【宝物のちから】下…先人を知り 心豊かに

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 ようやく秋めいてきた奈良市の奈良国立博物館周辺は、資材を運ぶ車が往来し、正倉院展の準備が進む。

 コロナ禍の中では2度目の開催となる。昨年は各地でイベントの中止が相次ぎ、同博物館も春に3か月間休館を余儀なくされた。正倉院展に関しても中止すべきではないかという慎重論もあった。開催への決断を促したのは、「こういう時こそ多くの人を元気づけるために開くべきだ」という考えからだった。

第1回展が開かれた奈良国立博物館の旧本館(手前、現・なら仏像館)。奥の2棟は近年の会場となっている新館(奈良市で、本社ヘリから)=尾崎孝撮影
第1回展が開かれた奈良国立博物館の旧本館(手前、現・なら仏像館)。奥の2棟は近年の会場となっている新館(奈良市で、本社ヘリから)=尾崎孝撮影

 正倉院展が初めて開かれたのは終戦翌年の1946年秋だった。戦中、被災を避けるため同博物館の前身・奈良帝室博物館に「疎開」していた正倉院宝物を元に戻す際、市民から公開を求める声が上がったのがきっかけだ。

 博物館前は行列ができ、計20日間で14万7487人が詰めかけた。「敗戦直後の虚脱した人々の心に初めて一抹の光らしいものが し込んだ感じで、国家の事業としても時宜を得た催しであった」。新聞記者として取材した作家、井上靖は著書につづった。

 87歳の森本公誠・東大寺長老は小学6年の時、行列に並んだ。陸軍軍人だった父が戦犯として捕まり、貧しさと空腹の日々だった。なぜ訪れたのか覚えていないが、感激した記憶はかすかに残る。

 「日本人はみな打ちひしがれていた。1200年も前のすばらしい宝物を目にして意気消沈した魂を呼び覚ますことができたはずだ」

出展される「青斑石硯」。正倉院宝物で唯一の硯だ
出展される「青斑石硯」。正倉院宝物で唯一の硯だ

 井上洋一館長は、かつてシリアなどの遺跡の発掘や修復に携わり、紛争で文化財が破壊されるのを目の当たりにしてきた。「正倉院展は平和の尊さを教えてくれる。これほど長い間、大切に残された文化財は世界にもない。そこに凝縮された記憶や物語に触れることで、心を豊かにしてほしい」と願う。

 今回、第1回展の宝物33件の一つが出展される。青い蛇紋岩と精巧な木画細工で彩られた「 青斑石硯せいはんせきのすずり 」という正倉院宝物唯一の硯だ。

 森本さんは語る。「宝物に出あうことで、先人たちが数々の苦難を乗り越えてきたことがわかる。私たちにも、それができないことではないと教えてくれる」

(大阪本社社会部・小栗靖彦、編集委員・赤木文也が担当しました)

=第73回正倉院展=
 10月30日(土)~11月15日(月)
 奈良国立博物館
 【特別協力】 読売新聞社
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使い方
2489889 0 第73回正倉院展 2021/11/02 14:45:00 2021/11/02 14:47:53 正倉院展が開催される奈良国立博物館。手前は旧本館(3日、奈良市で、本社ヘリから)=尾崎孝撮影 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/11/20211102-OYT8I50023-T.jpg?type=thumbnail

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