読売新聞オンライン

メニュー

ニュース

動画

写真

スポーツ

コラム・連載・解説

発言小町

漫画

教育・受験・就活

調査研究

紙面ビューアー

その他

サービス

読売新聞のメディア

購読のお申し込み

読売新聞オンラインについて

公式SNSアカウント

山あり谷ありのオリンピックがまもなく開幕~みんなの思いをひとつにしたい

スクラップは会員限定です

メモ入力
-最大400文字まで

完了しました

 落語家の隅田川馬石でございます。野球少年から高校球児、そして今は市民ランナーをしており、打って走って守れる噺家です。コロナ禍を乗り越えて立ち上がるスポーツを応援しようというこのコーナー、私らしく軟らかーくおしゃべりしたいと思いますので、肩の力を抜いてお付き合いください。

元球児にして市民ランナーの真打ちがご機嫌をうかがいます

4年に1度、ではなく、一生に1度の気持ちで母国開催を応援したい
4年に1度、ではなく、一生に1度の気持ちで母国開催を応援したい

 東京オリンピックの開幕まであと1週間余りとなりました。自国開催で盛り上がらないわけはないのでしょうが、今回は様々な困難があっての開幕ということになりましたね。

 日本には「地の利」が働く自国開催ですが、今回は特に外国の選手たちにコロナ禍での制約がいろいろとありそうです。気の毒で、「大変だなあ」などと思ってしまうのですが、日本代表のアスリートの皆さんは遠慮をしないで欲しい。謙虚な気持ちで相手を思いやって、それで勝ちにいっていただければと思うのです。

 コロナ禍で今までのオリンピックとはだいぶ違う様子になりそうです。私たちは無事に日々の競技が進行することを願うばかりです。ふつうは競技をハラハラ、ドキドキしながら見るものですが、世界最高の競技技術を純粋に観戦している人にとっては最高の楽しみでしょうね。

感動的だった北京のソフト決勝戦

 今回から加わる新競技が4つあります。サーフィン、空手、スケートボード、スポーツクライミング。サーフィンは地元で乗り慣れた自然の波を味方につけられるし、楽しみですよ。

 私の中でのオリンピック名場面はというと、何といっても「元祖・超人」カール・ルイスの陸上男子100メートルです。1984年ロサンゼルス大会で100メートル、200メートル、400メートルリレー、そして走り幅跳びでも金メダルを取りました。ドーピング違反で世界記録をはく奪されましたが、1988年ソウル大会でのベン・ジョンソンの「ロケットスタート」は衝撃的でした。多田修平選手のスタートダッシュに期待してますよ。

 今回復活したソフトボール。2008年の北京大会は忘れられません。米国を破った決勝戦です。ソフトボールは塁間が短いので、選手たちの動きでちょっとリズムが狂うと一塁は簡単にセーフになってしまいますが、あの試合で最後のアウトを取ったサードゴロは日本内野陣の寸分のスキもないプレーでした。感動しましたねえ。4年に1度、頂点に立った勝者の美しさ、神々しさを感じました。

北京五輪のソフトボール、勝者の美しさを感じました
北京五輪のソフトボール、勝者の美しさを感じました

 残念ながら今回、多くの会場は無観客ということに決まりました。こうなると、テレビ観戦ということですが、放送予定が発表になっています。民放ではキー局が系列ごとに日替わりで、朝から晩までぶっ続けで生中継を行うそうです。チャンネルをあちこち変えずにオリンピックが見られるのはテレビ局の協力があってのことだそうです。テレビの良さを実感できるかもしれません。

みんなが一つになって応援するということ

 これはオリンピックではありませんが、2014年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の時。日本が初戦でコートジボワールと戦った日、私は秋田への旅(地方での仕事)でした。道中の新幹線で時々、ラジオの電波が入る。「本田(圭佑)が先制ゴール」「前半は1-0」「日本どうした!」――そんな情報が断片的に聞こえましたが、結果は分からずに秋田駅に到着。

 駅の中の空気が何となく、どんよりとしているのが分かりました。改札口に落語会の世話人の方が迎えに来てくれていて、初めて会って第一声が、

私「負けましたね」

世話人「はい」

 日本は1-2の逆転負けでした。落語会のお客さんも、どこか沈んだ感じでしたが、奮いたたせて高座をつとめました。

 思いはどこでも一緒で、大きな大会で日本中が応援するというのはこういうことなんだなあと思いました。オリンピックも生で観戦することがかなわなくても、みんなが思いを一緒にすることは大切なことでしょうね。

人事を尽くして天命を…いよいよ開幕

 アスリートの方々は4年に一度の舞台を目指して一生懸命練習します。人生のすべてをかけてトレーニングに没頭するということですが、我々の世界でも「生涯に3年間、寝食を忘れて落語のことだけ考える期間があれば、いっぱしの噺家になれる」との言い伝えがありますが、それがなかなか難しい。

 数年に一席は、2時間ぐらいかかる長い噺を覚えることがあります。私の場合、まず、書き起こしたものを3か月間かけて毎日声に出して読む。今度は3か月間、毎日空で通してしゃべる。2時間以上かかるので大変なことですが、通してやる時間がなくても、部分的に分けてとにかく毎日1回、通してしゃべる。「時間をかけたよりも、何回やったかが大事である」とどこかで聞いたことがある。それを自分なりに実行しています。こうして長講一席を仕上げていく。

 それだけ稽古すると、本番の前日には「もう稽古しなくてすむ」とうれしい気持ちになります。アスリートの方々もそういう気持ちになるのでしょうか。ただし、いざ本番で、稽古通りできるかというと、そういうものでもありません。噺の途中で「間」がずれたり、言い回しの順番が逆になったりと、つまずくこともあります。

 でも、そのつまずきでふっとそれまでの緊張が解けて気持ちが楽になり、いい方向に転がることもあります。サゲに近くなると、もっとしゃべっていたいという気持ちになります。

 「稽古通り」にこだわりすぎても、うまくいかないもので、お客さんの前で噺を演じながらその流れに身を委ねて楽しむ。その境地に達することができれば、さらに一段、階段を上ったことになるのでしょうね。

 いよいよオリンピック開幕です。日本で開かれるのですから4年に1回ではなく、人生で1回のオリンピック。そういう気持ちで応援したいと思っています。そして、昨年6月から始まったこのコラムも今回でお開きです。こんな窮屈な時代だからこそスポーツを応援したい、そしてコロナの心配がなくなって思う存分スポーツを楽しめる日が一日も早くくることを願っています。

 皆様、ご愛読いただきましてありがとうございました。

(このコラムは今回で終了します)

プロフィル
隅田川 馬石( すみだがわ・ばせき
 1969年兵庫県生まれ。石坂浩二さんの主宰劇団に所属した後、93年10月に五街道雲助に入門して前座名「わたし」。97年9月にニツ目昇進で「佐助」。2007年3月に真打ちに昇進して四代目「隅田川馬石」を襲名。ゆったりと軟らかな語り口で滑稽噺(こっけいばなし)から師匠譲りの芝居噺、人情噺も手掛ける古典落語の名手。高校時代は野球部で9番・サード。趣味のマラソンではフルで4時間を切る「サブフォー」の実力者でもある。高座名は、馬をつなぎとめるのに使われたと言い伝えられる隅田川沿いの駒止石(こまどめいし)に由来する。十代目金原亭馬生を大師匠に持ち、落語界では「馬派」とも呼ばれる。

受賞歴
1999年 北とぴあ若手落語家競演会奨励賞
2007年 第12回林家彦六賞
2012年 文化庁芸術祭大衆芸能部門新人賞
無断転載・複製を禁じます
スクラップは会員限定です

使い方
2209304 0 馬石のやわらか噺 2021/07/15 17:00:00 2021/07/15 17:00:00 https://www.yomiuri.co.jp/media/2021/07/20210713-OYT8I50037-T.jpg?type=thumbnail

ピックアップ

読売新聞購読申し込み

読売IDのご登録でもっと便利に

一般会員登録はこちら(無料)