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陸上のロードレースは「厚底シューズ」全盛を迎えている。なかでも、米スポーツ用品大手・ナイキが開発したカーボンプレート内蔵モデルは人気が高く、1月の箱根駅伝では9割以上の選手が履いた。近年、急速に普及した厚底に関する研究はまだ少ないが、環太平洋大(岡山市)の吉岡利貢教授(体力学)が薄底シューズとの比較実験で、その効果を数値化した。(平野和彦)

大学で陸上部のコーチを務める吉岡教授は今冬、5人の部員に厚底と薄底でそれぞれ5回連続ジャンプをさせて高さを比較。4人は厚底の方が高く跳べ、うち2人は薄底より平均で6センチ以上高かった。反発性の高い素材やプレートの影響とみられ、「ここまで変わると、まるで別選手」と吉岡教授が驚く結果となった。
さらに、一定のペースで走る男子部員が、1分間に体内に取り込む体重1キロ当たりの酸素量を測定。時速17キロの場合、薄底では57・7ミリ・リットルだったのに対し、厚底では54・1ミリ・リットルと約6%減少した。「弾む力が増すことで、(体が必要とする)エネルギー消費量が抑えられている」と吉岡教授。同じ速度でも、厚底の方が楽に走れることが実証された。

このデータを活用し、薄底でマラソンを2時間29分前後で走る選手の厚底での推定タイムを算出。すると、約8分も短縮できることがわかった。吉岡教授は「想像以上の差。実際の記録は、これだけで決まらないが、(記録更新につながる)ランニングの効率は高まる」と強調する。
世界陸連は昨年、「厚さ40ミリ以下」「内蔵プレートは1枚まで」などと規制し、ロードレースでの使用を容認。レースの高速化が進み、国内外で好記録が相次ぐ。一方で、「練習で鍛えるべきバネをシューズで代用している」と首をかしげる指導者もいる。
「足の保護」に主眼を置いてきた各メーカーも現在は、よりスピードアップできるシューズの開発でしのぎを削る。吉岡教授は「肉体を進化させるという競技の本質から外れてしまわないか」と懸念を示したうえで、「マラソンに挑むトラックの選手が今後、増えるかもしれない」と指摘する。