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今年2月のびわ湖毎日マラソンで、8年ぶりに自己記録を更新したプロランナー川内優輝選手(34)(あいおいニッセイ同和損保)が読売新聞のインタビューに応じた。コロナ禍で活動の場を失ったが、豊富な時間を走り込みやスピード強化の練習に充てた。厚底シューズに履き替えたことも快走の大きな要因になった。自己記録更新はプロに転向した理由の一つでもあり、「自分の信じたことを貫いてきてよかった」と振り返った。(水野友晴)

川内選手が埼玉県庁所属の「公務員ランナー」として世間の注目を集めたのは、2011年の東京マラソンだった。日本人最高の3位に入ると、その後も別府大分毎日マラソン優勝(13年)、ボストンマラソン優勝(18年)など国内外の大会で実績を積み重ね、トップランナーの一人に数えられるようになった。

輝かしい戦歴とは裏腹に、フルマラソンの自己記録は13年の2時間8分14秒(ソウル国際マラソン4位)を最後に、しばらく更新できなかった。「年齢的に更新できるのはあと数年」と感じ始めていた19年春、「世界の舞台でもっと勝負がしたい」と、プロ転向に踏み切った。
しかし、転向後もなかなか結果が伴わなかった。さらに新型コロナウイルス感染拡大の影響で、昨年は出場を予定していた大会が相次いで中止や延期に追い込まれた。
練習拠点の競技場が封鎖されたため「今はスタミナを養成する時期だ」と気持ちを切り替え、人があまりいない時間帯の河川敷を走った。多いときは一日60~70キロ走り込み、自転車で往復100キロ以上を走る日もあった。
緊急事態宣言の解除後は各地で合宿を行い、スピード強化に取り組んだ。学生時代のような練習を重ねたことで「20代の頃と変わらないスピードが出るようになった」と手応えを感じていた。
満を持して昨年12月の福岡国際マラソンに臨んだが、中盤に失速して19位に終わった。「このままだとプロとして引退に追い込まれる」。危機感が募った。
「何かを変えないと未来はない」と感じ、こだわり続けていた薄底シューズを脱いだ。過去に2時間8分台の記録を薄底シューズで出した自負もあったが「試せるものは試したい」と、ブームを迎えている厚底シューズに履き替えた。
厚底シューズを履くライバルを観察して気付いたのは「道具がプラスになることは事実。履きこなす努力が必要だ」ということだった。弱点のハムストリングスを強化し、実業団の練習に参加するなど、課題だったスピードをさらに磨いた。
そうして迎えたびわ湖毎日マラソン。かつては「中盤で落ちたら嫌だ」と弱気になっていたが、当日は「過去一番の練習ができている」と自信に満ちていた。
30キロ付近までペースメーカーのいる集団に付いていき、苦手の中盤を乗り越えると「ベストを出せる」と自分に言い聞かせた。終盤は持ち味の粘りを見せ、自己記録を47秒更新する2時間7分27秒(10位)でゴール。満身
毎年のように日本記録が更新され、高速化が進む男子マラソン。自身について「(2時間)3、4分台というのは見えない」と語るが、記録より順位を狙うレースでは「チャンスはある」。ギネス記録となっている、フルマラソンの2時間20分以内の完走を101回も達成している経験が支えだ。
「現状打破」を座右の銘に掲げる川内選手は「面白いレースを見せたい」と、今後も挑戦を続けていく。