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3人きょうだいの末っ子、「橋本めぐみ」として
3歳上の兄・浩史(37)について回り、お下がりは兄のズボンを好んではいた。幼少期に暮らした家は、和歌山市の山あいにある廃業した小さなホテル。かけっこや相撲、ターザンごっこが大好きで、体は傷だらけ。姉の理恵子(39)は「遊ぶのは決まって男の子。私と人形遊びや、おままごとはしてくれなかった」と話す。
現実を突きつけられたのは、小学5年の時だ。いつも通り上半身裸になって遊ぼうとしたある日、教師と友人の親に叱られた。「お願いやから服を着て。女の子は男の子に胸を見られたら恥ずかしいんやで」
自分は女の子なんだ――。初めて強烈に意識した。

男友達と距離を置き、女子の輪に加わるも、なじめない。中学生になると制服のスカートをはくたび、違和感は募った。でも、周囲に胸の内は明かせない。息苦しさに直面し、不良の道を走った。殴り合いのケンカは日常茶飯事。体育館の裏でたばこを吸い、授業は机に足を乗せて受けた。
それでも、部活のバスケットボールだけは続け、県選抜にも入った。体育科のある和歌山北高では厳しい練習もあり、荒れたグループと距離を置いた。天理大に推薦で進み、すぐに先輩の女性と交際も始めた。順風満帆な日々だった。その冬、恋人にこう訴えられるまでは。
「あんたはしょせん、女。親に認めてもらうのは難しい。子供も作れない。私は普通の幸せが欲しいのに、好きになるほどみじめや」
高校で初めて女性と付き合った時も、交際を隠し通せた。心が男であっても、周囲に気づかれず、うまく生きていけると考えていた。自分の甘さを痛感した。
「自分の存在は好きな人を苦しめる。生きている価値なんかない人間や」
生きる場所探し、北新地へ
自室にあったカレンダーに「泣くな」「それでも笑え」と書き込んでは奮い立とうとするも、外に出られない。酒に溺れた。手首に包丁を当てた。死のうと思うたび、不良だった自分を見捨てず大学に推薦してくれた恩師、親戚に頭を下げて入学金を集めてくれた両親の顔が浮かんだ。死にきれない自分が腹立たしかった。
家族も感づいていた。「何があったんか知らんけど、あんたの居場所やないんちゃうの?」という姉の一言から、休学を決めた。パソコンで調べ、自分を苦しめる心と体の
生きる場所を探した。「性同一性障害の人でも歓迎」。アルバイト募集の文言に目が留まった。面接に向かったのは大阪・北新地。そのバーは地下にあった。(敬称略)
スポーツストーリー「LIFE」
つまずいたり、転んだりしながら競技人生を歩んできたアスリートたちの内面に迫ります。