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聖火も落語も 火は人をつなぐコミュニケーション【隅田川馬石のやわらか噺】

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 落語家の隅田川馬石でございます。野球少年から高校球児、そして今は市民ランナーをしており、打って走って守れる噺家(はなしか)です。コロナ禍を乗り越えて立ち上がるスポーツを応援しようというこのコーナー、私らしく軟らかーくおしゃべりしたいと思いますので、肩の力を抜いてお付き合いください。

元球児にして市民ランナーの真打ちがご機嫌をうかがいます

無観客で行われた出発式典からスタートした最初のランナーは、女子サッカーの「なでしこジャパン」(2021年3月25日、福島県のJヴィレッジで)
無観客で行われた出発式典からスタートした最初のランナーは、女子サッカーの「なでしこジャパン」(2021年3月25日、福島県のJヴィレッジで)

 オリンピックの聖火リレーが始まりましたね。新型コロナウイルス感染拡大防止の対策をとった中での福島県の初日のスタートをテレビで見ていました。1人の走る距離は200メートルで、意外と短いんだなと思いました。

 調べてみると、57年前の前回は、1キロ以上あるトーチをしっかり掲げて距離も1キロ以上を走ったそうです。よっぽど運動のできる人じゃないと大変だったでしょうね。

こういう世の中だから、盛り上がったらいけないのでしょうが、沿道にはけっこう人が出ています。やっぱりみんな見たいんでしょう。

 有名人も走りますが、これは大人が見て楽しむものですね。子供心には、火のついたものを持って走るという行為が楽しいような気がします。

この日だけは許された! 楽しい思い出

 小学生のころ、学校でキャンプファイヤーをやるので、めいめいが家からトーチを持って行ったのを思い出します。前日に山で木を切ってきて、その木に雑巾をくくりつけ、灯油をしみこませてトーチを作る。ふだんは子供が火を持つなんて絶対にやってはいけないけれど、この日だけは許されるというのでテンションが上がりました。

 また、子供の頃に遊んだ手持ち花火も楽しかった。「火をちょうだい」なんて言いながら、花火と花火で火を付け合いましたよね。結局、火を移しているだけでその1本が終わっちゃったりして……。

 今のトーチはほとんど煙が見えませんが、昔の写真を見ると、煙がもくもくと出ています。煙はしばらく残るから記憶にもしっかり焼きつくのでしょう。現代の聖火リレーはショー的な要素もありますが、昔はトーチのシンプルなデザインからしても、力強さというか、いかにも、っていう感じがありました。

昔は力強かった!東京・泪橋付近を走る聖火リレー。2階の窓も鈴なりで、白い煙が印象的です。(1964年10月7日)、右上は57年前のトーチ。
昔は力強かった!東京・泪橋付近を走る聖火リレー。2階の窓も鈴なりで、白い煙が印象的です。(1964年10月7日)、右上は57年前のトーチ。

 火を使う動物は人間だけです。そういう意味でも、火は我々のコミュニケーションの手段の一つです。お互いに息を合わせて火を移す。聖火リレーでは、走っていって渡すという、日本人の好きな駅伝的な要素も加わります。

落語と火 ついたり消したり

 落語にもよく火が登場しますよ。「真打ち」という言葉の由来は諸説ある中で、昔の寄席で最後の出演者が高座脇に立っている照明用のろうそくの芯を打った(切って消した)ことから、おしまいに出てくる実力者の事を「芯打ち」、転じて「真打ち」と呼ぶようになったという説が広く知られています。

 桜の時期に演じられる「花見の仇討(あだう)ち」という噺では、能天気な江戸っ子が花見の見物客をあっと驚かそうと、余興で仇討ち芝居を計画します。敵役(かたきやく)の浪人者がたばこを吸っているところに仇討ち役の巡礼兄弟が火を借りにくるという筋立てがお芝居のきっかけになりますが、相手がさむらいでも、火を借りることができた……ということは、火を介して身分を超えたコミュニケーションが成立したってことなんでしょうね。

 さて、聖火リレーです。始まった当初に火が消えちゃったことがあったそうで、いろいろハプニングもあるでしょうが、まあまあ、その辺は大目に見ましょうよ。火というのは消えるものなんですから。

 落語の名作「死神」のサゲ(落ち)も、火が消えます。一番ポピュラーなのは、死神をだました男が「この短くて消えそうなろうそくはおまえの命だ。消えると死ぬぞ」と死神に脅かされ、震える手で新しいろうそくに火を移そうとして「あっ 消えた」というやつ。

 ほかにもいろいろな終わり方があります。火を移せたけれど、うっかりくしゃみをして消しちゃうとか。私の師匠の五街道雲助(ごかいどうくもすけ)の一つのサゲに、新しいろうそくに移った火を、死神が笑みを浮かべながら吹き消すという、何ともブラックな……。どのように火を消すか、その日の気分でふっと思いつくかもしれませんね。

これが火焔太鼓。かなり大きいんです。
これが火焔太鼓。かなり大きいんです。

 この噺のサゲは噺家の演出の腕の見せどころでもあり、お客さんも楽しみなところがあります。私はネタおろしで一度やったっきりで、いい消し方を思いついたらまたやりたいですね。

あの「火焔太鼓」が開会式にあった

 「火」のつながりでもう一つ。昭和の名人、古今亭志ん生師匠の十八番の演目に「火焔太鼓(かえんだいこ)」があります。1964(昭和39)年東京オリンピックの開会式では、国立競技場の最終聖火ランナーが聖火台に上っていくバックスタンドの階段の入り口に、一対の火焔太鼓(大太鼓)が飾られていたんです。皆さん、ご存じでしたか? 落語では担いで行きますが、これはとても担げませんね。

 聖火リレーは7月のオリンピック開会式までの長丁場。困難を乗り越えてリレーが続く限り、希望は持ちたいですね。

 そろそろお時間です。次回もお付き合いのほどをよろしくお願いいたします。

※浅草演芸ホール5月上席(1~10日)、出演します。17時40分上がり(交互出演)です。

プロフィル
隅田川 馬石( すみだがわ・ばせき
 1969年兵庫県生まれ。石坂浩二さんの主宰劇団に所属した後、93年10月に五街道雲助に入門して前座名「わたし」。97年9月にニツ目昇進で「佐助」。2007年3月に真打ちに昇進して四代目「隅田川馬石」を襲名。ゆったりと軟らかな語り口で滑稽噺(こっけいばなし)から師匠譲りの芝居噺、人情噺も手掛ける古典落語の名手。高校時代は野球部で9番・サード。趣味のマラソンではフルで4時間を切る「サブフォー」の実力者でもある。高座名は、馬をつなぎとめるのに使われたと言い伝えられる隅田川沿いの駒止石(こまどめいし)に由来する。十代目金原亭馬生を大師匠に持ち、落語界では「馬派」とも呼ばれる。

受賞歴
1999年 北とぴあ若手落語家競演会奨励賞
2007年 第12回林家彦六賞
2012年 文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞
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使い方
1986818 0 馬石のやわらか噺 2021/04/15 17:00:00 2021/04/15 17:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/04/20210409-OYT8I50076-T.jpg?type=thumbnail

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