プロ野球も寄席も無観客 あんな音やこんな音【隅田川馬石のやわらか噺】

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元球児にして市民ランナーの真打ちがご機嫌をうかがいます

 落語家の隅田川馬石(すみだがわばせき)でございます。野球少年から高校球児、そして今は市民ランナーをしており、打って走って守れる(はなし)家です。コロナ問題を乗り越えて立ち上がるスポーツを応援しようというこのコーナー、私らしく軟らかーくおしゃべりしたいと思いますので、肩の力を抜いてお付き合いください。

 6月19日に待望のプロ野球が開幕しましたね。新型コロナウイルスの感染予防のために無観客ということで、私もテレビで見ました。開幕戦の巨人-阪神。私は兵庫県の出身ですが、関西にも巨人ファンがたくさんいます。読売テレビさんで「週刊トラトラタイガース」という番組と「好きやねん!ジャイアンツ」という番組を同じ曜日に放送していたことがありました。私は5歳の時の長嶋さん引退をおぼろげに覚えていますよ。

いきなり空気が変わった?

無観客で開幕したプロ野球(6月19日、東京ドーム)
無観客で開幕したプロ野球(6月19日、東京ドーム)

 それで無観客試合ですが、選手の声や打球音など、様々な音がはっきり聞こえるのがいい。特に捕手のキャッチングの音。パチーンと響いて、やっぱりプロはすごいですね。時々スピーカーで流す応援の音声はどういうタイミングでやるんですかねえ。ホームチームがチャンスの時かな。七回裏、巨人が走者を二塁に進めたら突然、「チャンステーマ」が聞こえてきて、あれっと思ったらパカーンと(吉川尚選手の)逆転2ラン。観客がいる時にかなり近い状況が演出されているそうで、応援の音で空気がいきなり変わった感じでしたね。打った方は集中できた。打たれた方は……ちょっと気の毒でした。

 我々も自粛期間に無観客の寄席で落語をしゃべりましたが、お客さんの笑い声を流そう……なんて話は聞きませんでした。受けるところで受けなかったり、予想してないところで笑いがあったり、そういうお客さんの反応を見ながら()の取り方とかで話を進めていくのが私たちの商売ですから、寄席で音を流すのは野暮(やぼ)でしょうね。

 選手にとって無観客っていうのはどういう気持ちなのでしょうか。(ホームチームの場合)練習中はお客さんがいないけれど、プレーボールでは満員のスタンドだから、そこで戦闘モードに入るんでしょうね。私も無観客の寄席でやった時、座布団に座ってお辞儀をして、顔を上げた時にお客さんがいない空間は衝撃的でした。いないんだな、と頭で分かっていてもです。

 無観客では、落とし噺より(笑いどころの少ない)人情噺の方が集中できます。鈴本演芸場では3席やって、トリの日に「お初徳兵衛」という人情噺をかけました。こういう噺だと、興味のあるお客さんとそうじゃないお客さんがまじるので、普段はそこを気にしながらやっていますが、客席に誰もいないので、逆に集中してやり切ることができました。

聞こえちゃいけないのに

 ある監督さんが「捕手が構えた位置など、実況アナウンサーの声が聞こえる」と審判に指摘したというニュースがありましたね。臨場感をもたせるために抑揚をつけて、それで自然に声が大きくなっちゃったんでしょうね。無観客ならではの珍プレーですよ。

 想定外といえば昔、無観客じゃないけれどお客さんの少ない寄席で、楽屋の声が客席に聞こえてしまうことがありました。でも、文句を言うのは恥ずかしい。「楽屋の音が気にならないくらい、客を受けさせてみろ」というのが先輩師匠方の言い分なのかもしれません。これも修業なんですね。

 最後に私が二ツ目時代の笑い話をひとつ。浅草(演芸ホール)の高座でしゃべってたら、袖のお囃子(はやし)部屋から「コツコツ」っていう音が聞こえてきた。寄席では、前の演者さんがやった噺、あるいは登場人物が似通った噺でも後に出てくる人は避けなければいけません。それでも、うっかりしていて同じような噺になりそうな時、お囃子さんが小さく音を立てて「警告」してくれることがあり、てっきり噺が重なったんだと思った。高座が終わってお囃子さんに「あたし、同じ噺をしました?」って聞いたら、「あら、ゆで卵の殻を割ってたの」だって。お弁当を食べてたんですね。

 プロ野球は7月10日からお客さんを少しずつ入れていくようですね。アスリートの皆さん、まだしばらくは満員のお客さんの前でのプレーは難しいかもしれませんが、一流の音でファンを楽しませてください。そろそろお時間のようです。次回もお付き合いのほどをよろしくお願いいたします。

プロフィル
隅田川 馬石( すみだがわ・ばせき
 1969年兵庫県生まれ。石坂浩二さんの主宰劇団に所属した後、93年10月に五街道雲助に入門して前座名「わたし」。97年9月にニツ目昇進で「佐助」。2007年3月に真打ちに昇進して四代目「隅田川馬石」を襲名。ゆったりと軟らかな語り口で滑稽噺(こっけいばなし)から師匠譲りの芝居噺、人情噺も手掛ける古典落語の名手。高校時代は野球部で9番・サード。趣味のマラソンではフルで4時間を切る「サブフォー」の実力者でもある。高座名は、馬をつなぎとめるのに使われたと言い伝えられる隅田川沿いの駒止石(こまどめいし)に由来する。十代目金原亭馬生を大師匠に持ち、落語界では「馬派」とも呼ばれる。

受賞歴
1999年 北とぴあ若手落語家競演会奨励賞
2007年 第12回林家彦六賞
2012年 文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞

<馬石師匠の落語会>
7月28日19時 東京・日本橋社会教育会館8階ホール(事務局090・5537・8449)
無断転載・複製を禁じます
1330533 0 馬石のやわらか噺 2020/07/09 15:00:00 2020/07/09 15:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/07/20200703-OYT8I50049-T.jpg?type=thumbnail

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