続ける。奈良市観光大使。東京都在住。
ただ・みのり 1972年生まれ。「旅と歴史のライター」として、遺跡や歴史を巡る旅の企画・取材を続ける。奈良市観光大使。東京都在住。

  ライター 多田みのりさん
 展示を見た後、東大寺大仏殿北側の正倉院に向かいます。紅葉と鹿が楽しめる風景です。二月堂周辺には、法華堂の「 経庫(きょうこ) 」と 手向山(たむけやま) 八幡宮の「宝庫」という二つの 校倉(あぜくら) 造りがあります。さらに春日大社、ささやきの 小径(こみち) を通って 高畑(たかばたけ) エリアへ。奈良が初めての人にはおすすめのコースです。

 庭園巡りや紅葉狩りもいい。足をのばして聖武天皇、孝謙天皇の勅願寺と伝わる奈良市郊外の 円成寺(えんじょうじ) に行けば、浄土世界を思わせる美しい庭園が広がっています。

 高畑に一時期、居を構えた志賀直哉は「奈良」という随筆を書きました。帝室博物館総長兼 図書頭(ずしょのかみ) を務めた森鴎外は、正倉院の秋の 曝涼(ばくりょう) に立ち会っています。雨の日は垂仁天皇陵や平城宮跡なども訪れたようで、「奈良五十首」はそんな日々を詠んだ短歌の連作です。

 今年は聖徳太子1400年 御遠忌(ごおんき) 。生誕の地とされる明日香の橘寺から山並みを眺めると、タイムスリップしたような感覚が味わえます。

 私の座右の銘は「百聞は一見にしかず」。そして「百見は一体験にしかず」。筆や握り墨、古代ガラスを作る体験もできます。変わらない風景を見ることで自分の変化に気づけるから、私は奈良が好きなんです。

第73回正倉院展

奈良国立博物館 (奈良市登大路町)
 10月30日(土)~11月15日(月) ※会期中無休 
 予約による日時指定入場制で奈良国立博物館チケット売り場での販売はありません。
  【開館時間】 午前9時~午後6時(金、土、日曜と祝日は午後8時まで)
  【前売り日時指定券】 一般券2000円、高大生券1500円、小中生券500円ほか
 ※当日券はありません。観覧には前売り日時指定券の予約・発券が必要です。
 ※前売り日時指定券の枚数には制限があります(午前9時から原則1時間ごとに約500人まで入場)。
 ※先着順でローソンチケットで販売中です。売り切れ次第、販売を終了します。
 ※購入方法により最終販売日時は異なりますが、売り切れ次第、終了します。
 ※キャンパスメンバーズ学生券、無料指定券(障害者手帳をお持ちの方など)がありますが、予約・発券が必要です(未就学児は除く)。
 ※問い合わせはハローダイヤル(050・5542・8600)へ。
 ◎新型コロナウイルスの感染拡大状況により、開催内容を変更する場合があります。

HPで見どころ紹介
 第73回正倉院展に先立ち、同展の 公式ホームページ が新たに開設されました。主な出展宝物やチケット購入方法、関連イベントの情報などを紹介しています。
 今回の見どころや過去の本紙掲載紙面、研究者による講演動画など、年間を通して正倉院や正倉院宝物について今後発信します。関連グッズのオンライン販売も追加される予定です。どうぞご期待ください。詳しくは こちら から。

  【主催】 奈良国立博物館
  【協賛】 岩谷産業、NTT西日本、関西電気保安協会、近畿日本鉄道、JR東海、JR西日本、シオノギヘルスケア、ダイキン工業、ダイセル、大和ハウス工業、中西金属工業、丸一鋼管、大和農園
  【特別協力】 読売新聞社
  【協力】 読売テレビほか

東京講座
9月20日
協力・奈良国立博物館
会場・読売新聞東京本社(東京都千代田区)

 *大阪本社文化部の持丸直子、早川保夫、藤本幸大、松浦彩が担当しました。

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使い方
2469410 0 第73回正倉院展 2021/10/25 17:30:00 2021/10/26 09:50:56 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/10/20211025-OYT8I50015-T.jpg?type=thumbnail

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