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積み重ねて花開く…アスリートの10年、噺家の10年【隅田川馬石のやわらか噺】

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 落語家の隅田川馬石でございます。野球少年から高校球児、そして今は市民ランナーをしており、打って走って守れる噺家(はなしか)です。コロナ禍を乗り越えて立ち上がるスポーツを応援しようというこのコーナー、私らしく軟らかーくおしゃべりしたいと思いますので、肩の力を抜いてお付き合いください。

元球児にして市民ランナーの真打ちがご機嫌をうかがいます

初の2時間4分台の鈴木選手(右)世界での走りも楽しみです。サブ20を100回の川内選手(左)まさに鉄人!
初の2時間4分台の鈴木選手(右)世界での走りも楽しみです。サブ20を100回の川内選手(左)まさに鉄人!

 最近、マラソンで大きな話題が2つありました。一つは2月28日のびわ湖毎日マラソンで鈴木健吾選手(富士通)が2時間4分台の日本新記録を出したこと。もう一つは川内優輝選手(あいおいニッセイ同和損保)が2時間20分以内(サブ20)を100回達成してギネス世界記録に認定されたことです。

 川内選手は応援したくなりますね。みんな気になるんですよ。これだけの一流ランナーが年間10回もフルマラソンを走って、サブ20を100回。回数だけが目標じゃなくて、息長く走り続けていたら大記録になったっていうところがスゴイです。

 日本記録を出した鈴木選手。2時間4分台は、100メートルの9秒台と同じくらいの快挙だそうで、世界のトップのファイナルに立てるわけですね。でも報奨金の1億円はもらえないのが残念。陸上連盟の資金がなくなっちゃったそうです。もっとも、ボーナスをもらえると思って走ってたら、変な欲が出てこの記録は出なかったかもしれませんし、いろんな好条件が重なったそうです。1億円もらえなかったのも好条件の一つだったと思うよりほかないでしょうね。悔しいから…。

 それから、コロナの影響で海外からの招待選手がいなくて、世界トップ選手の揺さぶりがなかったのも良かったそうです。揺さぶられると精神的に参るらしいですよ。

 勝負に勝つ人は周囲への「圧」がすごいそうですね。この人にはかなわないと思ったら、本当にかなわない。落語の世界でも、この人の芸はマズイなと思うと、ちょうど自分ぐらいだそうで、同じぐらいだなと思うとかなり上で、この人うまいなと思う人ははるか遠くにいるそうです。恐ろしいですね。

 動物を見ていてもそうです。目を見てにらみあって、実力差が分かったら「ゴメンナサイ」で、なわばりを渡す。野生では命が第一ですから。

陸上100メートル走は格闘技だと聞いたことがあります。隣のレーンに9秒台の選手がいると、その選手の醸し出す「圧」はものすごいんでしょうね。

川内、イチロー、琴奨菊、藤井聡太…

 ここ最近は設楽悠太選手、大迫傑選手(2回)、そして鈴木選手と、男子マラソンの日本記録が3年間で4回塗り替えられましたが、その前は高岡寿成さんの日本記録が10年以上破られていませんでした。厚底シューズで速くなったと言われますけど、でも、つらい練習をして本番で厚底を履けば、誰でも速く走れるわけではないそうです。シューズに対応した練習が必要で、それにあった筋肉を鍛えなければいけないと、川内選手が言ってました。

 何でも10年ひと区切りだと感じます――。

どの世界でも10年ひと区切り、道を究めるための大事な期間です
どの世界でも10年ひと区切り、道を究めるための大事な期間です

 10年以上破られなかった日本記録が更新されると、男子マラソンは一気に高速化の時代に突入して、日本のお家芸のマラソンがますます楽しみになりました。川内選手は10年以上頑張って、100回のサブ20達成がギネス記録。イチロー選手は10年連続200本安打の大リーグ記録。また、大相撲では2016年初場所での琴奨菊関の初優勝が、相撲界に風穴を開けたような気がしました。将棋の藤井聡太二冠は将棋を覚えてから10年で公式戦最多記録の29連勝を達成。その時、ふと、今から将棋を覚えて10年やればそれぐらいになるのかなと錯覚しました。

 たかが10年、されど10年。

 これは噺家の世界ですが、入ってすぐ、大先輩の師匠に言われたことがあります。「2~3年目で器用でうまい前座でも、4~5年やった前座にはかなわない」

 それはこういうことです。入門から10年までは、1年1年地道にコツコツやることが大事で、急にうまくなろうと思ってもなれるものではない。実力が年数を追い越すことはないが、それが10年経つと年数に関係なく差がついてくる。そこからが勝負なのだ、と。なるほどなあと思いました。

 我々の世界は、入門して3~4年で前座から二ツ目になり、13~15年目ぐらいで真打ちになります。「10年」というのは二ツ目生活からいよいよ真打ちが見えてくる時期ですね。

「あと10歳若かったら」…10年前もそう言ってた?

 自らを振り返るとそう思います。前座に入って1~2年のころ、高座で噺がうまくいったなと思っていても、立前座(たてぜんざ)(寄席の楽屋にいる前座の筆頭格)の(あに)さんたちのやる噺の方がお客さんにウケるんです。その当時は分からなかったのですが、後になってその時の自分の録音を聞くと「こりや、駄目だ」と分かります。

 入ってきて「うまいな」と思う前座でも、2~3年経つと「全然ウケない」と悩んでいることがある。そういう時にはこの言葉はいいと思います。年数は越せないんですね。

 真打ちになって、寄席で普通に使ってもらえるようになり、10年間走り続けるのは大変です。真打ちになって10年、さらにそこから10年間が、噺家として一番、脂の乗っている時じゃないかと思います。入門してからだと25~35年くらい。私も1993年に入門して今年で29年目。「まさに、今だ」と自分に言い聞かせています。

 よく「俺が10歳若かったら」っていう人がいるじゃないですか。また10年たって会うと、同じ事を繰り返している。まあ、それが人間というものですが。

 ひと月に噺をひとつずつ覚えていけば、10年で120席、20年で240席の噺が覚えられます。それから、自分のものにした噺を30席に絞り、さらにその中で、他の誰にも負けない噺を3つこさえる。そういう噺をひとつ身につけるのに10年かけるとすると、3つで30年。そうすると私はもう80歳過ぎています。その時に思うんでしょうね、「俺が10歳若かったら」って。

 そろそろお時間です。次回もお付き合いのほどをよろしくお願いいたします。

※浅草演芸ホール3月下席(21~30日)、出演します。19時15分上がりです。

プロフィル
隅田川 馬石( すみだがわ・ばせき
 1969年兵庫県生まれ。石坂浩二さんの主宰劇団に所属した後、93年10月に五街道雲助に入門して前座名「わたし」。97年9月にニツ目昇進で「佐助」。2007年3月に真打ちに昇進して四代目「隅田川馬石」を襲名。ゆったりと軟らかな語り口で滑稽噺(こっけいばなし)から師匠譲りの芝居噺、人情噺も手掛ける古典落語の名手。高校時代は野球部で9番・サード。趣味のマラソンではフルで4時間を切る「サブフォー」の実力者でもある。高座名は、馬をつなぎとめるのに使われたと言い伝えられる隅田川沿いの駒止石(こまどめいし)に由来する。十代目金原亭馬生を大師匠に持ち、落語界では「馬派」とも呼ばれる。

受賞歴
1999年 北とぴあ若手落語家競演会奨励賞
2007年 第12回林家彦六賞
2012年 文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞
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使い方
1910964 0 馬石のやわらか噺 2021/03/15 17:00:00 2021/03/15 17:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/03/20210310-OYT8I50075-T.jpg?type=thumbnail

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