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投げて、打って、守って、走って 二刀流の大谷翔平は漫画を超えた!【隅田川馬石のやわらか噺】

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 落語家の隅田川馬石でございます。野球少年から高校球児、そして今は市民ランナーをしており、打って走って守れる噺家です。コロナ禍を乗り越えて立ち上がるスポーツを応援しようというこのコーナー、私らしく軟らかーくおしゃべりしたいと思いますので、肩の力を抜いてお付き合いください。

元球児にして市民ランナーの真打ちがご機嫌をうかがいます

投げて打ってフル回転。本塁打数1位の選手が先発マウンドに立つのはメジャーの長い歴史でも1921年のベーブ・ルース以来、100年ぶりだった(写真は時事)
投げて打ってフル回転。本塁打数1位の選手が先発マウンドに立つのはメジャーの長い歴史でも1921年のベーブ・ルース以来、100年ぶりだった(写真は時事)

 エンゼルスの大谷翔平選手、スゴイですね。海をわたって4年目にして、「二刀流」が大きく花開きました。

 二刀流っていう言葉は昔からありますが、大谷選手の活躍で大きく注目されるようになりました。最初は無理だとも言われましたけど、日本ハムがえらいですね。日本球界からメジャーの世界で成功しました。

 子供のころ原っぱでやった草野球では、誰しも「エースで四番」をやりたがりましたから、みんな「二刀流」なんですよ。高校野球でも「エースで4番」はいますもんね。でも、プロの世界で実現させるとなると、これは常識ではないことのようです。「こういう人がいたらすごいだろうな」っていう想像みたいなことを実際にやってしまった。大谷選手は漫画を超えたってよく言われます。

 投手として今季初先発の試合は指名打者を解除した「2番・投手」でした。試合が終わった後に、すぐにベンチ裏でトレーニングをやっていたそうです。登板した後にベンチに下がらずに外野を守ることも。それを聞くと、自分の身体のことを良く知っていて、本当に野球が好きなんだなと思いました。何かを開拓しようとかじゃなく、打って走って投げることが楽しくて仕方がないような気がします。盗塁までしちゃうんですからね。

 渡米後に肘やひざの手術をしたこともありました。両方やっているからけがをするんだろうと言われそうですが、そうとばかりも言えないような、故障は人間だからつきものだし、それを克服した先に、その後の成功もあるのだと思います。

二兎を追うものは……

1メートル90を超える大きな体でこの俊足ぶり。1試合2盗塁もあった。(AP)
1メートル90を超える大きな体でこの俊足ぶり。1試合2盗塁もあった。(AP)

 ことわざで「二兎を追うものは一兎をも得ず」ってありますけど、大谷選手を見て新しい言葉が浮かびました。

「二兎を追うものが二兎を得る」

やっぱり挑戦しなくちゃいけません。これからもどんなニュースが飛び込んでくるか、ワクワクしますね。

 ほかの世界でも二刀流をいろいろ考えてみました。「囲碁」と「将棋」。もし両方極めれば、これは二刀流でしょうね。そういえば将棋の森内俊之九段は、ボードゲームの「バックギャモン」の世界選手権で上位に入賞したことがありました。2人で競技する「西洋すごろく」と呼ばれる駆け引きのゲームで、日本が強いそうですけど、頭の使いどころが同じだと、違うゲームでも活躍できるんですね。

 「俳句」と「短歌」を区別なく両方やる若い人が増えているそうです。それが発展していけばエッセーになったり、小説になったり。その道で食べている人からは「どっちかにしなさい」と言われそうですが、自分の思ったことを表現するなら何でもいいわけですね。

 私たちの「落語」の世界でよく言われるのが「新作落語」と「古典落語」です。投手と野手ぐらい違うイメージかな。両方やる人は二刀流でしょう。仲間内ではあまりそういうことは言いませんが。

 新作をやる人は「古典にはかなわない」と言うし、古典をやっている人は「俺は作れないから新作はすごい」と言う。お互いに相手を立てる謙虚さがあるように思います。

両方やる人も、古典をやるときには多少引け目を感じるそうです。古典一本でやっている方に申し訳ないという気持ちがあるようです。でも、どちらも落語だから、面白ければいいじゃないか、という人が出てきてもいいですね。

落語の世界の二刀流

 新作落語家は自分で噺を作って演じる、シンガーソングライターみたいなものです。古典派の人は「なぜ新作をやらないのですか」と良く言われますが、誰でもすぐに出来るものじゃないんです。思いついたストーリーをそのままやっても新作落語にはならない。新作派の師匠の話では、「これは受けない、これも受けない」と、高座で傷つきながら一席が出来上がっていくんだそうです。

 古典落語の中にも人情噺と滑稽噺がありますが、これは外野と内野の違いぐらいです。一番わかりやすいのが色合いの違いです。私の師匠の五街道雲助がお座興で、「人情噺・火焔太鼓」をやりました。「火焔太鼓」は滑稽噺の代表ですが、それを人情噺としてやった時にどういう風になるか、ということで。セリフは一緒ですが、滑稽噺だと長屋の生活があっけらかんとして明るい。人情噺の口調でやると、人物の内面が出るので細部の生活感が出る、という具合で、それぞれ面白いものです。

 野球の世界で別の二刀流の先輩といえば、野村克也さん。昔、南海ホークスで現役バリバリの時に監督もやって、それでリーグ優勝もしました。三冠王をとった時はまだ現役一本だったようですが、もしプレイングマネジャーで三冠王も取っていたら、これも漫画の世界ですね。

 さて大谷選手です。本塁打王と最多勝と盗塁王、それに監督も兼任して優勝する。さらに「代打オレ!」で逆転サヨナラ満塁ホームラン。それくらい好き勝手な夢を見させてくれそうな……

 そろそろお時間です。次回もお付き合いのほどをよろしくお願いいたします。

※鈴本演芸場5月下席(21~30日、24日は休館日)で主任(トリ)を務めます。特別企画公演「馬石 昼間の長講」として日替わりの長講ネタ出し。15時15分ごろの出演です。

プロフィル
隅田川 馬石( すみだがわ・ばせき
 1969年兵庫県生まれ。石坂浩二さんの主宰劇団に所属した後、93年10月に五街道雲助に入門して前座名「わたし」。97年9月にニツ目昇進で「佐助」。2007年3月に真打ちに昇進して四代目「隅田川馬石」を襲名。ゆったりと軟らかな語り口で滑稽噺(こっけいばなし)から師匠譲りの芝居噺、人情噺も手掛ける古典落語の名手。高校時代は野球部で9番・サード。趣味のマラソンではフルで4時間を切る「サブフォー」の実力者でもある。高座名は、馬をつなぎとめるのに使われたと言い伝えられる隅田川沿いの駒止石(こまどめいし)に由来する。十代目金原亭馬生を大師匠に持ち、落語界では「馬派」とも呼ばれる。

受賞歴
1999年 北とぴあ若手落語家競演会奨励賞
2007年 第12回林家彦六賞
2012年 文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞
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2052421 0 馬石のやわらか噺 2021/05/15 12:00:00 2021/05/17 15:09:53 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/05/20210512-OYT8I50045-T.jpg?type=thumbnail

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