あちこち痛い初マラソン 「大事なところ」は守りましょう【隅田川馬石のやわらか噺】

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元球児にして市民ランナーの真打ちがご機嫌をうかがいます

 落語家の隅田川馬石(すみだがわばせき)でございます。野球少年から高校球児、そして今は市民ランナーをしており、打って走って守れる噺家です。コロナ問題を乗り越えて立ち上がるスポーツを応援しようというこのコーナー、私らしく軟らかーくおしゃべりしたいと思いますので、肩の力を抜いてお付き合いください。

 大病を患った後輩の経験談に一念発起して「落語は体力勝負」とジョギングを始め、3年たった2008年に初めてフルマラソンに挑戦しました。東京・荒川市民マラソン(現・板橋Cityマラソン)でしたが、これが多難でした。アスファルトを離れて草むらを走って前の人を無理やり追い抜いたり、ペース配分もないまま無謀に飛ばしたりで、途中で足が痛くなっちゃった。底の薄いプロ仕様のシューズで軽くていいなと思ったけれど、こういう靴は足に負担がかかります。5時間で走る人は厚底で防備の整った靴じゃないとひざを痛めるとか、そういうことが分からなかった。

リズムと持久力でハードル突破

どうやったら体が楽に感じるか、そんなことを考えながら⾛ってます。噺の稽古はするかって? 初マラソンでやってみましたが、途中でそれどころじゃなくなって、やめました(隅⽥川の駒形橋で)
どうやったら体が楽に感じるか、そんなことを考えながら⾛ってます。噺の稽古はするかって? 初マラソンでやってみましたが、途中でそれどころじゃなくなって、やめました(隅⽥川の駒形橋で)

 親指の爪がはがれるんじゃないかと思うくらい痛くなって、靴がきつく感じて靴下を脱いだ。でもどうやっても痛くて途中から、はだしになりました。靴持って走ってたら、沿道から「アベベだ」って声かけた人がいた。よっぽど古いテレビ見てんですねえ。

 砂利道みたいなところでまた靴をはいて、引っぺがした靴の中敷きを持って走ってたら、沿道から今度は「あらあ、底抜けたの?」だって。それが初マラソンの思い出です。ほんと、死にそうでしたよ。同じ大会に出ていた先輩の三遊亭金也(きんや)師匠に、草むらを走っているのを見られていて「ああいうのがダメなんだ、って思ったらお前だったよ」って後で言われました。

 その金也兄さんから、初マラソンの前に「フル走るんだったら、乳首に絆創膏(ばんそうこう)を貼っておけよ」って言われたんです。冗談かと思ったけど、やっていて助かった。貼っておかないと先っぽがシャツと擦れて炎症を起こすくらい、42・195キロは過酷なのです。

 走っていると、絶対にどこか擦りむいたり、痛くなったりするでしょう。次の年にはそこにテーピングとかで対策をする。その積み重ねですね。これまでに完走9回。乳首から始まって、痛くなるところを全部把握しました。

 タイムも最初は5時間以上かかって、何回か走って4時間台まで縮めたけれど、そこから伸び悩みました。そんなころ、ふくらはぎを痛めて、日々のジョギングで息を整えながらゆっくり走ったことがあって、2回吐いて、2回吸う。このリズムを崩さずに次のフルマラソンを走ったら、4時間を切りました。速く走ろうとするよりも、リズムと持久力が大切です。いまのベストタイムは3時間43分22秒です。

そして、タイム短縮の裏ワザは?

 無駄なタイムをいかに減らすかも大事です。一番の問題はトイレ(小)。レース中に2~3回行きますが、行列なんですよ。並んでると5~6分かかるので、時間がもったいない。そこで、穴場のトイレの場所を前もって調べておく。大会が設置する仮設トイレじゃなくて、元からあるトイレです。そういうとこは意外と知られていないから、すっと済ませられる。板橋Cityマラソンは毎年走っているので、トイレの場所は完璧に私の頭に入っています。

 その昔、五輪金メダリストのフランク・ショーター(米国)という選手は日本でのレース中、トップ争いをしていてトイレに行きたくなった。沿道のファンが振る紙の小旗をもぎ取り、脇道に走りこんで用を足した後にレースに戻って優勝したそうです。フルマラソンとなると、少しのアクシデントぐらいはどうにでもなるんですね。

両腕を前後に繰り返し振って…落語で走るしぐさはこうやります
両腕を前後に繰り返し振って…落語で走るしぐさはこうやります

 落語で走る場面というと、「富久(とみきゅう)」とか「花見の仇討(あだうち)」ですね。ほかの噺でも、演出で走る場面を入れると躍動感があって意外と受けます。「宿屋の富」で富くじに当たった男が宿に戻るシーンなんかね。なんでいいのかなって思ったら、チャップリンの映画でも走ってる場面がたくさんある。こういう効果なのかなと思ったりします。

 フルマラソンは、35キロ過ぎると体力も精神力も極限状態まで行くんです。体のきつさとは逆に陶酔感を覚える「ランナーズハイ」って言葉もありますが。そういう状態で落語をやれば良いものができるのではないかと、ふと思うことがあります。落語も無の境地を目指す――。でも、お客さんはそんな状態の人の噺で笑えるのだろうか。方向性は間違っているかもしれないけれど、そうなったらどうなるかという興味はありますね。

 そろそろお時間です。次回もお付き合いのほどをよろしくお願いいたします。

プロフィル
隅田川 馬石( すみだがわ・ばせき
 1969年兵庫県生まれ。石坂浩二さんの主宰劇団に所属した後、93年10月に五街道雲助に入門して前座名「わたし」。97年9月にニツ目昇進で「佐助」。2007年3月に真打ちに昇進して四代目「隅田川馬石」を襲名。ゆったりと軟らかな語り口で滑稽噺(こっけいばなし)から師匠譲りの芝居噺、人情噺も手掛ける古典落語の名手。高校時代は野球部で9番・サード。趣味のマラソンではフルで4時間を切る「サブフォー」の実力者でもある。高座名は、馬をつなぎとめるのに使われたと言い伝えられる隅田川沿いの駒止石(こまどめいし)に由来する。十代目金原亭馬生を大師匠に持ち、落語界では「馬派」とも呼ばれる。

受賞歴
1999年 北とぴあ若手落語家競演会奨励賞
2007年 第12回林家彦六賞
2012年 文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞

無断転載・複製を禁じます
1475139 0 馬石のやわらか噺 2020/09/15 06:00:00 2020/09/14 11:18:12 https://www.yomiuri.co.jp/media/2020/09/20200903-OYT8I50045-T.jpg?type=thumbnail

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