「古代」語る文書群

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 奈良国立博物館(奈良市)で開催される第73回正倉院展(10月30日~11月15日)の見どころなどを紹介する「正倉院展講座」(読売新聞社主催)が9月20日と28日、東京と大阪で開かれ、各約50人が耳を傾けた。大阪講座では、飯田剛彦・宮内庁正倉院事務所保存課長と磐下徹・大阪市立大准教授が出展される文書などについて解説した。

写経所の人間模様


  宮内庁正倉院事務所保存課長 飯田剛彦氏

いいだ・たけひこ 1968年生まれ。2000年に宮内庁正倉院事務所に入所、17年から現職。専門は日本古代史。
いいだ・たけひこ 1968年生まれ。2000年に宮内庁正倉院事務所に入所、17年から現職。専門は日本古代史。
続修正倉院古文書 第四十九巻
続修正倉院古文書 第四十九巻

続修正倉院古文書 第四十九巻

 「 続修正倉院古文書(ぞくしゅうしょうそういんこもんじょ)  第四十九巻」は、写経所やそこで働く人などに宛てた書状を集めたものです。

 第6紙は、腹痛のため欠勤するという内容。定型だと休暇願には休む理由と期間を書きますが、この書状には下痢でいつ治るか分からない、治ったらすぐ出勤するとあります。その割には、きれいな字で書かれているようにも思えますが、腹痛は本当でしょうか。

 第8紙は「 上咋麻呂(かみのくいまろ) 」という人が、写経所の 上馬養(かみのうまかい) という職員に生のイワシ60匹を贈った際の送り状です。直前にも、この人あてに任官を望む書状を出しています。写経所にも役人の推薦枠があり、咋麻呂が同族の有力者に頼ったのでしょう。

出展宝物について語る飯田氏
出展宝物について語る飯田氏

 ただ、文書の「生鰯六十隻」部分には「用不」と上書きされています。イワシは受け取られず、便宜も図られなかったとみられます。なかなか生々しい書状です。

 他に出展される「 (しろ) アシギヌノ 腕貫(うでぬき) 」は、写経の際に使ったと考えられる腕カバーで、ひも部分に「 高市老人(たけちのおゆひと) 」という名前の墨書があります。老人は写経所が稼働した約50年中、30年ほど勤めた古株です。

 老人は、光明皇后の一周忌法要で使う一切経書写の開始時に招集された26人のうちの一人。その時の文書に名前があり、「請得浄衣偽病未参」と注記されています。作業着をもらったのに病気と偽って出てこないという意味です。なぜ仮病とばれたのでしょう。信用がなかったのか、周りの人から告げ口をされたのか。公文書に不名誉な記載が残ってしまった人物が使っていた腕カバーだと思うと、味わい深いですね。

中央集権への転換


  大阪市立大准教授 磐下徹氏

いわした・とおる 1980年生まれ。大阪市立大講師などを経て2015年から現職。専門は日本古代史。
いわした・とおる 1980年生まれ。大阪市立大講師などを経て2015年から現職。専門は日本古代史。
正倉院古文書正集 第十九巻
正倉院古文書正集 第十九巻

正倉院古文書正集 第十九巻

 今年出展される「 正倉院古文書正集(しょうそういんこもんじょせいしゅう)  第十九巻」にある「 相模国封戸租交易帳(さがみのくにふこそこうえきちょう) 」は、735年(天平7年)に相模国(現在の神奈川県)が作った「封戸」や、その交易に関する公文書です。現在は文書が五つに分離し、欠損もありますが、残る記述から復元できる部分もあります。

 封戸とは、天皇が皇族や貴族、大寺院に与える給与の一種で、税を割り当てられる家のことです。もらう側の「 封主(ふしゅ) 」は、税として納められる稲のすべてか、半分を受け取ります。

講演する磐下氏
講演する磐下氏

 交易帳には、相模国の8郡に13か所の封戸が設定されていることや、課税対象となる田の面積、納入される稲の量などが書かれています。最初に国の総計があり、続いて光明皇后や日本書紀の編集にあたった 舎人(とねり) 親王ら、封主ごとの数値が並ぶ形式で、ここから田1段あたりの税率も計算できます。

 交易帳にある稲の量には端数がありません。数値を操作しているからで、現実の田の面積に応じて支給されたわけではないのです。なぜ、こんな面倒な制度を運用したのでしょうか。

 645年の大化改新で、豪族らが経済基盤として人々を所有する「 部民(べみん) 制」が廃止されました。部民制は分権的な国家体制でしたが、中央集権体制への転換を目指して、代わりに導入されたのが封戸の制度だったと考えられます。

 交易帳には、日本の国家の形成過程が表れています。一義的には律令制の公文書ですが、歴史的背景に目を向けると、ひと味違った見方ができるのです。

紙巻きの芯 高い機能性

 正倉院に伝わる (ふで) は18本。芯にあたる毛に紙を巻き、さらに外側に毛を巻く「有芯筆」で、毛だけで穂の部分を作る現代の「無芯筆」とは異なる。今年の正倉院展では、このうち4本が出展される。

出展される筆の先端部分。毛がなくなり紙部分が露出しており、当時の構造がイメージできる
出展される筆の先端部分。毛がなくなり紙部分が露出しており、当時の構造がイメージできる
出展宝物のうち、毛がよく残っている筆の先端部分
出展宝物のうち、毛がよく残っている筆の先端部分

 正倉院の筆は、独特の形状や装飾性の高さから実用的なものかどうかが不明だったが、宮内庁正倉院事務所が2016~19年に実施した調査で、高い機能性が確かめられた。

 構造をX線などで分析したほか、同様の筆を複数試作し、実際に使用。その結果、芯の部分に紙と毛が巻かれることで穂先が強く支えられ、太い線や細い線を表現しやすくなることが分かったという。

大阪講座
9月28日
協力・正倉院文書研究会
会場・読売新聞大阪本社(大阪市北区)

 *大阪本社文化部の持丸直子、早川保夫、藤本幸大、松浦彩が担当しました。

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使い方
2469395 0 第73回正倉院展 2021/10/25 17:30:00 2021/10/26 09:52:06 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/10/20211025-OYT8I50024-T.jpg?type=thumbnail

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