<PR>「福島をワインで元気に」農業を支える新しい形

2016年3月11日掲載

ひと夏のぶどう狩り客が2人に

 福島県郡山市の橋本寿一さん(71)は、市内で農家を営む4代目で農業法人「橋本農園」の取締役を務める。農園では、約25ヘクタールの田んぼでコメ120トンを栽培し、40年ほど前からは、約1.2ヘクタールの畑でリンゴやブドウなど果樹も育てていた。

 夏の「ぶどう狩り」には、毎年300人前後が訪問。コメも全国の客と直接取引し、順調な経営が続いていた。

 東日本大震災は、そんな日々を崩壊させた。風評被害にあい、福島県内の農産物というだけで需要は減り、2011年夏のぶどう狩り客はたったの2人。市内の直売所でも、売れ行きは芳しくなかった。コメも深刻で、60キロ当たり1500円も卸値が落ち込んだ。

壁にぶつかってあきらめるか

 果樹園の一部を閉鎖することを検討していた2014年の秋、橋本さんのもとに、「ワイン用のブドウを生産しないか」という誘いが舞い込んできた。郡山市内にワイナリーを作る計画が進んでいたのだ。

 橋本さんは、この話に乗った。

 風評被害はようやく収まりつつあった。しかし、震災によって弱った地元の経済の足腰はまだ弱い。地元にワイナリーを設立して、ワインを製造すれば、農産物に新たな付加価値をつけることができる。地元の人々に仕事もでき、地元経済が活性化する。震災前に戻るのではなく、新しい形で農業が再生できるに違いない――。そう思ったのだ。

 「壁にぶつかってあきらめるのか、それとも穴を開けて前に進むのか」。協力農家はまだ少ないが、自分は前に進むことにした。

手間は10分の1、新たな雇用も

 橋本さんによると、ワイン用のブドウは生食用に比べて「栽培の手間が10分の1で済む」という。生食用のブドウは、できるだけ均一な大きさの房に育てるために粒を摘んだり、1本の枝になり過ぎないように房ごと摘んだりする必要がある。色味など見た目も重要なため、房に袋をかぶせ、粒を傷つけないように丁寧に収穫しなければならない。

 一方ワイン用は、大きさや形など見た目は問わない。味の良いブドウにするための土壌管理の方がより重要だ。特別な技術や経験がない人にもできる作業が多く、雇用先としての可能性も広がる。成功すれば、農業に挑戦しようという若者が外から来て定住するかもしれないという期待も高まる。

 今シーズンの果実酒を作るためとして、橋本さんは今年、リンゴ約1トンをワイナリーに納入した。ワイン用のブドウを育てるのはこれから。今月末にも、生食用のブドウ栽培をやめて空いた畑に、ワイン用のブドウ苗を植えるつもりだ。

美味い酒を造る

 ふくしま逢瀬ワイナリーは、三菱商事復興支援財団が郡山市などに働きかけて実現した。県内の果樹農家と連携し、原料の生産から加工、販売まで一体的に取り組み、新たな特産品を作ることを目指す。

 震災から5年を迎える3月上旬には、初めての酒が完成した。橋本さんが納品したリンゴを使った、スパークリングワインだ。

 プロジェクトの責任者を務める財団の中川剛之さん(40)は、「スタートしたばかりでおこがましいが」と前置きしつつ、「美味い酒を造り続ければ、自然に広がり、知名度も上がるはず」と意気込む。福島県は桃やリンゴの産地でありながら、これまでそれらを使った酒造りは盛んではなかった。ワイナリーが軌道に乗れば、同様の取り組みが市内、県内に広がっていくかもしれないとの期待もある。

 ワイナリーでは今季、約1万リットル(750ミリリットル換算で約1万3000本)の果実酒を生産する。橋本さんをはじめ、地元農家のワイン用ブドウが収穫できるようになる約3年後から生産量を増やし、将来は年間5万リットルの製造を目指すという。

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