甲子園中止、夏の夢も消えた…「何を目標に練習すればいいのか」
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球児の夢は、夏もついえた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、春の選抜に続き、8月10日に開幕予定だった全国高校野球選手権大会も20日、中止が決まった。安全と健康を守るための決定だが、夏の甲子園にかけてきた選手たちは涙を流し、悔しさをかみしめた。
■戻りたかった
「覚悟はしていたが、もう一回戻りたかった」。昨夏の甲子園に出場した霞ヶ浦高校(茨城県)の小田倉啓介主将(17)は、うつむいた。同校では、高橋祐二監督(60)が寮生の部員ら50人を集め、「ショックだろうけど、やけにならず次のステップに行くしかない」と語りかけ、中止を伝えた。小田倉主将は「去年、先輩たちに連れて行ってもらい、すごく特別な場所だと感じていたのに……」と悔しがった。
2007年に「がばい旋風」と呼ばれる快進撃で甲子園を制した佐賀北高校(佐賀県)の久保公佑主将(17)は「最後まで大会があると信じていた。どこを目標に練習すればいいのか分からない」と視線を落とした。涙を流す部員たちを前に、本村祥次監督(26)は「目前で目標が消えてしまった生徒たちの悔しさは言い表せない。かける言葉が見つからない」と唇をかんだ。
全国で唯一感染者が出ていない岩手県。夏の甲子園10度出場の盛岡大付高校では、関口清治監督(42)が選手約60人に「甲子園がなくても一生懸命頑張れる人間になろう」と呼びかけた。同校は感染予防に努めながら練習を続け、県内校に限って試合も行っている。小林武都主将(17)は「残念だが、制限があっても練習や試合ができていることに感謝したい」と前を向いた。
■挑戦できない
「戦って負けるより挑戦できないことが悔しい」。過去3回、夏の甲子園に出場した東海大菅生高校(東京都)の玉置
地方大会の準決勝で敗退した昨夏の悔しさをバネに練習に励んできたが、全体練習は今年2月下旬に中断を余儀なくされた。自主練習に取り組む仲間を励まし、自らには1日600回の素振りを課した。
4月に緊急事態宣言が出ると、寮から都内の実家に戻ったが、無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使って部員同士で毎日、練習内容を伝え合ってきた。チームの士気を保とうとしてきただけに、「支えてくれた人にも恩返しできない」と肩を落とした。
昨夏の甲子園で準優勝し、今春の選抜大会への出場も決まっていた星稜高校(石川県)の林和成監督(44)は「3年生は春夏と戦わずして負けたような形になってしまった」と声を落としながらも、「命に勝るものはない。仕方ない」と理解を示した。
「野球が好き」忘れないで
元PL学園高校(大阪)監督の中村順司さんの話「野球は人生の縮図とも言えるスポーツ。投手が投げ、バック全員が必死でボールを追う。走者がいればチーム打撃に徹し、塁に出た走者は全力疾走する。みんなが助け合っている。野球の素晴らしさを学んだのだから、どんな形であれ、野球にかかわっていってもらえたら、これ以上の喜びはない」
茨城県の取手二高校や常総学院高校の監督として春夏3度の甲子園優勝を果たした木内幸男さんの話「感染者が出た場合に誰が責任を取るのかと考えると開催は難しい。できなくても粘る、こつこつ練習する、努力はきっと今後に生きてくる。(3年生は)今後どのような道に進んでも『野球が好きだ』という気持ちを忘れないでほしい」